嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

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連れてこられたのは研究棟の一室だった。部屋に入るとそこには所狭しと本が置いてあった


「研究室へようこそ。見ての通りこの部屋に置いてあるのはほとんど本なんだ。だから、面白いものはあんまりないと思う。」


テオドールがそう言うとルーカスは部屋を確かめるようにぐるっと見回した。部屋の壁はほとんど本棚と本で見えなくなっている。そして、置いてある本はどれも精霊に関するものばかりだった。


「こんなにも精霊に関する本ってあるんですね。」

「たくさん集めたからね。重要そうなものはノートにまとめたりしてるよ。」


テオドールは表紙に1と書いてあるノートをルーカスに渡した。ルーカスはそれを受け取るとページをパラパラとめくった。
横にいたギルバードも内容が気になり覗き込んできたので2人で読むことにした。

ページをめくるとそこには契約は7歳の誕生日に行われるなど小さい子供でも知っている基本的なことが書かれていた。


「ねぇ、思うんだけどなんで精霊との契約って7歳なの?」

「ギル·····お前先生から教えて貰っだろ?」

「それくらい覚えてますよ!体内にある魔力回路が安定するのが約7歳です。だから7歳になると精霊と契約をする儀式を行います。」

「よく勉強出来てるじゃん。えらいえらい。」


そう言ってハロルドはギルバードの頭を撫でる。すると恥ずかしくなったのかギルバードはハロルドの手を払った。


「なっ、やめてください!これくらい知っていて当然です。」

「なんだ?照れるなって。」

「照れてません!」


じゃれあってるハロルドとギルバードを見てテオドールはため息をついた。いくら学園が休みだからといって学生全員が帰ってる訳では無い。研究をしたいと残っている学生もいる。あまり騒がしくしてしまえば残っている学生達に迷惑がかかる。

少し静かにするよう声をかけようと口を開いた時だった。


「ななさいじゃなくてもけいやくできるでしょ?」


そう言ったのはテオドールが契約した精霊のトゥールだった。精霊の声は契約者にしか聞こえないがここにはルーカスがいる。トゥールが喋った情報は公にはされていないことである。あまり不要に教えてはいけないものだ。


「トゥール!それ以上喋るな!」

「うわっ!テオおおきこえださないでよ~」


トゥールは耳を塞ぐとテオドールから離れルーカスの肩に座った。


「君は·····確かトゥールだっけ?」

「ルーひさしぶり!」

「うん、久しぶり。トゥールさっき言ってたことは本当なの?」

「うん!だっ「トゥールそこまでだ。」」


テオドールがトゥールの話を遮る。するとトゥールは頬を拗ねて膨らませた。ルーカスはテオドールの様子を見てこれ以上踏み込まない方がいいと感じた。


「なんでさえぎるのよ!」

「トゥールは何でもかんでも喋りすぎ!」

「むぅ·····もういいもん!きょうはかえる!」


そう言うとトゥールはパッと姿を消してしまった。テオドールは再びため息をつき頭を押さえた。


「全く·····すぐに拗ねるんだから。ルーカス·····さっきのことは忘れてくれたらいいんだけど·····」

「わかりました。」

「ごめんね。ありがとう。」


テオドールはルーカスの頭を撫でる。先程のハロルドとギルバードとは違いルーカスは大人しく頭を撫でられてた。


「末っ子くん·····本当に精霊の声が聞こえるの?」

「えっ·····?」


2人のやり取りを見ていたのか、ハロルドは真剣な眼差しでルーカスを見つめた。ルーカスは正直に答えていいのかわからずテオドールに視線を向ける。するとテオドールは、正直に答えて大丈夫だよと口にした。


「はい·····聞こえます。」


ルーカスが正直に答えるとハロルドは驚いたのかこれでもと言うくらい目を見開いた。


「信じられない·····愛し子という存在はすごいな。それじゃあ少し試したいんだけど、私の契約した精霊の名前を直接聞いてもらってもいいかな?」

「わかりました。」

「じゃあいくよ?」


次の瞬間、目の前に黒色で短髪、紫色の瞳を持った男の子の姿をした精霊が現れた。


「いとしごさま·····いや、ルーカスさまはじめまして。」


精霊はペコッとルーカスに向かってお辞儀をした。


「精霊さん初めまして。お名前·····教えて貰ってもいい?」

「ぼくはハルとけいやくしたスキアです。ぞくせいはやみです。」

「素敵な名前だね。教えてくれてありがとう。」


ルーカスがスキアに向かってお礼を言うとスキアは恥ずかしくなったのか顔を赤くしてしまった。そして、どういたしましてと言い残しその場から消えてしまった。


「あいつが恥ずかしがってるとこ初めてみた·····。まぁ、それは置いといて末っ子くん。あいつの名前はなんだった?」

「あの子の名前はスキアです。闇属性の精霊と言ってました。」

「ほぉ·····本当に会話ができるんだ。」


ハロルドは感心したあと少し考え込んだ。精霊が見得て話せるという存在はとてつもなく貴重だ。ルーカスの性格上、自分が愛し子だと言いふらすことは無いだろう。しかし、危険というものはどこにでも存在する。


