それでも君に恋をした

米猫

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本編

5、初めまして·····のはず?

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追いかけていた奴が振り返った瞬間時間が止まった感覚がした。

中性的な顔立ちとサラサラで輝いてる金髪は一瞬女かと思うような顔だった。


(キレイな顔のやつだ··········)


こんなにキレイな顔をしているならやはり女か?と疑ったが制服は男子ものだ。

顔を見すぎたかもと思ったがどうやら向こうも固まっているらしい。


「おい·····これ、向こうに·····って?」


落としていったハンカチを差し出した時だった。目の前にいる男がポロポロと涙を流し始めたのだ。急な展開にフレッドは混乱する。


「おい、なんで泣いてんだよ?あ~泣くなって!」


差し出したハンカチは行き場を失い宙をさまよう。今まで女が泣いたところは何度も目にしたことがあるフレッドだった。だが、目の前で男に泣かれるのはこれが初めてである。

どうしようか悩んでいると目の前にいた男は必死に涙を止めたあと、急に頭を下げた。


「いきなり泣いてごめんね?」

「いや、別にいいんだが大丈夫か?」


そう声をかけるが相手は困った顔をしてしまった。


「あっーあと、俺音聞こえないんだ·····ごめん。」


フレッドは何故困った顔をしていたのかを理解した。

そしてその言葉を聞いた瞬間何故だが胸がキュッと締め付けられた。初めてあった人間に何故こんなに気持ちになるのかフレッドにはわからなかった。

フレッドは辺りを探すと木の枝が落ちているのを見つけた。


(確かに聞こえないのは言いづらいよな。こうすれば会話·····出来るか?)


フレッドは落ちていた木の枝をとると地面に文字を描き始めた。


【俺も配慮が足りなかった】

「大丈夫だよ。だって·····初めて会ったんだし!知らなくて当然だよ。」


耳が聞こえないっていうハンデを持ってるにも関わらず明るく振る舞う姿にフレッドは心惹かれた。


【そうか。ありがとな。】


普段なら初対面の人間にはここまで心を開かないのに何故だがフレッドはアッシュには心を開いていた。


「遅くなったけど、俺はアッシュ!アッシュ・バードン。君は?」


アッシュ·····いい名前だとフレッドは素直に思った。


【俺はフレッド・ディアスだ。】

「フレッド·····君?」


フレッドは思わず笑いそうになってしまった。確かに初対面で呼び捨てはしにくいだろうが「君」をつけられるとは思っていなかった。


【君はいらない】

「じゃあ、俺もアッシュで!」


その言葉にフレッドは頷いた。小さな声でアッシュと読んでみるがその声は本人には届かなかった。

当のアッシュは講堂の方を見ていた。確かにもうそろそろ移動した方がいい時間かもしれない。


「もうそろそろ時間だから講堂行かなきゃだね。俺、兄に1度会わなくちゃ行けないからもう行くね。」


アッシュはそう言って手を振った。俺もつられてアッシュに手を振る。そして、姿が見えなくなるまでそこに立ち尽くしていた。


「·····初めて会ったんだよな?」


初めて会ったはずなのに初めての感じがしなかった。出来れば一緒に講堂に行けたらと思っていたがどうやら待ち合わせをしているらしい。

フレッドも講堂へ移動しようとした瞬間、手を振った反対の手にアッシュのハンカチがまだある事に気づいた。


(やべ·····返し忘れたか。)


フレッドはため息をひとつつくと、フレッドが行った道を辿って行った。



角を曲がりもうそろそろ講堂に着く時だった。


「ぐっ、俺の弟が·····かわいい·····」


そう言って地面に崩れている人物が目に入った。そして、その前に立っている人を見てフレッドはあることを思い出した。


(アッシュ・バードン·····あのバードンか!)


この学園では知ってる人は知っている話だが、シリル・バードンは「容姿端麗・頭脳明晰なのに残念な人間である」という話である。

何故残念な人間かって?それは見ての通り重度のブラコンのせいである。


(名前聞いた時に思い出せば良かった·····)


ハンカチは渡しに行きたいがシリルとは関わるのはごめんである。フレッドは後で返そうと決め講堂の中に入っていった。

講堂の中に入り適当に座り、入学式兼進級式を受ける。

その後、張り出されたクラス表を見ると顔が緩んだ気がした。


「さて·····さっさと行くか」


ポケットに入れたハンカチに1度触れると、フレッドは教室に向かって歩き出した。
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