嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

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そっとドアを開けて左右を確認するがそこには誰もいなかった。部屋の外は廊下でこっそり除く限りいくつか部屋があるように見えた。


(どこかの屋敷かな?)


そうであれば出口を探すのに時間がかかる可能性がある。しかし、ここにとどまるの方が危険なためルーカスは足音をたてないように部屋の外に出た。

部屋は一番端っこにあったらしくすぐ横には窓があった。ルーカスは窓から外を覗いた。


(あまり高くないや·····2階くらいかな?)


窓の外には建物がいくつも見えどうやら街の外には出ていないことが伺えた。ルーカスは窓から離れ足音に気をつけながら屋敷の中を歩き始めた。

部屋を何室か通り過ぎるとすぐ横に階段があった。そっと下の様子を伺うとどこからか男達の話し声が聞こえる。しかし階段のすぐしたから聞こえてくるわけではなかったのでルーカスは慎重に階段を降りた。

階段を降りると右手の奥の方に玄関があったが玄関がある方の部屋から男達の声が聞こえた。


(玄関から出るのは難しいかな?)


絶対に玄関が開いてるとは限らない。開いてなかった場合のリスクを考えると別の出口を探す方が懸命だと思ったルーカスは他の部屋の様子を見てみようと左手に進もうとした。


「·····っ!?」


その時だった。後ろから誰かに口を塞がれた。しかし声を出してしまうと男達に見つかってしまう可能性がある。ルーカスは視線だけを後ろに向けた。

そこに居たのは1人の少年だった。身長的にはエルドより大きいが体格は痩せていた。少年と目が合うと少年は空いてる片方の手でシーっと喋るなとルーカスに合図すると左手の奥にある部屋へとルーカスを連れて行った。


「君をここから出してあげる。」

「·····なんで?」


部屋に着くなり少年はそう言った。ルーカスはその言葉から少年は男達の仲間だと認識した。しかし、ルーカスを逃がすということは少年や男達の不利益になる。なぜ少年が自分を逃がそうとするのかルーカスには理解が出来なかった。


「君はあいつらの仲間でしょ?俺を逃がしたらダメなんじゃないの?」

「·····まぁ。でも、君は間違って連れてこられたんでしょ?だったらここにいる理由はないでしょ。」


ルーカスは少年を見た。少年は嘘をついている様子ではなかった。逃がしてもらえるのであれば願ってもないことだ。しかし、ルーカスがここから居なくなれば少年は男達にルーカスを逃がしたと疑われるだろう。


「俺がいなくなったら君は大丈夫なの?」

「·····大丈夫ではないけど君が助かるならそれでいいよ。」


そうは言うがその行動は少年にとってなんのメリットもない。なぜそのような行動を取ろうとするのかルーカスには理解できなかった。


「初めて会う俺にどうしてそこまでするの?」

「これ以上罪を増やしたくないから·····」

「·····罪?」


少年は少し寂しそうに笑うとルーカスの手を取り窓の近くへ移動した。


「ここから脱出しな。ここの通りを右に真っ直ぐ行って突き当たりを左に真っ直ぐ行くと街の中心の方へ行けるよ。人通りが多くなったらそこで大人に助けを求めな。でも、ここら辺は貧民街が近いからあまり長居をしたらダメだよ。」

 
少年は窓の近くに椅子を持ってきてくれた。


「君も俺と逃げよ?好きでここにいる訳じゃないんでしょ?」  


ルーカスがそう言うと少年は少し困ったような顔をした。


「僕はここから出られないよ。陽のあたるような場所には行けない。」


何かを諦めたようなその顔はルーカスには見覚えがあった。それは少し前の自分と同じだった。

陽のあたらない場所で過ごし自分の居場所がわからなかった少し前の自分。ルーカスは自分の境遇と少年を重ね合わせた。


(·····助けられないのかな?)


しかし心を閉ざした人間が心を開くのには時間がかかる。ルーカスだってそうだ。まだ完全に他人に心を開けるような状態じゃない。それでも日々成長していっている。

ルーカスは少年に手を差し出した。少年はルーカスの手と顔を交互に見たあと困ったように首を傾げた。


「君も外に行こ?」

「でも俺は·····たくさん悪い事をしたから·····」

「·····もしそうだとしても今、俺を助けようとしてくれたよね?俺はそのお礼がしたい。」


ルーカスは少年の顔をじっと見つめる。少年は少し考えこんだ後ルーカスの手を取ろうと手を伸ばした。


「おい!坊主こっちこい!」


しかし、その手がルーカスの手に届く事はなかった。男達が少年を呼んだのだった。少年は伸ばしかけた手を引っ込めてしまった。


「早くここから逃げて?」


少年はルーカスの背を押し椅子に登らせる。


「きっ、君はどうするの? 」

「呼ばれてるから行かなきゃ·····すぐには君のことはバレないはず。だから大丈夫だよ。」


窓から脱出しようか迷っていると再び男達の声が聞こえた。その声を聞いた少年は少し焦りだした。


「今君がここから脱出しない方が2人とも危険なんだ!だから早く!」

「·····後で絶対に助けに来るよ。」


ルーカスはそう決意し窓の外へジャンプした。そして外に出たのを少年に伝える。


「すぐに来るから待っててね!」

「·····うん、ありがとう。」


そう言うとルーカスは少年が伝えてくれた道を走り抜けていった。少年はルーカスが消えたのを確認し窓を閉めて男達の方へ向かった。


(あの子·····髪色と目の色は違うけど少し似てた·····)


男達がいる部屋の前で少年はルーカスの姿を思い返した。そして、少しでもルーカスが遠くに逃げれるように時間を稼ごうと決意しドアを開けた。


「なんですか?」

「来るのがおせーよ!」

「·····すみません」

「まぁ、いい。上に1人のガキがいる。逃げないように監視してろ。」

「·····わかりました。」

「そいつが逃げたら·····どうなるかわかってるよな?あいつと同じ目にあいたくないならせいぜいしっかり見張ってるんだな。」


少年と少し前まで一緒にいた仲間がいた。しかし、その仲間が度々誘拐されてきた子供を逃がしていた。少年もそれを手伝っていたが、ある日子供を逃がしていのがバレてしまいその仲間は男達に殺されてしまった。

少年は自分だけが殺されなかった事を申し訳なく思っていた。そのせいなのか、仲間と雰囲気が似ていたルーカスを逃がした。そうすれば少しは自分が救われるような気がした。


「わかったなら行け!」


少年は男達にお辞儀をしその部屋を後にしたのであった。
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