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5.変化と褒め言葉と彼女が望むこと

エピローグ

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 気が付けば六月も終わりに近づいたある日。つまりは柊蒼一と式見恵香がクラスメイトから知り合い、知り合いから友達、友達から――にクラスチェンジしてからもう一ヶ月半が経とうとしていた。
 お昼ご飯には式見がローカルコンビニで見つけたというナポリタンパンを分けて貰い、血糖値が程よく上がった僕は、教室に戻って眠気からぼんやりとしていた。
 その時、式見は荒巻先生からサボった件で呼び出しを喰らっていて、昼ご飯を食べ終えてから一旦解散していた。
「ソーイチもサボったのに私だけ呼ばれるのはおかくしない!?」
 と、式見は僕に抗議していたけど、「日頃の行い」と返したらムスッとした顔をして何も言わなくなった。まぁ、他でサボった分のツケがあると自覚しているのだろう。
 そんなことをぼんやりとした頭で思い浮かべていると、僕の耳に二年三組の教室のドアを勢いよく開く音が入ってくる。
それ自体は日常茶飯事だったので驚きはしなかったけど、音を発した主は早歩きで教室の中を突き進んでいく。
 僕が気付いた時には、その主は僕の席の前に立っていた。
 周りのクラスメイトはざわついていたが……いや、めちゃめちゃ身に覚えのあるシチュエーションだ。
 僕の目の前に立っているのは、透明感のある白い肌以下略の式見恵香で間違いない。
 あの時と違って頭の切り替えが早かった僕は、ちゃんと認識できていたのに……
「――はむっ」
 式見に指を咥えられてしまった……いや、なんで!?
「な、なにやってんだ式見!?」
「なにひっ、ゆひをくわへているのよ」
「咥えたまま喋るな! そして、見たままの状況を聞きたかったわけじゃない!」
 当然ながらその時、教室にいたクラスメイトの注目は集まってくるし、
「蒼一!? またそんなプレイを堂々とやりやがって!」
 という、京本を始めとした男子の恨みと羨望の声が……何の羨望だよ! どっちかというと僕が羞恥プレイされてる気分なんだぞ!?
「んぱぁ……じゃあ、いったい何が聞きたかったの?」
「そんな詳しく言わないとわからないのか!?」
「私、ソーイチとは通じ合えているつもりだけど、まだ“あれ”と言われてリモコンを取ったり、“それ”と言われてメイド服を着てご奉仕するところまでは至ってないわ」
「後者の指示が限定的過ぎるが!? あと、そんなこと言ったら僕がメイド服好きみたいな風潮が作られかねないだろ!」
「じゃあ、猫耳メイド?」
「属性を盛れと言ったわけじゃない!」
「わかってる。ソーイチが一番好きなのは……私の彼シャツ姿だって」
 そう言われた僕は自宅で見た式見の姿を思い出して一瞬黙ってしまう。
 あっ、駄目だこれ。今の間で僕が彼シャツ好きだと周りから思われた。
「式見、いい加減にしないと――」
「うん。ソーイチの頭が冴えてきたところで言っておくと、ソーイチが私のものだってこと、知らしめようと思って」
「なっ!?」
 僕の反応と同時にクラスメイトはさらにざわつき始めた。
「だから、指を咥えたのはマーキングみたいなもの。でも、人間がやることだからもっといい感じの名称を付けて欲しいところよね。いや、人間も動物っていうのはわかってるんだけど、それこそサイズの合ってない彼氏の服を着た彼女のことを彼シャツと略してときめきワードにするような――」
「式見! もういいから!」
 そう言って僕は式見の手を掴んでそのまま教室から逃走する。一部追いかけてきそうなクラスメイトがいたけど……そいつらは文句を言いながらも誰かさんが止めてくれたようだ。
「なんてことしてくれたんだよ……」
「え。私、結構本気でやったんだけど。残りの学校生活でソーイチ以外の要素を排除するために」
「やり方が問題なの! 距離間の話はどこへ行ったんだよ!」
「私とソーイチ的に指を咥えるのは正しい距離間じゃない?」
「正しくないが!? もう爪の垢を煎じて飲む必要ないだろうに」
「ううん。そこは検証したいから諦めてない。あとは、久しくソーイチの指舐めてなかったし」
「定期的に舐めさせてるみたいに言うな。」
「……嫌だった? クラスメイトに私とがっつり絡んでるって知られるの」
「……全然。どうせ卒業するまでずっとしゃぶらせ変態野郎だったろうし、今更だ」
「むー……それじゃあ、しょうがなく我慢してる感じになるじゃない」
「だったら……もうクラスメイトに隠す必要もないから清々するよ」
 僕が心の底から笑いかけると、式見も微笑み返してくれた。
 こうして、元々は真面目な男子生徒で、しゃぶらせ変態野郎と一部で言われる柊蒼一の評価は……真面目の跳ね返りでエキセントリックに目覚めた男子生徒になった。
 ……文字だけ見るとしゃぶらせ変態野郎よりマシな気がするけど、恐らく今の方が危ない奴と見られている。
「ちなみに、あと五分したら五時間目だから教室に戻るぞ」
「ウソぉ!? 完全に二人でサボってしっぽりする流れだったのに!? というか、あの空気の教室に戻るの普通に嫌なんだけど!」
「自分でやっといて何言ってるんだ……それとも僕を出し抜いてサボるか?」
「……ううん。ソーイチと一緒がいい」
 けれども、僕はそういう状況と式見との時間を今は純粋に楽しく感じる。
「――そっかぁ。柊くんはそうやって操れば良かったんだ」
 しかし、僕と式見の学校生活は……まだまだ始まったばかりだ。
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