それでも君に恋をした

米猫

文字の大きさ
上 下
2 / 7
本編

プロローグ

しおりを挟む


「ねぇ·····フレッド!?·····やだ、やだよ!」


悲痛な叫びが響き渡る。
その声の主は目の前で腹部から血を大量に流している男の止血を必死に行う。


「アッ、シュ·····だっ·····い·····じょ···だ」


アッシュと呼ばれた男は、ポロポロと涙を流しながら止血を行い、男の意識が途切れないよう声をかけ続ける。


「喋んないで!すぐに回復魔法使える人が来るから!」


男達がいるのは魔の森と言われる場所。20年に1度訪れるスタンピードから必死に国を守っていた。

今、この国で戦えるものたちは必死に魔物を食い止めている。それに伴い回復魔法を使える人達は必死に戦っている人たちを救うために魔法を使っている。

そもそも、回復魔法を使える人達は多くない。だからこそ、2人はわかっていた。

フレッドが助かる見込みはないってことを。


「ア·····シュ·····」

「フレッドなに!?」

「·····にげ·····ろ」


フレッドのその言葉にアッシュは身体をかたまらせる。


「嫌だ!君を置いて逃げたくない!」


アッシュは止まらない涙を無視し、アッシュの腹部を圧迫し止血を試みるが、出血は一向に止まらない。


「なんで!?·····っ、なんで止まらないのさ!」


涙がフレッドの身体の上にポタポタと落ちていく。

苦しそうなうめき声と息遣いがその場を支配する。


「うっ·····アッ·····シュ」

「もう、喋んないでよ!助けるから!」


わかっている。フレッドがもう助からないことは。それでもアッシュは諦めたくなかった。

必死に腹部をおさえているアッシュにフレッドは最後の力を振り絞って手を伸ばす。

アッシュは片手で圧迫止血をしながら伸ばされた手を握る。


「ア·····ッ·····シュ·····あり·····が·····う」

「お礼なんていらないよ!まだ2人で生きるんでしょ?」

「す·····き·····だ···っ··········」


フレッドと付き合いはじめ、「好き」と彼から伝えてくれたのはこれが初めてだった。


「そんなの俺もだよ!俺の方が·····お前が好きなんだよぉ!」


アッシュは最初で最後のかもしれないその言葉に嬉しさや悲しさなど様々な感情が入り混じる。


「これからも、何回も!毎日·····俺に直接言って!」








たがその願いは通じなかった。握っていたフレッドの手はいつの間にか力が抜けており、苦しそうなうめき声と息遣いは聞こえなくなっていた。


「·····ねぇ、フレッド?寝てるの?起きてよ?」


アッシュはフレッドの頬を触る。

まだその頬は暖かく、フレッドが生きている気がした。

だが、何度も呼びかけても手は握り返されずフレッドの身体ば冷たくなっていく。


「いっ·····一緒にいるって·····約束·····したじゃん!」


溢れる涙を抑えることが出来ず、アッシュはただ泣き叫んだ。

そして、誰でもいいからフレッドを生き返らせて欲しい。その為なら自分は何を失っても構わない。


「神様·····お願い。いるなら·····どうか··········」


アッシュは神にも縋り付く思いだった。



『その願い·····聞き入れた。』

「えっ?」

『可哀想な私の子達··········どうか幸せのためにもう一度··········』


その声が聞こえた瞬間、目が開けられないほどの眩しさに襲われアッシュは目を閉じた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

Ωの皇妃

永峯 祥司
BL
転生者の男は皇后となる運命を背負った。しかし、その運命は「転移者」の少女によって狂い始める──一度狂った歯車は、もう止められない。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

人生イージーモードになるはずだった俺!!

抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。 前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!! これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。 何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!? 本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

なぜか第三王子と結婚することになりました

鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!? こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。 金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です ハッピーエンドにするつもり 長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です

処理中です...