それでも君に恋をした

米猫

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本編

1.知っていて知らない場所

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どのくらい目をつぶっていたのだろう。段々眩しさも収まり目を開いても大丈夫な気がした。

アッシュは恐る恐る目を開く。


「えっ···············」


視界に入ったのは魔の森や冷たくなったフレッドの身体ではなく、生まれてからずっと自分が使っていた部屋の天井だった。

慌ててベットから起き上がり、アッシュは周りを見渡す。


(おかしい。夢?·····だって、先まで戦っていたはず·····)


アッシュは自分の頬をつねる。夢だったら痛くないはず·····。だが、頬をつねると痛みがやってきた。


「·····夢じゃないの?」


あまりの驚きに固まっていると、誰かに肩をポンポンと叩かれた。


「うわぁぁぁぁあ!」


ただでさえ状況を認識できていない。そこに、誰かに肩を叩かれたら誰でも驚く。

アッシュが後ろを振り向くと、いつも自分の世話をしてくれていたアリアがいた。


「あっ、·····アリア?」


アリアの名前を呼ぶと、アリアは驚き嬉しそうに笑う。そして、口を開き何かを喋りだした。

 
「~~?~~~!」


だが、喋っている言葉は音としてアッシュには届かなかった。


「アリア?·····喋ってるの?」


そう聞くと、アリアはしまったという顔をして空中に指で文字を書出した。


【目を覚まさまれて良かっです!高熱で3日も目を覚まさなかったんですよ?】


どうやら、アッシュは原因不明の高熱で3日も目を覚まさなかったらしい。アリアは、嬉しすぎて文字を書くのを忘れていましたとまた空中に文字を書いた。

アッシュは宙に浮かぶ文字を見てふと自分の事を思い出した。

今のアッシュは生まれつき耳が聞こえないらしい。そのせいで親が過保護になりあまり家から出ないで過ごしていたら、体力もなく、よく風邪を引いたり熱を出したりする子に育った。


(前の俺とは·····全然違う。)


以前の自分だったら、病気知らずで家にいるより外にいる方が好きでよく友達と外に出ていた。


(そういえば、今の俺って友達いないんだよね·····)


今の自分の現状を思い出し考え込んでいるとアリアがまた宙に文字を書き出した。

アリアが言うには今日は学園の入学式らしい。だが、原因不明の高熱で3日も目を覚まさなかった俺は両親からしばらく休めと言われている。


「アリア、俺入学式行きたい·····制服準備して?」

【体調は大丈夫でしょうか?もう少し休まられた方が·····】

「もう、大丈夫だよ!それにほら、早く学校に行って初めての友達作りたいし。」


そう言うと、アリアは涙を流しながら嬉しそうに制服のを持ってきた。


【奥様と旦那様の説得は任せてください!アッシュ様は制服を着てから食堂にいらして下さい!】

「ありがとう」


アリアはアッシュに制服を渡すとすぐに部屋を出ていった。アッシュは受け取った新しい制服に袖を通す。


(あの頃と見た目は変わんないな)


姿見を見てアッシュは苦笑する。

だが、姿見に映る自分が次第にぼやけてくる。


「あっ·····れ?」


自分の顔に触れると、涙で濡れていた。
涙を抑えようとしても溢れ出てくる。



なぜ、自分はここにいるのだろうか。

あの後、フレッドはどうなったのだろうか?

冷たくなった最愛の人を1人で置いてきてしまっていないだろうか·····



あの時握っていたフレッドの手の感触はまだ忘れていない。自分にだけ向けられる甘く優しい声も。普段は無表情なのに自分にだけは見せてくれる笑顔も。

全部全部思い出そうとすれば頭の中に浮かんでくる。


「フレッド··········会いたいよ··········」


この気持ちをどこに向ければいいのだろうか。アッシュが処理しきれない感情に悩まされていると、ドアがノックする音が聞こえた。


「·····はい?」


ノックをした主に返事をすると、アリアが入ってきた。
アリアは部屋に入ると、涙を流している主人に驚き駆け寄ってきた。


【どうされたんですか?】

「大丈夫だよ?·····少し悲しくなっちゃっただけ」

【·····そうですか。もしかして、友達が出来るか心配になりました?】


元気を出させようとしてくれたのだろう。アリアのその一言にアッシュは笑う。


「ふふっ、そうだね。うん。そうかもしれない」

【アッシュ様、そうやって笑っていて下さい。笑っていたらその笑顔に引き寄せられ自然と人は寄ってきますから。】


よく主人のことを見ているメイドだ。アッシュはアリアのその言葉を聞き少しの元気と勇気が湧いてきた。

まだ、過去の事は受け止めきれないし現状も理解出来ていない。心の中はぐちゃぐちゃだ。

それでも、ここで止まってしまえば何もわからない状態は続くだろう。それなら、ここを出てもう一度、フレッドを探そう。

この世界があそこと同じならばきっとフレッドは学園にいるはずだ。


「アリア、お母様とお父様はOK出してくれた?」

【はい!とても心配されてましたが、シリル様が今日は近くにいて下さると仰ってくださったので、入学式に行ってもいいそうです!】

「そっか!シリル兄さんが来てくれるんだ。」


2つ上の兄シリルは、前の時間でも仲良しだった。前の時間で起きたスタンピードのもシリルは別の場所で戦っていた。


(あの後、シリル兄さんがどうなったのかわからない·····けど、またこうして会えるのは嬉しい。)


前のシリルと同じ·····と言っていいかはわからないが、それでも大好きだった兄に会えることは嬉しい。 


【アッシュ様、もうお時間がギリギリですのでご移動して頂いてもよろしいでしょうか?】


アリアのその言葉に目を向けたあと時計を見てみると、すでにいい時間になっていた。


「わかった。ありがとうアリア。いってきます」


そう言うとアリアが宙にいってらっしゃいませと書いた。

アッシュは、不安と期待を胸に抱え部屋を後にした。
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