嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

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目の前にオリビアが居た。庭園にあるガゼボでお茶をしている。俺は何故か地面に座っていた。


「やだ、お前まだいたの?」


しかし、オリビアは既に屋敷から去っている。だが、耳に入ってきたその声で自分の身体から血の気が引いた気がした。恐怖を与えるその声は正しくオリビアのものであった。


「ごっ·····ごめんなさい·····」


その場からすぐにでも離れたいルーカスは何も悪いことをしてないのにオリビアに謝った。


「それは何に対する謝罪?不用意に私に声を聞かせないでくれる?」


そう言ってオリビアはカッブ持ち上げお茶を飲んだ。そして、少し考え込んだ後急にクスクスと笑い始めた。


「あぁ、わかった。産まれてきたことに対しての謝罪かしら?」


オリビアはひとしきり笑ったあとギロっとルーカスを睨んだ。そして、机を爪でカツカツと叩き怒りを顕にしてきた。


「本当に嫌になるわ。というか、お前も産まれなきゃ良かったのにね。」


オリビアはそう言うとバシャっとカップの中身をルーカスにかけた。ルーカスはポタポタと自分から流れ落ちる紅茶の雫を見つめた。


「そうしたらこんな目に遭わなくても済んだし私も幸せだったわ。本当に·····お前なんて産まなきゃ良かった」


その言葉にルーカスは何度も謝った。自分が悪いと·····何度も。それからどのくらい時間が経ったのだろうか。何故か周りが暗闇で覆われていた。
しかし、周りの様子が変わろうとルーカスにとってはどうでもよかった。


(やっぱり·····俺はいらない子·····幸せにはなれない·····)


オリビアに言われた言葉が自分の中で渦をまいていた。本当は子供みたいに泣きじゃくりたい。でも、泣けばうるさい煩わしいと叩かれる。

疲弊したルーカスはその場に横たわった。そして、何も考えないようにしながら目を閉じた。


(いっそ·····このまま目が覚めない方が幸せ·····なのかな?)


そう思っているとどこからか声が聞こえてきた。


「······ス?···きて!·····ね?」


だが途切れ途切れで何を言っているのか全くわからなかった。ルーカスはただひたすら聞こえてくるその言葉を煩わしく思い聞こえないように耳をふさごうとした。

すると、何かあたたかいものが自分の手を触れていることに気がついた。


(·····誰?)


知らないその温もりがなぜが自分を落ち着かせてくれた。もう、大丈夫だよとそう言ってくれてる気がした。根拠はないが何故かその温もりを与えてくれる人物は信じてもいいと思った。

ルーカスは自分の手を触っている人物を確かめたくなり重たい目を無理やり開けた。








目を開けるとそこに広がっていたのは自分の部屋の天井だった。まだ、頭がぼーっとしていたがルーカスは周りを見渡した。しかし、そこには誰もいなかった。


(手を握ってくれた人は·····誰だったのかな?)


