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本編

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建国祭が始まって数日が経った。ルーカスは初日にギルバードと行ったきりだった。


「ねぇ、ルーカス?一緒に建国祭に行かない?」

「今日ですか?」


テオドール達が通っている学園は建国祭の期間は休みになる。寮暮らしをしている学生もこの期間は申請を出せば家に帰ることが出来る。
 
今までは帰ってこなかったテオドールだったが今回の休みはさっさと屋敷に帰ってきていた。


「うん。祭もだけどこの期間はね学園を解放していて誰でも見学出来るようになってるんだよ。行ってみたくない?」

「·····はい!」


学園に通うのが夢だったルーカスにとってそれは嬉しい誘いだった。

テオドールはエルドにも声をかけたがわざわざ休みの日まで学園には行きたくないと断られ2人で出かけることにした。


「ルーカスは学園に行って何が見たい?というか
他に行きたいところはあるの?」

「そうですね…兄様の研究室には興味があります。あとは·····教会を見てみたいです。」


この国で教会は主に精霊との契約をするために人々が訪れる。その他にも祈りを捧げる人も入れば教会は貧困している人達に炊き出しや治療を行っているのでそれらを求めに来る人もいる。


「教会?·····珍しいね。じゃあ、教会の方が近いから先に行こっか?」

「教会で精霊と契約するんですよね。どんな場所なのか少し興味があります。」

「そっか。ルーカスも精霊に興味があるんだ。」


思いもよらないところで共通点を見つけたテオドールは思わず表情を緩めた。

教会は街の中心部ではなくどちらかというと外側にある。なるべく自然の多い土地に教会を建て、より精霊と距離が近くなるようにしている。

教会に着いた2人は司祭に断りを入れてから教会に入った。中に入るとそこは大きな像があり周りにはたくさんの花があった。そして床には大きな魔法陣が描かれていた。


「ここは基本的に精霊との契約の義に使われます。中央にある像は精霊王を象ったものです。」


司祭の説明を聞きながら2人は中に入っていく。ルーカスは像の元まで来るとその顔を見上げた。


(精霊王ってことは·····ノア?それにしたって全然見た目が違うんだけど·····。)


夢の中であったノアとは全く違う像の姿にルーカスは呆気にとられた。ぼーっと像を見ていると司祭が供える用の花を持ってきてくれたので2人はそれを受け取り花を供えた。

テオドールが手を組み祈りを捧げ始めたのでルーカスも見おう見まねで祈りを捧げた。


(ノア·····)


そう心の中で呟く。すると目の前にキラキラとした光が集まり何かを形作っていく。周りにいるテオドールと司祭はその光に気づいていない。というよりなぜか止まっているかのように見える。

どうしようかと思い周りを見渡していると聞き覚えのある声が響いた。


「ルーカス!!久しぶり! 」


その声と共に誰かに抱きつかれた。ルーカスは慌てて抱きついてきた人を確認した。


「·····ノア!?」

「そうだよ!あ~会いたかった!」


そう言ってノアは抱きしめる力を強めた。しかし、抱きしめる力が強すぎたのかルーカスに離すよう言われたノアはしぶしぶとルーカスを離した。


「ねぇ、なんでノアがここにいるの?」

「なんでってルーカスが呼んだんでしょ?」

「あっ·····」


確かに名前は呼んだが別に目の前に現れて欲しくて名前を呼んだのではない。しかし、思わぬ再会にルーカスは嬉しくなった。


「確かに名前は呼んだけど·····でも、ノアは簡単にこっちの世界にこれないんじゃないの?」

「うん。だから少しだけ!すぐに戻るよ。」


精霊王であるノアは普段は精霊界にいる。こちら側に来ると精霊界とこっちが繋がってしまうため大きな干渉力を与えてしまう。そのためノアは精霊界から動くことはほとんどない。


