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1年生1学期
5月10日(月)晴れのち曇り 清水夢愛との時間
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5月2週目。GWという大イベントが終わったのでこれからは通常通り……と思いきや再来週にはもう中間テストが始まってしまう。受験以来のテストに少し不安があるので、そろそろノートを見返しながら、来週の僕に本気を出して貰う準備をしておこう。
そんなことを考えながら次々とテストの範囲を言われる授業をこなした放課後。部活がないのでそのまま帰宅しようと思った時だった。
「良助ー!」
自転車に乗って校門にいた僕を後ろから呼び止める声がした。いや、「りょうすけ」という名前だけなら僕じゃない可能性もあるけど、その声は耳馴染みがある人の声なので、恐らく僕であるという確信がある。
振り向くと、いつの間にか自転車の後部に乗ろうとしている清水先輩がいた。
「何やってるんですか」
「え? この感じだと乗せてくれるんじゃないのか?」
「二人乗りは駄目です」
つまらなそうな顔をして降りる清水先輩をよそに、僕は周りを見渡す。一応、清水先輩は三大美人とやらにカウントされているから、一緒にいるところを見られると何か都合が悪いかもしれない。
「何を探しているんだ? 良助はキミしかいないだろう」
「いえ、何でもないです。それで僕に用事ですか?」
「ああ。これから暇か?」
「はい、暇です……はっ!?」
周りを見るのに夢中で素直に答えてしまった。
「そうかそうか! では、付き合ってもらうぞ」
「つ、付き合うとは……?」
「なに、ちょっと行くところがあるんだ。さぁ、出発しよう」
「……だから二人乗りは駄目ですって」
また後ろに乗ろうとする清水先輩を止めて僕は自転車を降りた。断るタイミングは完全に逃したからもうついて行くしかない。
歩き始めた清水先輩が向かうのは僕の自宅の方向に近いけど、どこに行くかは全く見当がつかなかった。でも、それ以上に見当がつかないのは、なぜ僕が付き合わされているかだ。
「あの、清水先輩」
「んー? 目的地はまだだぞ?」
「そうじゃなくて……どうして僕に声をかけたんですか?」
「どうしてって、私と良助は知り合いじゃないか」
さも当然のように言われるので僕は言葉を返せない。確かに知り合いかそうじゃないかで言われたら知り合いだ。だから今日は声をかけてくれたのかもしれないけど、僕からすればそんな声をかけて貰えるほどの知り合いではないと思ってしまう。
しかし、ついて来てしまった以上、僕も知る努力をする必要がありそうだ。
「清水先輩は部活は何か入ってないんですか?」
「茶道部に入っているよ。でも、毎日あるわけじゃない」
「文芸部と同じですね。だから今日は暇だったと」
「そうだな。ただ、私は小織に入っておけと言われたから入っているだけで、小織に呼ばれない限りはあまりいかない場所ではある」
その言いようからして、桜庭先輩も茶道部なんだろう。お目付け役と言ったら失礼だけど、桜庭先輩が清水先輩を部活に入らせたのは見張る意味もあるのかもしれない。
「よし、着いたぞ」
そんな話をしているうちに、意外に早く目的地に着いた。その場所は住宅地の中の小さな公園で、ざっと見たところ、何の変哲もない公園に見える。
「この公園で何かあるんですか?」
「何って、公園は遊ぶために来るんだろう」
「それはそうですけど……」
「おおっ! あった、これだ!」
公園内に入って清水先輩が指したのはこれまた何の変哲もないシーソーだ。
「清水先輩はシーソーが目的だったんですね」
「うむ。今日、久しぶりに思い出したんだ」
「……じゃあ、僕を見つける前はどうやってシーソーで遊ぶつもりだったんですか?」
「見つける前? 遊ぶならその辺の子どもと遊んで貰えばいいだろう」
そんなことを今の世の中でしたら絶対怪しまれるか、怒られるに違いない。今は僕たち以外に人が来ていないから僕がいなくても事案にならずに済んでいたのだろうけど。
「良助、早く反対に行ってくれ」
