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1年生1学期
5月2日(日)曇りのち晴れ 甘さに浮かれる日
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連休2日目。今日は明莉が見事に父さんをそそのかして……健気にお願いしたスイーツバイキングへ行く日である。僕と母さんも連れて行って貰えるらしいので、結果的には得した気分だ。例え甘党でなくともスイーツが美味しいのは間違いない。
父さんの運転で到着したホテルは、建物としては何回も見かけているけど、実際に入ったことがない大きなホテルだった。中にはレストランもあるから泊まらなくても利用する人はそこそこいるらしい。でも、うちの家族で何か食べに行くとしたら専らファミレスか回転寿司になる。
そんな中で初めて参加するスイーツバイキングは、想像していたよりも広い部屋で行われていた。入り口からすぐに見えた大きなテーブルには、ケーキやタルトといったお菓子、カットされたフルーツとそれにチョコをコーティングできるチョコフォンデュの装置などが置かれていて、甘い匂いが常に漂っている。
お皿を乗せたプレートを持つと、明莉は目を輝かせながら選び始めた。
「目移りしちゃうなー! でも、まずはケーキとかを……あっ! お母さん、これめっちゃ美味しそうだよ!」
こういう場所に来ると、やはり女性はテンションが上がるのだろうか。明莉に付いて行く母さんも普段よりはしゃいでいる気がする。そして、スイーツに目を取られていたかど、よくよく周りを見て僕は気付いた。
「父さん……僕たちちょっと浮いてるね」
「そうか? いやぁ、明莉が嬉しそうで良かったなぁ!」
父さんは別の意味で浮いているけど、このスイーツバイキングに来ているのはほとんど女性だった。スイーツバイキングといえば女子会で行くイメージがあるから予想できたことではある。男性も数人いるけど、男子だけではなく女子と二人きりの人ばかりだから見恐らくカップルだ。そうなると、家族で来た僕はかなり浮いているように感じる。
(ま、まぁ、スイーツ男子がいてもおかしくはないし……)
そう思いながらスイーツを取っていこうとするけど、どうにも落ち着かない。来る前は値段以上になるようしっかり食べようと思っていたのに、今はこの空気感で食べなきゃいけないのかという気持ちになっていた。
「ああ、そこのシュークリームは美味しかったぞ。中の抹茶クリームが程よく甘くなかった」
「そうなんですか。ありがとうございま……えっ?」
突然、アドバイスをしてきた声に振り向くと、今日は私服で少し印象が変わるエキセントリックな三大美人の一人(あと二人は忘れてしまった)がいた。
「清水先輩!? どうしてここに……?」
「それはこっちの台詞だ。どうしてスイーツバイキングに来たというのに何も皿に載せていないんだ」
「いや、こっちの台詞から繋がってないんですけど……」
そうは言いつつも清水先輩がここに来ていることは別におかしくはない。この場所は絶対的に女子のフィールドなのだから。
「ボーっと立っている男性がいたらから誰かと気になってみたらキミだったわけだ。それで、今日は無性に甘いモノが食べたくなったから来たのか?」
「いえ、元々の予定で家族と来ただけです」
「おお、いいじゃないか! 休日に家族の団らんなんて」
「そ、そうですかね……?」
「なぜキミが疑問に思うんだ? 実際、家族で来ているんだろう?」
僕はスイーツを食べに来たのは間違いないけど、もう一つの目的は家族と過ごすためだったと言える。それが嫌だったらなら僕はそもそも付いて来ていない。
そう思うと、僕の悩みなんてちっぽけなことだった。ここに来る人たちはそれぞれの自分たちの目的で来ているのだから、周りの目を気にするなんて馬鹿らしい。多少目立ってもそれほど気にすることではなかったのだ。
「……清水先輩、ありがとうございます」
「んん? 私、なんかしたっけ?」
「いえ、おすすめを教えてくれたので」
「そうかそうか。そこまで言われたら、別のも教えてやるぞ。そこのブルーベリーのタルトも甘すぎないやつだ」
「……さっきからなんで甘くないやつを勧めるんですか?」
「私が甘ったるいのはそんなに好きじゃないからだ」
それならなぜスイーツバイキングに……と思ったけど、今日は清水先輩に助けられた気がするからそこは疑問に思わないでおこう。
「りょうちゃんー いつまで選んで……うわっ!? 誰この綺麗な人!?」
なかなか来ない僕を探しに来た明莉が清水先輩を見て率直な意見を言う。いくら褒め言葉でもいきなりその言い方は失礼な気もするけど、他の人から見てもちゃんと美人と認識されるのは大きな発見だった。
「ああ、この人は……」
「私は通りすがりのスイーツ仙人だ」
そんな清水先輩はさも本当であるかのようにそう言った。いや、なんだその仙人。
「それでキミ、こちらの可愛らしいティーンエイジャーは?」
あなたもティーンエイジャーだろうと思いながら「妹の明莉です」と紹介する。明莉もおずおずと挨拶すると、スイーツ仙人は観察するように明莉を眺めてから
「うむ。それでは良きひと時を過ごしてくれたまえ。また会おう!」
と、このスイーツバイキングの主催者みたいな台詞を言って去っていった。
「りょうちゃん、スイーツ仙人と知り合いだったの」
「そんな覚えはないんだけどな……」
「よくわからないけど……変な人だった!」
明莉の端的な感想に僕は心の中で頷いた。
