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1年生1学期

5月22日(土)晴れ 桜庭小織の気遣い

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 テストまであと2日。今日は午後からテスト勉強のために図書館へ行くことにした。やっぱり自分の部屋は普段くつろぐ場所過ぎて気が緩みそうになるし、午前と午後で空気を変えたかったことが理由だ。

 そして、図書館に着くと、心なしかこの前来た時よりも読書スペースに腰を掛けている人が多く見えた。テスト期間はどこの学校も同じようなタイミングらしいし、僕と同じような考えの人が集まっていたのかもしれない。

 それから13時から15時頃まで読書スペースで勉強した後、一旦休憩所に向かう。図書館は展示ホールや会議室と併設されているから、自販機のあるこの休憩所はどちらかといえば仕事で来た人用なのだろう。

 すると、休憩所に椅子には見覚えのある人が座っていた。

「あら? 確かキミは……1年の産賀くん」

「はい。お久しぶりです、桜庭先輩」

 桜庭先輩と顔を合わせたのはGWに入る前の週だったから本当に久しぶりだった。

「名前、覚えていてくれたのね。産賀くんもテスト勉強かしら?」

「はい、家から徒歩で来れるくらい近いので空気を変えようと……桜庭先輩もこの辺に住んでるんですか?」

「私は自転車でそこそこかかる場所に住んでいるから……あっ、遠慮せずに座ってね」

 桜庭先輩のそう言うので、僕はそんなにがっつり話すつもりじゃなかったけど隣に座る。

「産賀くんはこの辺なら南中になるのかな?」

「そうですね。桜庭先輩は……」

「私は西中。夢愛も同じ中学よ」

「じゃあ、清水先輩とは長い付き合いなんですね」

「ええ。小学校から一緒だから。それにしても、あれから夢愛がまた迷惑かけたみたいでごめんなさいね」

 桜庭先輩は申し訳なさそうに言うけど、その表情はいつか見た時と違って怒っている風ではない。基本は柔和な表情の人なんだろう。

「全然、迷惑じゃないですよ。それに会ったの3、4回の話なので……」

「確か合わせて5回って夢愛は言ってたわ。先週は産賀くんの友人にも会ったって」

「具体的に話してるんですね……でも、今週は会いませんでした」

「そうなんだ。残念だったり?」

「えっ? そんなことは……」

 意外な振り方をしてくる桜庭先輩に僕はどう対応していいかわからない。そもそも桜庭先輩は清水先輩以上に知らないし、まともに話すのは今日が初めてだ。

「私が夢愛から聞く話ではそれほど嫌がってないようだけど……本当に迷惑ならはっきり言っていいからね?」

「いきなり絡まれると驚きはしますけど……別に迷惑とは思ってません。見ていると楽しい人ではありますし……」

「なら良かったわ」

 やっぱり桜庭先輩は清水先輩のお母さん的……と言うのが正しいかはわからないけど、凄く気に掛ける人だったみたいだ。そうでなければこれほど心配しない。僕はそう思っていたけど――

「でも……」

「はい?」

「もし……夢愛が産賀くんに飽きて絡まない日が来ても……悪く思わないでね」

「……えっ?」

 いきなり切り出されたその言葉に僕は一瞬固まってしまた。言い終わった桜庭先輩の顔は変わらず柔和なままだけど、ほんの少し怖さや圧がある気がした。

「それって、どういう意味ですか……?」

「夢愛は昔からそういう子なの。何か興味がある人や物を見つけて暫くはそれに対して絡んだり、夢中になったりするけど、ふとした時には興味がなくなってしまう。そうしたら例え何週間も通っていた場所もすっかり行かなくなってしまうわ」

「そういう物や場所……だけじゃなく人もいたと?」

「ええ。同級生だったり、学校に関係ない人だったり色々。だから、産賀くんに絡んでるのもいつも通り一過性のものだと思う」

 そう言われてみると、公園に行ってシーソーで遊んだ時のことが思い出される。あれが急に興味を持って、その日のうちに興味がなくなった例なのかもしれない。

「産賀くんが夢愛の行動を嫌だと思っていないのは本当に良かった。だから、もう少しだけ夢愛に付き合ってあげてね」

「それを……わざわざ言いたかったんですか」

「偶然会えて幸運だったわ。これを言わずに急に夢愛が喋りかけなくなると、びっくりする人もいるから」

「そう……ですか」

「時間を取らせてごめんなさい。そろそろ戻るわ」

 軽く手を振って図書館の中へ戻って行く桜庭先輩を僕はその場で暫く見ていた。別に清水先輩に飽きられることがショックなわけじゃない。元々偶然に出会った人だからいつかは疎遠になるのも仕方ないと思う。
 
 ただ、それよりもその事実を淡々と話す桜庭先輩がいったいどんな気持ちで言っているのか、僕には気になってしまった。桜庭先輩が清水先輩の親友であるとするなら、その親友が迷惑かける可能性があると思っての言葉なのかもしれない。今までも清水先輩に飽きられた物や人物を見てきたから言えることもなのかもしれない。

(じゃあ、桜庭先輩だけは清水先輩に飽きられなかった人って……)

 余計なことを考える前に僕はテスト勉強へ戻ることにした。
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