上 下
41 / 942
1年生1学期

5月14日(金)曇り 岸本路子との交流その2

しおりを挟む
 気が付くとあっという間の金曜日。今日も引き続き文芸部の部室で小説の構想を練る日だ。まぁ、僕はまだ小説にするかどうかすら決まってないけど。

「産賀くん、今日も質問いいかしら?」

 そんな僕と比べて今日も岸本さんは質問をお願いしてきた。現時点でどれくらい進んでいるのかは聞きづらいけど、質問が出るということは何か進展があるのかもしれない。僕が頷くと、岸本さんはノートを開きながら喋りだす。

「男子学生の普段の会話が知りたいの。休み時間とか放課後とか……あっ、メールのやり取りでもいいわ」

「普段の会話か……」

 そう聞かれた僕は自分の普段の会話を思い返してみる。昨日は本田くんと女の子のタイプを話して、いつもの休み時間は大倉くんとゲームについて語り合って、松永とはこの前に広末スズとアリスのどっちが可愛いかという話を……

「……あれ?」

「どうしたの、産賀くん?」

 直近の会話を思い返すと、女の子の話かホビーの話しかしていない。もっと実のある話をしているものだと思っていたけど、そんなことはなかった。
 
 そして、この事実を岸本さんに話すのは……めちゃくちゃ恥ずかしい。格好つけたいわけじゃないけど、こんな話しかしてませんよと自ら宣言するのは下手な罰ゲームよりもきつい気がする。もう少しファッションや世間のニュースに目を向けて普段の会話に取り入れるべきだった。

「産賀くん? わたし、別に面白いエピソードを求めているわけじゃないから、ありのままのことでいいのだけれど」

「あ、ありのままだよね! そうだな……うーんと……」

「……もしかして、答えづらい質問だった?」

「いや! そんなことないよ! ただ、本当に普通の会話しかしてなくて、直前の授業の話とかお腹空いて何食べたいって話題とか……」

「そうなんだ。結構、普通と……」

 真面目にメモをする岸本さんに僕は少しだけ心が痛くなる。岸本さんは文芸部の男子が他にいなくて僕を頼ってくれているのに、差し障りのないことを言っていいのだろうか。岸本さんはリアリティのためにこの質問を考えているんだ。それを引き受けたのは僕なのだから……

「そ、それから!」

「それから?」

「……女の子の話題もある、かな」

 素直に……いや、若干オブラートに包んで答えた。それからすかさず僕は喋り続けようとする。

「後はテレビや動画、ゲームや漫画の――」

「女の子の話題って」

「えっ?」

「どういうもの?」

 しかし、日和って言った部分を深く掘られてしまった。

「それは……芸能人の話題や……どういう子が好みかってやつ」

「……ふーん」

「もっと詳しく言った方がいい……?」

「ううん。今日はこれで十分。ありがとう、とても参考になったわ」

「……それなら良かった」

 岸本さんは特に引いている様子じゃなかったので、僕は胸をなでおろした。

「……いいな」

「岸本さん? まだ何か……」

「何でもない」

 正直、引き受けた時は、単に質問を答えるだけだから簡単な話だと思っていた。でも、いざ聞かれると回答に困る質問が他にもあるかもしれない。これからの質問も岸本さんに引かれないよう正しく答えていこうと思いつつ、普段の会話の質をもっと上げておこうと思うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前ににいる。 奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

サ帝

紅夜蒼星
青春
20××年、日本は100度前後のサウナの熱に包まれた! 数年前からサウナが人体に与える影響が取りだたされてはいた。しかし一過的なブームに過ぎないと、単なるオヤジの趣味だと馬鹿にする勢力も多かった。 だがサウナブームは世を席巻した。 一億の人口のうちサウナに入ったことのない人は存在せず、その遍く全ての人間が、サウナによって進化を遂げた「超人類」となった。   その中で生まれた新たなスポーツが、GTS(Golden Time Sports)。またの名を“輝ける刻の対抗戦”。 サウナ、水風呂、ととのい椅子に座るまでの一連のサウナルーティン。その時間を設定時間に近づけるという、狂っているとしか言いようがないスポーツ。 そんなGTSで、「福良大海」は中学時代に全国制覇を成し遂げた。 しかしとある理由から彼はサウナ室を去り、表舞台から姿を消した。 高校生となった彼は、いきつけのサウナで謎の美少女に声を掛けられる。 「あんた、サウナの帝王になりなさい」 「今ととのってるから後にしてくれる?」 それは、サウナストーンに水をかけられたように、彼の心を再び燃え上がらせる出会いだった。 これはサウナーの、サウナーによる、サウナーのための、サウナ青春ノベル。

女神と共に、相談を!

沢谷 暖日
青春
九月の初め頃。 私──古賀伊奈は、所属している部活動である『相談部』を廃部にすると担任から言い渡された。 部員は私一人、恋愛事の相談ばっかりをする部活、だからだそうだ。 まぁ。四月頃からそのことについて結構、担任とかから触れられていて(ry 重い足取りで部室へ向かうと、部室の前に人影を見つけた私は、その正体に驚愕する。 そこにいたのは、学校中で女神と謳われている少女──天崎心音だった。 『相談部』に何の用かと思えば、彼女は恋愛相談をしに来ていたのだった。 部活の危機と聞いた彼女は、相談部に入部してくれて、様々な恋愛についてのお悩み相談を共にしていくこととなる──

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

下弦に冴える月

和之
青春
恋に友情は何処まで寛容なのか・・・。

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

片思いに未練があるのは、私だけになりそうです

珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。 その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。 姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。 そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。

陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君
青春
俺に青春など必要ない。 新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!? 絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく… 本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ! なろう、カクヨムでも連載中! カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601 なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/

処理中です...