それから、僕は心置きなくスイーツバイキングを楽しんだ。明莉と母さんは僕や父さんの2倍くらい食べていた気がする。和気あいあいと話ながらの食事は良かったし、男性が来てもいいとは思うけど、別腹のことを考えるとやはり女性のフィールドなのかもと思った。
父さんの運転で到着したホテルは、建物としては何回も見かけているけど、実際に入ったことがない大きなホテルだった。中にはレストランもあるから泊まらなくても利用する人はそこそこいるらしい。でも、うちの家族で何か食べに行くとしたら専らファミレスか回転寿司になる。
そんな中で初めて参加するスイーツバイキングは、想像していたよりも広い部屋で行われていた。入り口からすぐに見えた大きなテーブルには、ケーキやタルトといったお菓子、カットされたフルーツとそれにチョコをコーティングできるチョコフォンデュの装置などが置かれていて、甘い匂いが常に漂っている。
お皿を乗せたプレートを持つと、明莉は目を輝かせながら選び始めた。
「目移りしちゃうなー! でも、まずはケーキとかを……あっ! お母さん、これめっちゃ美味しそうだよ!」
こういう場所に来ると、やはり女性はテンションが上がるのだろうか。明莉に付いて行く母さんも普段よりはしゃいでいる気がする。そして、スイーツに目を取られていたかど、よくよく周りを見て僕は気付いた。
「父さん……僕たちちょっと浮いてるね」
「そうか? いやぁ、明莉が嬉しそうで良かったなぁ!」
父さんは別の意味で浮いているけど、このスイーツバイキングに来ているのはほとんど女性だった。スイーツバイキングといえば女子会で行くイメージがあるから予想できたことではある。男性も数人いるけど、男子だけではなく女子と二人きりの人ばかりだから見恐らくカップルだ。そうなると、家族で来た僕はかなり浮いているように感じる。
(ま、まぁ、スイーツ男子がいてもおかしくはないし……)
そう思いながらスイーツを取っていこうとするけど、どうにも落ち着かない。来る前は値段以上になるようしっかり食べようと思っていたのに、今はこの空気感で食べなきゃいけないのかという気持ちになっていた。
「ああ、そこのシュークリームは美味しかったぞ。中の抹茶クリームが程よく甘くなかった」
「そうなんですか。ありがとうございま……えっ?」
突然、アドバイスをしてきた声に振り向くと、今日は私服で少し印象が変わるエキセントリックな三大美人の一人(あと二人は忘れてしまった)がいた。
「清水先輩!? どうしてここに……?」
「それはこっちの台詞だ。どうしてスイーツバイキングに来たというのに何も皿に載せていないんだ」
「いや、こっちの台詞から繋がってないんですけど……」
そうは言いつつも清水先輩がここに来ていることは別におかしくはない。この場所は絶対的に女子のフィールドなのだから。
「ボーっと立っている男性がいたらから誰かと気になってみたらキミだったわけだ。それで、今日は無性に甘いモノが食べたくなったから来たのか?」
「いえ、元々の予定で家族と来ただけです」
「おお、いいじゃないか! 休日に家族の団らんなんて」
「そ、そうですかね……?」
「なぜキミが疑問に思うんだ? 実際、家族で来ているんだろう?」
僕はスイーツを食べに来たのは間違いないけど、もう一つの目的は家族と過ごすためだったと言える。それが嫌だったらなら僕はそもそも付いて来ていない。
そう思うと、僕の悩みなんてちっぽけなことだった。ここに来る人たちはそれぞれの自分たちの目的で来ているのだから、周りの目を気にするなんて馬鹿らしい。多少目立ってもそれほど気にすることではなかったのだ。
「……清水先輩、ありがとうございます」
「んん? 私、なんかしたっけ?」
「いえ、おすすめを教えてくれたので」
「そうかそうか。そこまで言われたら、別のも教えてやるぞ。そこのブルーベリーのタルトも甘すぎないやつだ」
「……さっきからなんで甘くないやつを勧めるんですか?」
「私が甘ったるいのはそんなに好きじゃないからだ」
それならなぜスイーツバイキングに……と思ったけど、今日は清水先輩に助けられた気がするからそこは疑問に思わないでおこう。
「りょうちゃんー いつまで選んで……うわっ!? 誰この綺麗な人!?」
なかなか来ない僕を探しに来た明莉が清水先輩を見て率直な意見を言う。いくら褒め言葉でもいきなりその言い方は失礼な気もするけど、他の人から見てもちゃんと美人と認識されるのは大きな発見だった。
「ああ、この人は……」
「私は通りすがりのスイーツ仙人だ」
そんな清水先輩はさも本当であるかのようにそう言った。いや、なんだその仙人。
「それでキミ、こちらの可愛らしいティーンエイジャーは?」
あなたもティーンエイジャーだろうと思いながら「妹の明莉です」と紹介する。明莉もおずおずと挨拶すると、スイーツ仙人は観察するように明莉を眺めてから
「うむ。それでは良きひと時を過ごしてくれたまえ。また会おう!」
と、このスイーツバイキングの主催者みたいな台詞を言って去っていった。
「りょうちゃん、スイーツ仙人と知り合いだったの」
「そんな覚えはないんだけどな……」
「よくわからないけど……変な人だった!」
明莉の端的な感想に僕は心の中で頷いた。
それから、僕は心置きなくスイーツバイキングを楽しんだ。明莉と母さんは僕や父さんの2倍くらい食べていた気がする。和気あいあいと話ながらの食事は良かったし、男性が来てもいいとは思うけど、別腹のことを考えるとやはり女性のフィールドなのかもと思った。
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