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1年生1学期
4月27日(火)晴れ 岸本路子のお願いその2
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本日の文芸部のミーティングは無しという連絡がLINEに送られてきた。でも、先週の岸本さんと約束したので、ミーティングがなくてもこの日は部室を訪れた。
「おー ウーブくんお疲れー」
「お疲れ様です、森本先輩」
「既読付いてたけど、今日は別の用事ー?」
「はい。冊子に書くネタを考えようと――」
「……お疲れ様です」
僕が説明をしていると、その間に岸本さんも部室へ入って来た。
「岸本ちゃんもお疲れー あっ、だったらちょうどいいかー ウーブくんと岸本ちゃんはGWで空いてる日ある?」
いきなりそう言われた僕はきょとんとしてしまった。GWはスイーツバイキングに行くらしいけど、あれは僕も行く予定なんだろうか。行くとしても何日か把握していない。
「歓迎会開こうと思ってさー 二人が主役だから二人の予定に合わせるよー」
「そうなんですか。わざわざありがとうございます」
「いえいえー 恒例だし、ファミレスとかでやるから大そうなものじゃないよー ちなみに強制でもないから、都合悪そうだったら無理しなくても大丈夫ー」
歓迎されるなら都合が悪いだなんて言ってられないけど、そこも柔軟に対応してくれるのはさすがこの部活といった感じだ。
「わたしは……今のところいつでも大丈夫です」
「僕はまた後で連絡させて貰います」
「はいはーい グループで予定合わせるからよろしくー」
ひとまず僕の方は保留させて貰ったけど、たぶんいつでも大丈夫と答えることになりそうだ。
そして、いつもならここで帰っていたところだが、今日は部室に居残りだ。新しいノートを一冊持ってきた僕は、空いている席に座ってシャーペンを一本取り出す。
「産賀くん、隣……いい?」
「えっ? ああ、うん」
すると、他にも席が空いているのに岸本さんは隣に座ってきた。それから岸本さんも何か作業を始め……ることなく、何故かこちらを見て暫く動かない。
「……産賀くん」
そうかと思ったら急に呼びかけてきた。こんな感じで何か思う岸本さんはこの短い間で何度も見た気がする。そう思いつつ、僕は岸本さんと向き合うように体を向けた。
「どうしたの?」
「今日は来てくれてありがとう。それで、図々しいかもしれないけれど……もう一つお願いを聞いてくれる?」
僕が頷くと、一呼吸置いた岸本さんは、
「わたしに……男子高校生のこと、教えて欲しいの」
と、真剣な表情で言った。でも、その言葉だけ聞くとどういう意味かよくわからない。というか、よく聞かないとちょっと危ない感じだ。
「……というと?」
「わたし、文化祭の冊子に書く小説、高校生をテーマにしようと思ってるの。それで男子も出す予定なのだけど……男子高校生というか、男子学生の知識が小説とかの作品のものしかなくて……もちろん、想像で書くのも良いと思ってるわ。でも、リアリティがちょっとあった方が、よりよく書ける気がしてて……」
そこまで一息で言った岸本さんはもう一呼吸置いてから
「だけど、わたしには、その……男子学生の知り合いがいないから……」
と、少しだけ俯きながら言った。つまり、岸本さんが部室へ来て欲しいと言った真の目的は、男子高校生の参考になる人物を求めていたということだ。特にこの文芸部で言えば、男子の先輩に会える可能性が限られているから、僕にお願いするしかなかったのだろう。
「わかった。僕で良ければ協力するよ」
「ほ、本当に?」
「もちろん。僕一人で駄目だったら友達にも聞いてみるよ」
そういう理由であれば、僕が断る理由はどこにもない。むしろ、岸本さんのモチベーションの高さを見習わなければいけないくらいだ。
「内緒話終わったー?」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
黒板前の定位置からいつの間にか近づいていた森本先輩に、油断していた僕と岸本さんは驚く。
「す、すみません! 森本先輩を無視してたわけじゃなくて……」
「いやいやー 1年生同士で仲良きことはいいことだよー まぁ、こっちはボーっとしてるけど、何かあったら聞いてくれればいいからー」
なんだかんだ優しい森本先輩は、そう言って定位置へ戻っていった。僕と岸本さんはそれを見て、もう一度顔を合わせる。その時見た岸本さんの表情は今までと少し違っていた。
「それじゃあ、産賀くん。今日はまだ聞くことを整理してないけれど、今度から何かあったら……よろしく」
そう言った岸本さんは何冊か本を取り出して読み始めた。部活が始まってから色々話したけど、ようやく岸本さんの憂い事がなくなったのかもしれない。そう思ったのは、今の岸本さんの表情が初めてリラックスしているように見えたからだ。
