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本編

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アルマとルーカスと少年が街の方へ移動していると前方から見覚えのある人物がやってきた。


「ルーカス様!」

「あれは·····ブラントさん?」


ルーカスの元まで走ってきたブラントは息を切らしていた。ブラントは騎士だ。普段から鍛えている彼が息を切らすほど走り続けながら自分を探してくれていたことにルーカスは申し訳ないと思いつつも嬉しく感じた。


「無事ですか!?怪我は·····っ!?」


ブラントがルーカスの状態を確認すると手足に擦れた跡や引っ掻いたような傷があった。血は既に止まっていたがその傷跡は痛々しかった。


「申し訳ありません·····我々の不注意で·····」


そう言って頭を下げるブラントに対しルーカスは頭を上げるように言った。


「ブラントさん達は悪くないです!俺がもう少し気をつけてれば良かったですし·····そもそも悪い事をする人がいけないんです。だから、頭を下げないで下さい!」

「しかし·····「はい、ストーップ!!」」


永遠に謝り合いを続けそうな2人の会話をアルマがとめた。ブラントはチラッとアルマに視線を向けた。


「あなたは·····このメモの送り主ですか?」

「そう!私の名前はアルマ。アルマ=デルハイトって言えばわかるかな?」


ブラントはその名前を聞いた途端驚いた顔をしたがすぐに元の顔に戻った。


「かの有名なデルハイト卿でしたか。」


エルツには3つの騎士団が存在する。その中でも第1騎士団と呼ばれる騎士団は主に王族の警護に当たっている。

エルツの中でも優秀な人材が集まっており第1騎士団への入団はまず難しい。

しかし、数年前第1騎士団初の女性騎士が誕生した。その騎士の名はアルマ=デルハイト。

異例の入団にも関わらず彼女は数々の功績を挙げその名を馳せている。


「やめてよ恥ずかしい。まぁ、それはどうでもよくてこの子が捕まってた屋敷の前に男を拘束してるからあとはよろしくね。あと、担いでるこの子も後のことは任せた!私はそろそろいかないと怒られちゃうからさ。」


次々と事を進めていくアルマにブラントは少し既視感を感じた。


「デルハイト卿ありがとうございます。このお礼は·····」

「お礼は然るべき人から受け取るから気にしないで!」


そう言ってその場を去ろうとしたアルマにルーカスは声をかけた。


「アルマさん!あっ、ありがとうございました。」

「はいよ!ルーカスまた今度ね!」


アルマはルーカスに向かって手を振りその場を後にした。

ブラントは男が2人拘束されている場所をルーカスと少年から聞き出すと共に来た同僚に場所を伝え男を連れていくように伝えた。


「さて·····ルーカス様その少年は?」

「えっと、俺を助けてくれた人です。名前は·····」

「名前は·····ないです。」


少年の返答と身なりを見てブラントはすぐに少年が孤児だと判断した。


「これまでの経緯を簡単に教えて貰ってもいいですか?」


ルーカスと少年はルーカスが攫われた後からブラントと合流するまで経緯をかいつまんで話した。
男達がルーカスを誘拐した理由や本来ならギルバードが誘拐されていた話を聞いてブラントは自分の力のなさを痛感し自己嫌悪に陥った。


「本当に·····護衛という立場でありながらお守りすることが出来ず申し訳ありません。」

 
再び頭を下げたブラントをみてルーカスは頭を悩ませた。

ルーカスは別にブラント達が悪いとは思っていない。本当に頭を下げなくてはいけないのはルーカスを誘拐した男達だ。

しかし、ブラント達の任務はルーカスとギルバードの護衛だ。ルーカスが誘拐されてしまった地点で任務は達成出来ていない。
 
ルーカスは少し考えたあと口を開いた。


「ブラントさん·····さっきも言った通りブラントさん達は悪くないです。でも、ブラントさんにはブラントさんのお仕事があったんですよね。」

「·····はい。私達の任務はお二人の護衛です。その任務すらこなせないのであれば·····」

「じゃあ、約束して下さい。」

「約束·····ですか?」


普段、自分から意見を言うような性格ではないルーカスがしっかりブラントの目を見て自分の意思を伝えようとしていた。予想もしていなかったルーカスの反応にブラントは少し戸惑った。


「この先、ギルはきっと·····またこのような事に巻き込まれるんですよね。その前にギルを助けて·····守ってあげてください。」

「·····っ、それはもちろんです!今後は、このような事態にはならないように私も訓練を増やしていきたいと思います。」


ブラントも自分の気持ちがしっかり伝わるようにルーカスの目を見つめ返した。しかし、その目は少し寂しげだった。


「ルーカス様?どうさ·····「おーい!ルー!!」」


どうしたのかと思いブラントがルーカスに声をかけた時だった。ギルバードが声を上げながらこっちに向かって走って来た。

その声にブラントの声はかき消されてしまった。それと同時にルーカスがボソッと呟いた声も近くにいたブラントに届かず消えてしまった。



「·····痛いのと1人になるのはいいけど·····迷惑だけは·····かけたくないな·····」
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