既に座って準備万端な清水先輩に急かされて、僕は反対側に行く。シーソーで遊ぶなんて小学校……もしかしたらそれより下の時以来な気がする。この年齢になって子どもの遊具で遊ぶのは少し恥ずかしいから、そっちの意味でも他の人がいなくて良かった。
そして、僕が座って地面を蹴ると、僕の側が上になる。次に清水先輩が地面を蹴れば、今度は清水先輩の側が上になって、以降は繰り返しに……ならなかった。清水先輩はきょとんした顔のまま地面で待機している。
「清水先輩? 次は先輩の番ですけど」
「えっ? これ自動で上がるんじゃないのか?」
「いえ、僕の方が(たぶん)重いので少しずつは戻りますけど、基本は地面を蹴る力がないと……」
「ほー そういう遊び方だったのか」
ようやく清水先輩が地面を蹴ったので上下の繰り返しが始まる。でも、僕はその感覚が楽しいとか久しぶりだとか思う前にまた清水先輩へ質問した。
「清水先輩、さっきシーソーは久しぶりって言ってましたよね」
「ああ。久しぶりだよ」
「その時はどうやって遊んでたんですか?」
「いや、遊んではない。見たことがあっただけだ。こうやって左右に乗っているを見た覚えがある」
「そう……なんですね」
「ああ。でも、遊んでみてわかった。なんとなく面白い感じはするな」
それを聞いた僕は……ますます清水先輩がわからなくなってしまった。シーソーは必ず遊ぶ遊具ではないと思うけど、遊び方の知らない遊具をどうして今遊びたいと思っただろう。
小さな頃は何かの理由で遊べなかった? それとも見たというのは実際の話じゃなく映像の話? どちらにしても、清水先輩は懐かしさを感じているわけじゃなく、かといって楽しそうというわけでもない。
「よし。こんなものかな。今日はありがとう、良助」
「えっ? もういいんですか?」
唐突にシーソーから降りた清水先輩はそう言う。ここに来てからまだ10分も経っていないのに清水先輩はもうやり切った顔になっていた。
「私はこのまま帰るよ。良助の家はどっちなんだ?」
「ここからだと結構近い方ですけど……」
「じゃあ、ちょうど良かった。また会おう」
「ええ、また……」
結局、終始振り回されたまま、清水先輩との時間は終わった。それでもまたと言われたのだから、清水先輩を知る機会はまだあるのだと思う。
そんなことを考えながら次々とテストの範囲を言われる授業をこなした放課後。部活がないのでそのまま帰宅しようと思った時だった。
「良助ー!」
自転車に乗って校門にいた僕を後ろから呼び止める声がした。いや、「りょうすけ」という名前だけなら僕じゃない可能性もあるけど、その声は耳馴染みがある人の声なので、恐らく僕であるという確信がある。
振り向くと、いつの間にか自転車の後部に乗ろうとしている清水先輩がいた。
「何やってるんですか」
「え? この感じだと乗せてくれるんじゃないのか?」
「二人乗りは駄目です」
つまらなそうな顔をして降りる清水先輩をよそに、僕は周りを見渡す。一応、清水先輩は三大美人とやらにカウントされているから、一緒にいるところを見られると何か都合が悪いかもしれない。
「何を探しているんだ? 良助はキミしかいないだろう」
「いえ、何でもないです。それで僕に用事ですか?」
「ああ。これから暇か?」
「はい、暇です……はっ!?」
周りを見るのに夢中で素直に答えてしまった。
「そうかそうか! では、付き合ってもらうぞ」
「つ、付き合うとは……?」
「なに、ちょっと行くところがあるんだ。さぁ、出発しよう」
「……だから二人乗りは駄目ですって」
また後ろに乗ろうとする清水先輩を止めて僕は自転車を降りた。断るタイミングは完全に逃したからもうついて行くしかない。
歩き始めた清水先輩が向かうのは僕の自宅の方向に近いけど、どこに行くかは全く見当がつかなかった。でも、それ以上に見当がつかないのは、なぜ僕が付き合わされているかだ。
「あの、清水先輩」
「んー? 目的地はまだだぞ?」
「そうじゃなくて……どうして僕に声をかけたんですか?」
「どうしてって、私と良助は知り合いじゃないか」