僕もそろそろテーマを考えなければ……と思ったけど、今日のことを日記に書こうと考えるうちに帰る時間になって、新品のノートはそのままになってしまった。
「おー ウーブくんお疲れー」
「お疲れ様です、森本先輩」
「既読付いてたけど、今日は別の用事ー?」
「はい。冊子に書くネタを考えようと――」
「……お疲れ様です」
僕が説明をしていると、その間に岸本さんも部室へ入って来た。
「岸本ちゃんもお疲れー あっ、だったらちょうどいいかー ウーブくんと岸本ちゃんはGWで空いてる日ある?」
いきなりそう言われた僕はきょとんとしてしまった。GWはスイーツバイキングに行くらしいけど、あれは僕も行く予定なんだろうか。行くとしても何日か把握していない。
「歓迎会開こうと思ってさー 二人が主役だから二人の予定に合わせるよー」
「そうなんですか。わざわざありがとうございます」
「いえいえー 恒例だし、ファミレスとかでやるから大そうなものじゃないよー ちなみに強制でもないから、都合悪そうだったら無理しなくても大丈夫ー」
歓迎されるなら都合が悪いだなんて言ってられないけど、そこも柔軟に対応してくれるのはさすがこの部活といった感じだ。
「わたしは……今のところいつでも大丈夫です」
「僕はまた後で連絡させて貰います」
「はいはーい グループで予定合わせるからよろしくー」
ひとまず僕の方は保留させて貰ったけど、たぶんいつでも大丈夫と答えることになりそうだ。
そして、いつもならここで帰っていたところだが、今日は部室に居残りだ。新しいノートを一冊持ってきた僕は、空いている席に座ってシャーペンを一本取り出す。
「産賀くん、隣……いい?」
「えっ? ああ、うん」
すると、他にも席が空いているのに岸本さんは隣に座ってきた。それから岸本さんも何か作業を始め……ることなく、何故かこちらを見て暫く動かない。
「……産賀くん」
そうかと思ったら急に呼びかけてきた。こんな感じで何か思う岸本さんはこの短い間で何度も見た気がする。そう思いつつ、僕は岸本さんと向き合うように体を向けた。
「どうしたの?」
「今日は来てくれてありがとう。それで、図々しいかもしれないけれど……もう一つお願いを聞いてくれる?」
僕が頷くと、一呼吸置いた岸本さんは、
「わたしに……男子高校生のこと、教えて欲しいの」
と、真剣な表情で言った。でも、その言葉だけ聞くとどういう意味かよくわからない。というか、よく聞かないとちょっと危ない感じだ。
「……というと?」
「わたし、文化祭の冊子に書く小説、高校生をテーマにしようと思ってるの。それで男子も出す予定なのだけど……男子高校生というか、男子学生の知識が小説とかの作品のものしかなくて……もちろん、想像で書くのも良いと思ってるわ。でも、リアリティがちょっとあった方が、よりよく書ける気がしてて……」
そこまで一息で言った岸本さんはもう一呼吸置いてから
「だけど、わたしには、その……男子学生の知り合いがいないから……」
と、少しだけ俯きながら言った。つまり、岸本さんが部室へ来て欲しいと言った真の目的は、男子高校生の参考になる人物を求めていたということだ。特にこの文芸部で言えば、男子の先輩に会える可能性が限られているから、僕にお願いするしかなかったのだろう。
「わかった。僕で良ければ協力するよ」
「ほ、本当に?」
「もちろん。僕一人で駄目だったら友達にも聞いてみるよ」
そういう理由であれば、僕が断る理由はどこにもない。むしろ、岸本さんのモチベーションの高さを見習わなければいけないくらいだ。
「内緒話終わったー?」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
黒板前の定位置からいつの間にか近づいていた森本先輩に、油断していた僕と岸本さんは驚く。
「す、すみません! 森本先輩を無視してたわけじゃなくて……」
「いやいやー 1年生同士で仲良きことはいいことだよー まぁ、こっちはボーっとしてるけど、何かあったら聞いてくれればいいからー」
なんだかんだ優しい森本先輩は、そう言って定位置へ戻っていった。僕と岸本さんはそれを見て、もう一度顔を合わせる。その時見た岸本さんの表情は今までと少し違っていた。
「それじゃあ、産賀くん。今日はまだ聞くことを整理してないけれど、今度から何かあったら……よろしく」
そう言った岸本さんは何冊か本を取り出して読み始めた。部活が始まってから色々話したけど、ようやく岸本さんの憂い事がなくなったのかもしれない。そう思ったのは、今の岸本さんの表情が初めてリラックスしているように見えたからだ。
僕もそろそろテーマを考えなければ……と思ったけど、今日のことを日記に書こうと考えるうちに帰る時間になって、新品のノートはそのままになってしまった。
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