裸夫が描きたい自称清楚系ヒロインはあらゆる手段で俺を脱がせようとしてくる

ちゃんきぃ

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裸夫が描きたい自称清楚系ヒロインはあらゆる手段で俺を脱がせようとしてくる

SERINA

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 美術準備室での死闘から数分後。俺は先ほどスルーを決めかけた美術の顧問である榎沢えのさわ先生に連れられて職員室へ来ていた。まるで俺が悪いことをしたみたいだけど、実際は俺が必死に状況を説明してようやく榎沢先生が止めてくれた形だ。

「で、どうしてあんなことしちゃったの?」
「だから、俺からじゃないんですって。被害者ですよ俺は」
「まぁ、災難だったと言うしかないねー」

 美術の授業を取っていないので俺は全校集会とかでしか見た事がなかったけど、榎沢先生は他の教科の先生とはまた違った雰囲気だ。後ろで束ねられた茶色のくせ毛や作業用と思われる上着は学校では好まれないルーズさがある。

「それで、俺がここに連れて来られたのは……?」
「……なんでだっけ?」

 首を傾げる榎沢先生を見て俺は不安になった。主にこれから話されることについて。

「ああ、思い出した。さっきの清莉奈の件に巻き込まれたことについての説明。だいたい聞いたとは思うけど……あの子裸夫が描きたいんだよねー」
「そこは真実なんですね……」
「そうそう。だから、三雲くんが良ければこれからも協力してあげて欲しいなー」

 さらりと言われたので俺は思わず頷きそうになったけど、もう一度言葉を脳内で確認して頭が止まる。

「……は? きょ、協力!? 先生がやめるよう注意してくれるんじゃないですか!?」
「だって、清莉奈が描きたいって言ってるし」
「全然理由になってないです! そもそもあの子はいったい何なんですか……」
「そこから説明が必要かー めんど……いや、長くなるから端折っていい?」
「駄目です。一から十まで説明してください」

 俺がそう言うと榎沢先生は渋々隣の椅子を引いて座るように促す。
 どうやら俺の先生に対する印象は合っているようだ。合ってても全然嬉しくないけど。

「えっと……三雲くんは清莉奈と一緒のクラスになったことないんだっけ? 小中も同じじゃない?」
「同じじゃありません。今日初めて会いました」
「それじゃあ……最近活躍している高校生画家のSERINAって知ってる? 表記はローマ字表記ね」
「知らないですけど、同じ名前?」
「そう、あの子がSERINAなの」

 SERINAなの……と言われても俺は困ってしまった。それに対する感想は本名と同じなのかいというものしか浮かばない。

「で、それが何か?」
「凄いでしょ? あの年で画家デビューなんて」
「活躍してるならそうなんでしょうけど……もしかして、もっと驚かないといけないところですか? 俺、そういう分野の人のことはさっぱりなんです」
「……ふむ。だったらちょうどいいのかも」

 榎沢先生は一人で納得して頷く。仮に中楚が有名な高校生画家なるものだとしても今日だけの印象だと素直に尊敬できない。このままでは全ての画家に対して多大な偏見を持ってしまう。

「清莉奈はそういう活動をしているんだけど、時々アイデアに詰まることがあって、そういう時に唐突な要求をしてくることがあってね。今回の場合は裸夫が描きたいって話になったの」
「はぁ……」
「だから、先生が学校の生徒リストを渡して候補を絞って貰って……」
「あんたも共犯だったんかい!? だったら、さっきはもっと早く止めてくださいよ!」

 よく考えたら状況を説明してすぐに飲み込んでくれたのはおかしいと思うべきだった。というか、生徒リストなんて生徒に見せたら絶対駄目なものだろうに。

「まぁまぁ、落ち着いて。ちょっと強引かなぁと思ったし、悪いなぁと思ったりしたけど、そうせざるを得ない状況だったりするから」
「それは……高校生画家って立場があるからですか?」
「それも少しあるね。でも、それ以外にも清莉奈には色々事情があるからなるべく要望には沿ってあげたいと思ってるの」

 そう言った榎沢先生の表情は……何かを憂いているように見えた。さっきの出来事から俺はそれを感じ取ることができなかったけど、中楚側にも事情がある……いや、裸夫が描きたいのを許容されるようなのっぴきならない事情って何だ。

「そういうわけだから三雲くんには脱いで貰うか、もしくは清莉奈が飽きるまで付き合って貰うしかないんだよねー」
「いや、全然説明足りてないですよ!? ここまでの話だと有名だから贔屓されているようにしか聞こえないんですけど!?」
「詳しいところまで話すには三雲くんがこの件に協力することを同意してくれないと」
「詐欺みたいな誘導はやめてください。普通は事情を説明した上で同意するものでしょ」
「こう見えて先生は三雲くんのこと信頼してるんだよ? 生徒リストで確認したところ特に問題行動起こしてないし、量産型主人公系男子みたいな顔してるし」
「その言い方共通認識なんですか。あんまり褒められてる感じがしないから嫌なんですけど……」
「頼むよー 人助けだと思ってさー」
「……すみません。さすがに協力できません」

 俺は少し頭を下げてそう言う。榎沢先生が本当に協力して欲しいと思っていることは雰囲気でわかるけど、冷たい言い方をすれば俺がそこまでやる義理はない。俺と美術部は何の関係もないし、中楚や榎沢先生は今日初めて話したばかりなのだから。
 すると、榎沢先生は顎に手を当てて考えた後、ポケットから何か取り出す。

「しょうがない……三雲くん、これを見て」
「えっ……そ、それは!?」

 榎沢先生が取り出したスマホで見せてきたのは……俺が中楚の手を止めている先ほどの光景を撮った写真だった。静止画で見るとやっぱり俺の方が悪いことをしているように見える。

「いつの間に!? ま、まさか……」
「先生としてはこんな手段は使いたくなかった。これがうっかり広まっちゃったら三雲くんは大変なことになるかもよ?」
「お、脅してるんですか。俺が真実を言ったら不利になるのは先生の方ですよ」
「うん。たぶん清莉奈の方に聞かれてもあの子は事実を話すだろうね。でも、そうされないように先生も動くつもりだから。たとえ先生の立場が無くなる危険があってもね」

 謎の覚悟を決めた榎沢先生は俺を真剣な目で見つめてくる。
 それは本気で脅している……というよりはこれで折れて欲しいと言われている気がした。言っていることはめちゃくちゃだけど、榎沢先生自身は決して悪い人のようには思えない。それは中楚に関しても同じで……これで騙されているなら俺は相当人を見る目がないのだろう。

 榎沢先生から視線を逸らしつつ、俺は少し考えてから口を開く。

「……わかりました。でも、俺は脱ぎませんからね。飽きるまで粘る方向で」
「ごめんね、三雲くん。本当に助かる」

 今度は榎沢先生の方が頭を下げる。そこまで中楚のことを思っているのは、単に有名で贔屓しているからじゃなく、美術部員の一人としての心配か。それとも教師としての思いか。あるいは……

「あっ。万が一間違いが起こっても先生は全然気にしないから、そこはご自由に」
「いや、気にしてくださいよ!?」
「ちなみに事を起こすのを心配してるのは三雲くんの方じゃなくて、清莉奈の方」
「いったいあの子に何されるの!?」

 マジで中楚がどうしようもないから俺に押し付けたか。それだけは合っていて欲しくない。

 そんなこんなで、ちょっとした刺激を求めていた俺が特別な日になると思っていた今日は想像とは違った意味で特別な日になってしまった。
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