さも当然のように言われるので僕は言葉を返せない。確かに知り合いかそうじゃないかで言われたら知り合いだ。だから今日は声をかけてくれたのかもしれないけど、僕からすればそんな声をかけて貰えるほどの知り合いではないと思ってしまう。
しかし、ついて来てしまった以上、僕も知る努力をする必要がありそうだ。
「清水先輩は部活は何か入ってないんですか?」
「茶道部に入っているよ。でも、毎日あるわけじゃない」
「文芸部と同じですね。だから今日は暇だったと」
「そうだな。ただ、私は小織に入っておけと言われたから入っているだけで、小織に呼ばれない限りはあまりいかない場所ではある」
その言いようからして、桜庭先輩も茶道部なんだろう。お目付け役と言ったら失礼だけど、桜庭先輩が清水先輩を部活に入らせたのは見張る意味もあるのかもしれない。
「よし、着いたぞ」
そんな話をしているうちに、意外に早く目的地に着いた。その場所は住宅地の中の小さな公園で、ざっと見たところ、何の変哲もない公園に見える。
「この公園で何かあるんですか?」
「何って、公園は遊ぶために来るんだろう」
「それはそうですけど……」
「おおっ! あった、これだ!」
公園内に入って清水先輩が指したのはこれまた何の変哲もないシーソーだ。
「清水先輩はシーソーが目的だったんですね」
「うむ。今日、久しぶりに思い出したんだ」
「……じゃあ、僕を見つける前はどうやってシーソーで遊ぶつもりだったんですか?」
「見つける前? 遊ぶならその辺の子どもと遊んで貰えばいいだろう」
そんなことを今の世の中でしたら絶対怪しまれるか、怒られるに違いない。今は僕たち以外に人が来ていないから僕がいなくても事案にならずに済んでいたのだろうけど。
「良助、早く反対に行ってくれ」
既に座って準備万端な清水先輩に急かされて、僕は反対側に行く。シーソーで遊ぶなんて小学校……もしかしたらそれより下の時以来な気がする。この年齢になって子どもの遊具で遊ぶのは少し恥ずかしいから、そっちの意味でも他の人がいなくて良かった。
そして、僕が座って地面を蹴ると、僕の側が上になる。次に清水先輩が地面を蹴れば、今度は清水先輩の側が上になって、以降は繰り返しに……ならなかった。清水先輩はきょとんした顔のまま地面で待機している。
「清水先輩? 次は先輩の番ですけど」
「えっ? これ自動で上がるんじゃないのか?」
「いえ、僕の方が(たぶん)重いので少しずつは戻りますけど、基本は地面を蹴る力がないと……」
「ほー そういう遊び方だったのか」
ようやく清水先輩が地面を蹴ったので上下の繰り返しが始まる。でも、僕はその感覚が楽しいとか久しぶりだとか思う前にまた清水先輩へ質問した。
「清水先輩、さっきシーソーは久しぶりって言ってましたよね」
「ああ。久しぶりだよ」
「その時はどうやって遊んでたんですか?」
「いや、遊んではない。見たことがあっただけだ。こうやって左右に乗っているを見た覚えがある」
「そう……なんですね」
「ああ。でも、遊んでみてわかった。なんとなく面白い感じはするな」
それを聞いた僕は……ますます清水先輩がわからなくなってしまった。シーソーは必ず遊ぶ遊具ではないと思うけど、遊び方の知らない遊具をどうして今遊びたいと思っただろう。
小さな頃は何かの理由で遊べなかった? それとも見たというのは実際の話じゃなく映像の話? どちらにしても、清水先輩は懐かしさを感じているわけじゃなく、かといって楽しそうというわけでもない。
「よし。こんなものかな。今日はありがとう、良助」
「えっ? もういいんですか?」
唐突にシーソーから降りた清水先輩はそう言う。ここに来てからまだ10分も経っていないのに清水先輩はもうやり切った顔になっていた。
「私はこのまま帰るよ。良助の家はどっちなんだ?」
「ここからだと結構近い方ですけど……」
「じゃあ、ちょうど良かった。また会おう」
「ええ、また……」
結局、終始振り回されたまま、清水先輩との時間は終わった。それでもまたと言われたのだから、清水先輩を知る機会はまだあるのだと思う。
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