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本編

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「そういえばさなんで左目を隠してるの?」


ただルーカスと仲良くなりたいだけだった。
ただ何気なく思ったことを質問しただけだった。

なのにたった一つの質問でルーカスを苦しめてしまった。

質問を投げかけたあと目の前にいるルーカスの様子が急におかしくなった。何かに耐えるように胸元を押さえたと思えば次第に呼吸がおかしくなっていた。

ヒューヒューと聞いたことも無い音がルーカスから聞こえてくる。顔色もあまり良くなかった。


「ルーカス!大丈夫?ねぇ!」


ルーカスのそばに行き声をかけるがルーカスには全く届いてないようだった。


(こんなときどうしたらいいの!?)


初めての状況にギルバードは何をすればいいのかわからなくなっていた。必死にルーカスに声をかけるが一向に良くなる気配がない。

次の瞬間、ルーカスの身体がぐらつきソファーに倒れ込んだ。


「ルッ、ルーカス!?ねぇ?起きて!」


ギルバードがそう叫ぶと、その声を聞きつけたのか部屋にハロルドとテオドールが戻ってきた。


「ギル、どうした!?」

「あっ、兄上!ルーカスが·····!」


ハロルドがルーカスに近寄るよりも先にテオドールがルーカスの元へ向かった。


「ルーカス?」


声掛けるがルーカスは目を覚ます気配がなかった。テオドールはそっとルーカスの頬に触れると普段の暖かさがなくいつもより冷えていた。

テオドールはセバスを呼び至急、医者を手配するよう言った。

医者が来るまでの間に、ハロルドとテオドールはルーカスに何があったのかギルバードに尋ねた。



「俺、ルーカスにどうして左目を隠してるの?って聞いたんだ。そしたら·····っ、ルーカスが·····ヒクッ、苦しそうにしだして·····グスッ····· 」


ギルバードは先程までの光景を思い出しながら必死にハロルドとテオドールに状況を説明した。


「ヒューヒュー·····っ·····て、苦しそうな·····グスッ、音がして·····」

「わかった。ありがとうギル。」


涙をポロポロと流すギルバードをハロルドは慰めるように頭を撫で涙を拭いた。

状況を把握出来た2人は目を合わせ互いに頷いた。


「ハル、ギルバード殿下を連れてって。」

「了解。ごめんって末っ子くんが目を覚ましたら伝えといて。」


そう言うとハロルドはギルを抱え部屋を後にした。


「兄上、どこに行くんですか!?ルーカスは大丈夫なんですよね!?」

「城へ帰るぞ。あぁ、末っ子くんは大丈夫だ。医者ももう来る。」

「俺、ルーカスが目が覚めるまでいます!」


そう言ってギルバードはハロルドの腕から抜け出そと暴れるがハロルドはギルバードを抱き上げている腕に力を入れ抑えた。


「ギル、とりあえず今日は帰るぞ。」

「なんでですか!?」

「今は邪魔になるからな。ルーカスが起きたらまた来ような?」


邪魔になるという言葉でギルバードは大人しくなった。ルーカスが苦しんでいる間何も出来なかった自分に嫌気がさした。

そして、不甲斐ない自分に腹が立ち何故か涙が出てきた。ギルバードは自分を抱えているハロルドの肩に自分の顔を押し付け泣いた。

ハロルドはそんなギルバードの背中をポンポンと叩きながら公爵家を後にした。







「ルーカスに嫌われたかも·····」


城に帰る馬車の中でギルバードはそう呟いた。すると前に座っていたハロルドがクスッと笑った。


「大丈夫だよ。末っ子くんはギルのこと嫌ってなんかないさ」

「どうして、兄上にはわかるんですか!?」

「んー、なんでだろうな。ほら、末っ子くん優しいからさ。」


納得のいくような回答ではなかったのかギルバードがムスッとし頬を膨らませるとハロルドがギルバードの頭をポンポンとした。


「そこまで気になるなら、末っ子くんが起きたら会いに行ってきな。」

「··········でも·····」


ルーカスに会いに行って謝って仲直りしたいが、また苦しそうに倒れたらどうしようと考えると素直に会いに行くとは答えられなかった。


「末っ子くんが育った環境はギルとは違うからな。」

「どういうことですか?」

「詳しくは本人から聞きな。先入観を与えたくはないからさ。ただ1つ言えるのは末っ子くんは心に深い傷があるってこと。」

「深い傷··········」


その言葉を聞いてギルバードはルーカスとの出会いを思い返した。公爵家の子息だと言うのにビクビクとした態度で視線は下を向いていた。

他の上級貴族の子息や令嬢と会ったことはあるがもっと態度はでかかったし、王族の自分に取り入ろうと必死だったのを覚えている。

他の貴族と比べるとルーカスは貴族らしくない貴族だった。


(下級貴族の方がもっと貴族らしいはず·····)


そう思うとルーカスはなにかつらいことがあったのだろうとギルバードは考えた。


「·····わかりました。なんとなく思うことがあるので·····気をつけながらルーカスに会いに行きたいと思います。」


ギルバードからの返事を聞いてハロルドは目を丸くした。

幼いながらギルバードは賢い。なにより他者の観察力に優れている。それはギルバードが育ってきた環境がそうさせたのかもしれない。


(ヒントは少ししかあげてないんだけどね·····もしかしてギルって俺より賢いんじゃないの?)


思わぬ弟の成長を感じれてハロルドは嬉しくなった。それと同時に王族として生まれ様々な人間の悪意に晒されながら生活している幼い弟を心苦しく思った。

他者との観察力に優れているからこそ人を簡単に信じることも出来ないし傍におけないだろう。だからこそ、ルーカスを見てこの子しかいないと思った。

他者からの攻撃をされた時の痛みを知っていながらも心は歪んでおらず純粋だった。
そして何よりも他者に優しくあろうとするその姿がギルバードにいい影響を与えてくれるのではないかと考えた。


(まぁ、はたから見たら末っ子くんを利用しているようにしか見えないか·····)


それでも、2人の出会いはギルバードだけではなくルーカスにもいい影響を与えるはずだとハロルドは考えた。

幼く少し大人びたところもあるギルバードだが、それでもまだ中身は幼い子供だ。感情が豊かで活発に活動する。その子供っぽさがルーカスに少しでも伝わり、もっと楽しい世界で生きて欲しいとハロルドは思った。


(ただでさえ、末っ子くんは愛し子だ·····これから先の未来で何が起こるかなんて誰にも予想できない。)


愛し子はこの国でとても重要な存在だが、それは他国からみても同じだ。特に精霊が少ない国などは愛し子は喉から手が出るほど欲しい存在だろう。

もしかしたら、愛し子だと公表すれば誘拐しようとする輩が出てくるかもしれない。もちろん易々と誘拐されるような事は起こらないように護衛するつもりだ。 

しかし、護衛をつければ窮屈な思いをするだろう。だからこそ、ただの子供でいられる今の時間は貴重だ。


(あんな小さな存在にそんな重荷を背をわせたくはないんだけどね·····)


そう思うが愛し子は自分たちが決められるものでは無い。

ハロルドは目の前にいる幼い弟と親友の弟であるルーカスがどうか少しでも幸せでいられるよう心から祈った。




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