「そうなんだ·····少しだけ·····」

「寂しそうにしないで。大丈夫!ルーカスとならすぐに会えるよ。」

「·····そうなの?」

「そうそう。この間みたいに僕がルーカスの夢にお邪魔するの。」


会いたくなったらいつでも呼んでねと言いノアはルーカスにウィンクをした。


「そうだ。ルーカスに少しお願いがあって来たんだけど。」

「なに?」

「ルーカスに回収して欲しいものがあって·····」


ノアはとある石を回収して欲しいとルーカスに頼んだ。どうやらそれはこれから行くテオドールの研究室にあるらしい。


「ルーカスがお店の人から貰った石さ、僕の一部なんだ。ルーカスに干渉するためにこっち側に送ったんだけど回収するの忘れてて·····」

「そんなに大事なら忘れないでよ·····」

「本当に面目ない。」

「いいよ。ノアの大切なものならしっかり回収してくるよ。」


そう言うとノアは顔を綻ばせた。そして再びルーカスに抱きつく。


「ルーカスありがとう~!あれにもう一度触れてくれるだけでいいよ。その後は僕がどうにかするから。」

「わかった。」

「それじゃあ、頼むね!僕はもうそろそろ帰らないと。これ以上こっちにいると色々と大変だからね。」


ノアはルーカスから離れるとルーカスが供えた花を手に取った。


「これ貰ってくね!ばいばーい!」

「うん。バイバイ。」


手を振ってくるノアにルーカスも手を振り返した。すると次の瞬間ノアはキラキラと光の粒に変わり消えてしまった。







「ル·····ス?おー·····?」


どこかで呼ばれている気がしたルーカスはハッと目を開けた。
すると、目の前にテオドールが立っており心配そうに顔を覗き込んできた。


「ルーカス大丈夫?ぼーっとしてるけど·····」

「あれ?·····はい。大丈夫です。」


ルーカスは止まっていた時間が急に動き出したような感覚がした。先程まで周囲は時間が止まったかのように何も動いていなかった。


(ノアがこっちに来たら時間の流れが変わるのかな?)


不思議な現象について考え込んでいると再び黙ってしまったルーカスを心配したのかテオドールがルーカスのおでこに手を当てた。


「·····っ!」

「んー·····熱はない。ルーカス大丈夫?疲れた?」

「いえ!大丈夫です。」


本当に?とテオドールは心配そうな顔をしたので安心させるようにルーカスは笑って見せた。まだ上手く笑えないルーカスのその顔は少し引きつったような笑顔だった。
それでも笑顔を見せようとしてくれたことにテオドールは嬉しくなった。


「大丈夫じゃなかったらちゃんと言ってね?」

「わかりました。」


言葉ではなんとでも言える。テオドールはしっかりルーカスを観察しておこうと決めた。



2人は教会を後にし街へ向かった。
屋台で昼食を買い食べたあとに学園へと向かった。


「さて、建国祭の期間は学園祭の時と違ってただ解放してるだけだから見学しか出来ないけどルーカスは研究室以外に行きたいところはある?」

「行きたいところ·····いえ、様々な施設は入学した時の楽しみに取っておきたいです。」

「じゃあ、研究室だけでいい?」

「はい。今日の1番の楽しみはそれなので。」


2人は研究室がある棟へ歩き出した。前を行くテオドールを追いかけていると急にテオドールが立ち止まった。なんだろうと思い声をかけようとした瞬間テオドールが後ろを振り返った。


「ルーカス、違う道から行こう?」

「どうかしたのですか?」

「ううん。あっちから行った方が景色がいいからさ。」


そう言ってテオドールはルーカスの背中を軽く押す。


「あ~テオじゃん!」

「げっ·····」


声がした方向を振り返るとそこにはハロルドがいた。いいおもちゃを見つけたのだろうかハロルドが笑顔でこちらに近づいてくる。


「やぁ、ハル。こんな所でどうしたの?」

「テオ、まさかだけど俺の顔みて逃げようとした?」

「話をすり替えないでくれるかな?」


ハロルドとテオドールの間にバチバチと火花が飛んでいるように見えた。どうしたらいいかとオロオロとしていると後ろから誰かに抱きつかれた。


「だっ、誰!?」

「ふっふっふ、だーれだ?」

「ギル·····ですよね?」


聞き覚えのあるその声はギルバードであった。ギルバードはルーカスから離れた。


「正解!まさか学園でルーに会えるとは思わなかった。」

「俺もです。」


楽しそうに離す弟達を見てハロルドとテオドールの間に飛んでいた火花もどっかに行ってしまった。


「はぁ~なんで、弟ってこんなにかわいいの!?」

「ハルに賛成·····」


コソコソと離す兄達を横目で見ながら2人は会話を続けた。


「これからどこか行くの?」

「今からテオドール兄様の研究室に行くんです。」

「テオドールのってことは兄上の研究室でもあるね!俺も行っていい?」

「ギルが良ければ。」


こうして急遽、ギルバードとハロルドが加わり4人で研究室へと向かっていったのであった。









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