裸夫が描きたい自称清楚系ヒロインはあらゆる手段で俺を脱がせようとしてくる

ちゃんきぃ

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裸夫が描きたい自称清楚系ヒロインはあらゆる手段で俺を脱がせようとしてくる

青・春・一・憂

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 ノートヴォルトは返事もせず演奏を始めてしまった。
 背中にチェロの膨らみのある音を受けつつ、努めて冷静に、何事もなかったかのように、静かに扉を開け、外に出るとそっと閉めた。
 数歩だけ冷静を装い続け歩いた後、トイレまで全力疾走した。

 コンサートホールの控室など誰も来ないだろうが、廊下の先にあるトイレの個室に駆け込むと、深呼吸する。

 反則だ。あの顔は反則。どうしよう、だめだ、かっこいい、顔だけはかっこいい。
 落ち着け。6年間気にしたこともなかったじゃない。
 吸って、吐いて、はいゆっくりー
 なんで今になって。
 なんで今更こんなことに!?
 待って、落ち着け、先生のデスクを思い出すんだ。あのだらしなさ。
 ローブだってよれよれだし、いつ洗ってるかわかんないし。
 シャツも不思議なにおいしたし。
 シャツ…先生のシャツを着てしまったんだ。
 ちがうちがうちがう、おちつけーー。

カチャリ。

 個室の鍵を開け、誰もいないとわかっているトイレの様子を隙間から伺う。

 よし、誰もいない。

 無駄に手を洗い、無駄に顔を洗うと、ポケットのハンカチはびしょびしょになってしまった。

「いいのは顔だけ。そう、他はダメ。日常生活が壊滅的すぎる。大丈夫。練習に集中しよう、集中」

 そもそも顔がいいからって急になんなんだ。
 私も頭が緩いな。
 宮廷魔術師にキャーキャー言ってる最前列女子と変わらないじゃない。
 あの女子たち、あの魔術師並に先生が整ってると知ったら……

 廊下を歩いて戻り控室の扉を開けると、教授は演奏の終わり部分を弾いていた。
 邪魔しないようにグラスハープに戻り、びしょびしょのハンカチは鞄の上に広げた。

 練習しよう。

 指先に魔力を巡らし、自分の動揺が流れていないか確認する。
 よし、大丈夫そう。
 乱れた魔力で演奏なんかしたら何言われるか分からない。

 真ん中のグラスの淵に指を置き、すっと撫でると透明な音が鳴った。

 そのまま譜面の初めから弾き始める。
 比較的軽快に始まったのも束の間、メロディは急に不穏になる。
 悲し気な響きが続き、こと切れてしまいそうな高音が続いた後、長い低音が命の灯を消してしまうように余韻を響かせ終わる。

「ラストの高音、全く出来ていない」

「わあぁっいつの間に前に!?」

(目は暗い緑だったんだ)

「…ラストの高音」

「はい、すみません。これ3和音じゃないですか。左手はずっと低音だし、親指がうまく当たらないんです」

「配置を変えるんだ。使う和音ごとに並べておけば出来る」

「そんな簡単に言い切らないで下さいよ」

「出来る。出来ないと思われるからこそやる意味がある」

 そう言うと教授は高音のいくつかのグラスの配置を変えた。
 そしてコールディアの隣に立つと、弾いて見せる。
 グラスが赤く光り、透明な音が重なった。

「これなら指も届く」

「あれ…どうして光り方が違うんですか」

 コールディアがすっとグラスを撫でると、淡く青く光る。
 だが今教授が鳴らした時は赤だった。

「マギアフルイドは保持する魔力量で発色が変わる」

「そうだったんですね。以前見た演奏は私の青に近い色だったんで、皆そういうものかと思ってました」

 それからいつも通りの指導が始まった。
 コールディアもいつしか没頭し、教授の表現を再現しようと夢中になった。

 この無心に譜面にのめり込む時間は好きだった。
 初見で音符を追うだけだった演奏に徐々に色が付き、情景が広がり、物語が膨らむ。
 この楽しいだけではない苦悩する練習の先にある1つの世界を想像すると、興奮にも似たある種のゾーンに入る。その感覚がたまらなかった。

 その世界に到達するために、ノートヴォルトからの厳しい指導が入る。

――違う、丁寧に繋ぐんだ。音を1個ずつブツ切れで並べるんじゃない。

――スタッカートはもっと切って。君のはターアータンタン。欲しいのはターアータッタ。コモンには無理でも魔奏なら出来る。違いを魅せるところだ。

――まだ弱い、もっと強くていい。流す魔力を少しだけ上げて…やりすぎだ、魔律が変わってしまう。

 指摘される度に魔力量、指の動き、グラスへの当て方…それらを調節し応えようとする。
 時間はあっという間に1時間を過ぎ、小休憩を挟んで1度合わせることにした。

 椅子に座って、指を閉じたり開いたりして動かす。
 魔力をずっと纏わせていると熱を持ったような感覚になるので、手をひらひら振って冷ますようにするのが休憩時の癖だった。

 パタパタしながら、チェロを鳴らす教授を眺めそうになり、やっぱり目を逸らした。

「先生、なんで髪を結ったんですか」

「髪? 弦に挟まる」

「…なるほど」

 結局チェロを準備する教授をちらちら眺めつつ、短い休憩を終えるとまたグラスハープの前に立つ。

(いつも猫背なのに、チェロの時は姿勢いいんだ)

 猫背は伸ばしても猫背だろうと思っていたが、思いのほか伸ばした背筋はまっすぐで、チェロを構えた様子は優美と言えた。
 そしてそのまま視線は自然と弦を押さえる左手にいってしまう。

 ピアノの時にもつい見てしまうこの手元が、実は彼女は昔から好きだった。
 男性の手なのにすらっと伸びていて指先が美しい。
 それこそ魔法のように動くあの指先で生み出される音が好きで、その音を生む手も好きなのだ。
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