ルーカスは重たい身体を起こしベッドから出ようとした。すると、タイミングよくドアが開き中にエルドが入ってきた。


「あっ!やっと目を覚ましたか?って言うかまだ熱あるんだから寝てろ!」


そう言うとエルドは無理矢理ベッドにルーカスを押し込んだ。そして、エルドは手のひらをルーカスのおでこに当て熱を確かめる。


「ん·····まだ少し熱いな。まぁ、よくここまで下がったけど。」


ルーカスが倒れて4日が経ち、倒れている間高熱が出ていたとエルドが教えてくれた。


「そうなんですね·····」

「その間さ毎日お前に会いに来てたやつかいるんだけど·····もうそろそろ来る時間のはず。」


すると次の瞬間、ドアがコンコンとノックする音が聞こえた。どうぞっと言おうとしたが何故がエルドに止められた。

ドアが音を立てないように恐る恐る開き小声で失礼しますと聞こえた。

中に入ってきた人物はゆっくりドアを閉めてルーカスがいるベッドの方を振り向いた。


「ルーカ··········っ、げぇエルドだ·····」

「これは、ギルバードで・ん・かお元気ですか?」

「エルドが敬語とか·····気持ち悪い」


そう言うとギルバードは顔をしかめた。エルドは椅子から立ち上がりギルバードの元へ向かう。


「気持ち悪いという言葉を言ったのはどの口ですかね?」


エルドはギルバードのほっぺを軽くつまむ。


「やめろ~!離せ!」

「これだからお子ちゃまは·····」


そう言ってエルドは手ひらひらと振り部屋から出ていった。


「誰がお子ちゃまだ!お前の方が·····っと」


ギルバードは大声を出してしまったことに気づきすぐに口を塞いだ。まだ、ルーカスが目覚めたという報告を聞いてないので騒いだらマズいと思ったのだ。

そして、もう一度ベッドの方をむくとそこには目をぱっちりと開けこちらを見ているルーカスが居た。


「あっ·····目が覚めたの!?」


ギルバードはルーカスのそばに駆け寄る。そして、先程のエルドと同様にルーカスのおでこに手を当てる。


「うん!もうほとんど熱も下がってきたね。」


余程の高熱を出していたのであろう。ギルバードはルーカスが微熱程度まで下がったことに安心したのか良かったといって微笑んだ。

その笑顔をみた瞬間ルーカスは何故か泣きそうになった。今までこんなにも自分を心配してくれた人はいただろうか?自分の素性も何も知らないのにこんなにも優しくしてくれた人はいただろうか?

ルーカスはグッと唇をかみ泣きそうなのを堪えた。


「どうしたのルーカス?」


黙り込んでいるルーカスを心配したのかギルバードはルーカスの顔を覗き込んだ。


「なっ、なんでもないです!大丈夫です!」


ルーカスは顔を赤くしながら必死に首を横に振った。そんなルーカスをみてギルバードはクスクスと笑い始めた。そして、不意にルーカスの手を取った。


「本当に·····良かった。俺、ルーカスに謝らなきゃ行けないことがあったから。」


エルドはルーカスが倒れた次の日もこの屋敷に訪れた。しかし、まだ目覚ましていないと聞き落ち込んだ。すると、セバスが感染するような病気ではないから一目会って欲しいと言われギルバードはベッドで辛そうに眠っているルーカスに会った。

うなされているのかごめんなさいと何度も呟いていた。そんなルーカスの苦しさが少しでも吹き飛ぶようにギルバードはルーカスので握った。


「ルーカス·····大丈夫だよ。」


そう言うとギュッと握り返された気がした。自分の言葉で少しでも苦痛が和らぐならと思いギルバードは何度も大丈夫だよと繰り返し伝えた。

その次の日もギルバードはルーカスの元を訪れたがまだ目を覚ましておらず高熱も続いていた。


「ごめ·····さい·····オリビア様·····」


その日もルーカスは誰かに謝り続けていた。するとオリビアと言う単語が聞こえた。


(オリビア·····って誰だ?)


そう思い傍に控えていたメイドに聞くとオリビアは公爵夫人、つまりルーカスの母親だと教えてくれた。


(何故、母親に謝るのだろう?)


再びメイドに訪ねようとしたが、ふとハロルドの言葉を思い出し口を閉じた。ハロルドは確かギルバードとルーカスでは育った環境が違い心に大きな傷があると言った。

この屋敷にきて数回思ったことがあった。本来なら非公式の来訪でもギルバードは王族だ。公爵家の人間が家にいるのであれば挨拶に来なくてはいけない。


(だけれども、公爵夫人は1度も訪れたことがない)


そこに違和感を感じていた。確かに建国祭を目の前にして貴族も色々と忙しくしているがそれにしたって1度も会わないのは不自然だった。

そして、ギルバードは思った。公爵夫人はこの家には居ないのではないかと。さすがにそれは個人に踏み込みすぎているものなので使用人には聞かなかった。


(ルーカスにいつか·····聞けたらいいな)


そう思いその日は屋敷を後にした。

また、その次の日もギルバードはルーカスの元を訪れていた。まだ、高熱は続いており相変わらず苦しそうにしていた。

そして、今日もまたうなされ謝り続けているルーカスの手を取った。


「大丈夫。ルーカスは何も悪くないよ。」


ルーカスの事情はまだ何も知らないが何故かルーカスにはこの言葉が必要だと思い何度も伝えた。

すると、握っていた手がギュッと握られた。


「ルーカス!?起きて!聞こえてる!ね!?」


もしかしたらルーカスが目を覚ましたのではと思いギルバードは声を大きくした。しかし、一向にルーカスが目覚める気配はなかった。

勘違いかと思いギルバードは少し落ち込んだ。早く目が覚めて欲しい。謝りたい、謝ってルーカスと仲良くなりたい。そして、沢山遊んだり話したり·····色々とやりたいことがあった。


