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本編
プロローグ
しおりを挟む「ねぇ·····フレッド!?·····やだ、やだよ!」
悲痛な叫びが響き渡る。
その声の主は目の前で腹部から血を大量に流している男の止血を必死に行う。
「アッ、シュ·····だっ·····い·····じょ···だ」
アッシュと呼ばれた男は、ポロポロと涙を流しながら止血を行い、男の意識が途切れないよう声をかけ続ける。
「喋んないで!すぐに回復魔法使える人が来るから!」
男達がいるのは魔の森と言われる場所。20年に1度訪れるスタンピードから必死に国を守っていた。
今、この国で戦えるものたちは必死に魔物を食い止めている。それに伴い回復魔法を使える人達は必死に戦っている人たちを救うために魔法を使っている。
そもそも、回復魔法を使える人達は多くない。だからこそ、2人はわかっていた。
フレッドが助かる見込みはないってことを。
「ア·····シュ·····」
「フレッドなに!?」
「·····にげ·····ろ」
フレッドのその言葉にアッシュは身体をかたまらせる。
「嫌だ!君を置いて逃げたくない!」
アッシュは止まらない涙を無視し、アッシュの腹部を圧迫し止血を試みるが、出血は一向に止まらない。
「なんで!?·····っ、なんで止まらないのさ!」
涙がフレッドの身体の上にポタポタと落ちていく。
苦しそうなうめき声と息遣いがその場を支配する。
「うっ·····アッ·····シュ」
「もう、喋んないでよ!助けるから!」
わかっている。フレッドがもう助からないことは。それでもアッシュは諦めたくなかった。
必死に腹部をおさえているアッシュにフレッドは最後の力を振り絞って手を伸ばす。
アッシュは片手で圧迫止血をしながら伸ばされた手を握る。
「ア·····ッ·····シュ·····あり·····が·····う」
「お礼なんていらないよ!まだ2人で生きるんでしょ?」
「す·····き·····だ···っ··········」
フレッドと付き合いはじめ、「好き」と彼から伝えてくれたのはこれが初めてだった。
「そんなの俺もだよ!俺の方が·····お前が好きなんだよぉ!」
アッシュは最初で最後のかもしれないその言葉に嬉しさや悲しさなど様々な感情が入り混じる。
「これからも、何回も!毎日·····俺に直接言って!」
たがその願いは通じなかった。握っていたフレッドの手はいつの間にか力が抜けており、苦しそうなうめき声と息遣いは聞こえなくなっていた。
「·····ねぇ、フレッド?寝てるの?起きてよ?」
アッシュはフレッドの頬を触る。
まだその頬は暖かく、フレッドが生きている気がした。
だが、何度も呼びかけても手は握り返されずフレッドの身体ば冷たくなっていく。
「いっ·····一緒にいるって·····約束·····したじゃん!」
溢れる涙を抑えることが出来ず、アッシュはただ泣き叫んだ。
そして、誰でもいいからフレッドを生き返らせて欲しい。その為なら自分は何を失っても構わない。
「神様·····お願い。いるなら·····どうか··········」
アッシュは神にも縋り付く思いだった。
『その願い·····聞き入れた。』
「えっ?」
『可哀想な私の子達··········どうか幸せのためにもう一度··········』
その声が聞こえた瞬間、目が開けられないほどの眩しさに襲われアッシュは目を閉じた。
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