「末っ子くん。君が本当に愛し子だということは確認できたけど、時期が来るまではバレないようにしてね?」

「·····わかりました。」


ルーカスはまだ愛し子がどのくらい重要な存在なのか理解出来ていない。しかし、この国の王族が言うくらいだ。もとより言いふらすつもりはないルーカスだがさらに気をつけなくてはいけないと決意した。


「ギルもだぞ。ルーカスのことは秘密にしとけよ?」

「わかりました。」


ギルバードは幼い頃からの教育によってどれだけ愛し子が重要な存在なのかを知っている。他国が喉から手が出るほど欲しがる存在だとも知っている。


(ルーのことは俺が守る。そのためにもしっかり秘密にしなきゃ!)


ギルバードがそう決意したのをつゆ知らず、ルーカスはただ秘密にしてくれる事にただ感謝をした。



 


研究室の見学も終えそろそろ帰ろうとした時だった。ルーカスは机の上にあったあるものが目に入った。


(あれって·····もしかして?)


机の上にあったのは以前ハリスから貰ったものでノアから回収を頼まれていたものだった。


「テオドール兄様!あの·····」

「ん?ルーカスどうしたの?」

「机の上にあるあの石なんですけど·····」

「あぁ!勝手に持ってきたまんまでごめんね。ルーカスがあれに触って倒れたからあの石がなんなのか研究してたんだ。」


そう言ってテオドールは机の上にあった石を手に取りルーカスの前に持ってきた。


「これがどうかしたの?」

「あの·····それを返して欲しいと言ってる人がいて·····」

「返して欲しい·····?誰が?」

「·····ノアです。」


ノアという聞きなれない単語にテオドールやハロルドは首を傾げた。そもそも家から出ないルーカスに知り合いはほとんどいない。
だからこそノアという存在は何なのか2人は知りたくなった。


「末っ子くん。ノアって誰なんだい?」

「えっーと、ハロルド様がこの間俺の中で会ってた人です。」

「末っ子くんの中?あっ、もしかして!」


ルーカスの中で出会ったのはただ1人、精霊王である。ハロルドはノアとの出会いを思い出してみると苛立ちを感じた。


「あの乱暴精霊王ね·····。それでなんで精霊王がそれを返して欲しいの?」

「どうやらその石はノアの一部なんだそうです。」

「一部·····あぁ、だから精霊石みたいだけど精霊石じゃないんだ。」


本来の精霊石の性質と異なったその石の正体に悩まされていたハロルドとテオドールは納得した。精霊石は本来魔力が含まれていない。しかし、この石はたくさんの魔力が含まれていた。

ルーカスの魔力がその石に吸われたにしてもその石がもつ魔力量は膨大だった。


(精霊王の魔力の一部·····そう言われればこの魔力の塊に納得がいく。)


思わぬ形で謎が解明した。ハロルドはテオドールの手からその石を取るとルーカスに差し出した。


「ハル?いいのか·····返して?」

「正体はわかったし返さなかったらあの精霊王めんどくさいぞ?」


そう言うハロルドの顔を見てテオドールはノアとハロルドの間に何があったのか想像できた。


「ほら、末っ子くん。受け取って。」

「ありがとうございます。」


ルーカスがその石を受け取った瞬間、石が光りだした。あまりの眩しさにその場にいた4人は目をつぶった。

少し時間が経ち光が少し弱くなった。ギルバードは恐る恐る目を開けた。すると目の前の光景に目を奪われた。

キラキラと輝く光の粒がルーカスの周りに降り注ぎルーカスにその光の粒が触れるとスっと消えていった。


(なんて綺麗なんだろう·····)


その光景は今まで見てきたものの中で1番の美しかった。

ルーカスが光の粒に向かって手を伸ばす。光の粒が消えるように何故かルーカスが儚く感じた。

美しその光景に胸がドキドキと高鳴るのと同時にこのまま消えてしまいそうなルーカスの存在に何故か怖くなった。

ギルバードは思わずルーカスに駆け寄り抱きしめた。ルーカスは急に抱きついたギルバードに驚きそのまま倒れしりもちをついた。


「ギル?どうしたんですか?」

「·····っ、ルーどこにもいかない?」

「どういうことですか?」


ギルバードの質問の意図がわからずルーカスは首を傾げた。しかし、ギルバードの様子を見る限り何か不安にさせてしまったのだろうと感じた。

ルーカスはギルバードを安心させるためにテオドールがいつもルーカスにするのと同じようにギルバードの頭をポンポンと撫でた。


「ギル、俺はここにいますよ。大丈夫です。」


撫でなれてないその不器用な手つきだったがギルバードはその手から伝わる温もりで安心することが出来た。


「絶対だよ。·····これからも一緒にいてよ。」

「わかりました。」


ギルバードはルーカスを抱きしめている腕に力を強めたのであった。
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