「早く·····目を覚ましてね。」


そうルーカスに伝えギルバードは帰って行った。そして、その次の日ようやくルーカスは目を覚まし今に至る。

ギルバードはルーカスが目を覚ましたら真っ先に伝えたいことがあった。


「ルーカス·····ごめんね。嫌な思いをさせるつもりはなかったんだ。まさか、ルーカスを苦しめる質問だとは思わなかったんだ·····本当にごめんなさい!」


そう言うとギルバードは頭を下げた。ルーカスはその行動に驚きどうすればいいかわからなくなった。ギルバードは幼いといえど王族だ。そんな身分の人間が自分に頭を下げるなど考えられなかった。


「あっ、頭を下げないで下さい!ギルバード殿下!殿下は何も悪くないですから。」

「でっ、でも·····」

「お願いです!!」


ルーカスの必死さが伝わったのかギルバードは顔を上げた。しかし、目が合ったその目には涙がたくさん溜まっており今にも零れ落ちそうだった。


「ほっ、本当に·····ごめんね。」


とうとう耐えきれなくなったのかギルバードの目からポロポロと涙が零れ落ちてくる。どうすればいいのかわからなくなったルーカスはオロオロとしていたがギルバードに近寄りその涙をそっと自分の服の裾で拭いた。

思いも寄らない行動だったのかギルバードは顔をぱっとあげてルーカスをみた。


「あっ、ご、ごめんなさい!俺の服汚かったですか?」


慌てて手を引っ込めるルーカスをみてギルバードは笑った。


「ははっ、兄上の通りルーカスは優しいね。」

「·····優しいでしょうか?」

「うん!優しい·····優しすぎるから少し心配になるや。ねぇ、ルーカス·····俺と仲直りしてくれる?」


そう言ってギルバードは首を傾げた。しかし、ルーカスはギルバードと仲直りするようなことなどあったかと思った。


「殿下·····殿下と喧嘩なんてしましたか?」

「えっ、だって·····俺が聞かれたら嫌なこと聞いたでしょ?だから·····苦しくなって·····倒れたんでしょ?」

「えっ?」


ルーカスは4日前のことを思い出す。確かに自分の目について尋ねらるのは好きではない。だからといって自分が倒れたのはギルバードのせいではない。


「あの殿下、俺は殿下のこと怒ってないですよ?俺が倒れたのは殿下のせいじゃないです。」

「·····本当に怒ってないの?」

「もちろんです。」

「よかったぁ~·····」


そう言うとギルバードはヘナヘナっと床に座り込んだ。ルーカスは慌ててギルバードに手を伸ばした。


「殿下!大丈夫ですか·····?」

「大丈夫大丈夫!あとは·····ギル!」

「えっ?」

「殿下はやめて。俺のことはギルって呼んで?」

「でも·····」


王族を呼び捨てにするのは気が引ける。断ろうとしたが自分を見つめるギルバードの目が心無しかうるうるとしており断るのもつらい。

どうしようか悩んだ末、ルーカスはギルと呼ぶことを承諾した。


「やった!じゃあ、俺はルーって呼ぶね?」

「ルー·····ですか?」


初めて呼ばれたその名にルーカスは少しドキッとした。


「わかりました。俺のことはルーって呼んでください。ギル!」

「あー、あとそれ。敬語はいらない!」

「·····それは無理です。」


今まで崩した言葉を使ったことがないルーカスには敬語を外すのは少し難易度が高い。


「え~ケチ!まぁ、段々慣れてきたらさ敬語は外してね!」

「·····頑張ります。」

「よし!約束だ!」


そう言うとギルバードは勢いよく立ち上がりルーカスに手を差し出した。ルーカスは恐る恐る手を出した。するとギルバードがルーカスの手を掴みグッと引っ張り立ち上がらせた。


「ルー、これから俺と仲良くしてね!」

「ギル·····わかりました。」


自分と大きさの変わらないその手から伝わってきた温もりは夢の中で感じた温もりと同じだった。


(·····あの正体はギルだったんだ)


大きさは変わらないのに何故がその手は誰よりも安心できた。
そして、この先もこの温もりを感じれる距離にいたいと思いルーカスは自分の手を握っているギルバードの手をギュッと握り返したのであった。

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