嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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後ろを振り向くとそこには知らない青年がいた。


「まぁよくもちょこちょこと·····懲りない人間だね。さっき弾いたつもりなんだけど·····」


そう言って少年は青年に近づく。そして、ルーカスに聞こえない声で少年は囁いた。


「君がルーカスにとって害になるのであれば僕はすぐにこの空間から君を弾き出すよ?」


そう言うと青年はクスクスと笑った。


「あぁ、わかった。·····ところで君は?見た目は末っ子くんのようだけど中身は違うよね?」

「あぁ、僕?精霊を統べる存在だよ。」


その言葉を聞いた青年は目を見開いた。そして、瞬時に自分の立場を理解し礼を取ろうとしたが少年に止められた。


「今はそんなのいらないよ。用があるなら早く終わらせて?」


そう言って少年はすっと姿を消した。青年は少年が消えたのを確認したあとルーカスに近づいた。少年と出会った時とは反対に見知らぬ存在にルーカスは警戒を続けた。


「君がルーカスかい?」


そう言って青年はルーカスの目線に合うように前にしゃがんだ。ルーカスはただその言葉に頷いた。


「そんなに警戒しないでくれるといいんだけど·····ってまぁ、無理だよね。」


ははっと笑った青年は不意に手を伸ばしルーカスの手に触れた。ルーカスはその手を払いのけようとしたが青年の方が力が強く払いのけることが出来なかった。


「ごめんね。少しだけ失礼するよ」


そう言うと青年は反対の手でルーカスの目を覆った。すると、突如訪れた眠気に抗えなくなりルーカスは眠ってしまった。

力が抜けたように倒れ込んだルーカスを青年は支えた。


「力技だね。」


不意に後ろから聞こえた声に青年は顔だけを後ろに向けた。


「思っていた状況とだいぶ違ったので。」

「で、君はどうするの?ここはルーカスの中だから魔法の重ねがけは無理だと思うよ?」

「そうですね·····そこは、貴方様のお力を貸していただければ。」


青年がそう言うと少年は苦虫を噛み潰したよう顔になった。


「ハロルドだっけ?全く人間の王族だからってあまり調子に乗ると弾き出すよ!?」

「私を知ってるのですか?弾き出されるのはそれは困りますね。」

「散々そっちの世界見てたんだから知ってて当たり前でしょ。まぁいいや·····水面みて。ルーカスが見えてるものが見えるから。」


そう言われハロルドは少年と共に水面に映る世界を見始めた。














ルーカスは重たい瞼を無理やりあけた。すると視界に飛び込んできたのは見覚えのある自分の部屋の天井だった。


(あれ·····俺·····どうしたんだっけ?)


意識がまだボーッとする中周りを見渡すとベッドの横にある椅子で寝ているメルヴィルの姿があった。

ルーカスはベッドから出て近くにあったひざ掛けを持ってメルヴィルの元へ行きそのひざ掛けをメルヴィルにかけた。

するとルーカスが動いた気配に気づいたのかメルヴィルが目を覚ました。そして、ルーカスを見て固まった。


「ル·····カス?もう大丈夫なのか!?」
 

そう言ってメルヴィルがルーカスの体調を確かめるためにおでこや頬に触れる。

そして、異常がないことを確認するとようやく安心したような顔を見せた。


「目が覚めて良かったよ。どれだけ心配したことか·····!!」


そう言ってメルヴィルはルーカスを抱きしめた。夢だと思っていたがメルヴィルから感じる体温がやけにリアルだった。


「これは·····夢ですか?」

「夢?·····まだ、ボーッとしているのか?」


そう言ってメルヴィルはルーカスの頭を撫でる。


(夢?現実?·····でも、現実でこんな風にしてもらったことあったっけ?)


頭に霧がかかったようにボーッとして考えがまとまらなかった。次第に考えるのも面倒くさくなってくる。

そんな時だった。トントンとドアをノックする音が聞こえ、どうぞと言うとテオドールとエルドが部屋にやってきた。


「ルーカス、目が覚めたんだね!」

「全く·····心配かけるなよ?」


そう言って2人が近くに来て頭を撫でてくれる。その手つきはやはりいつもと変わらなかった。


(心配されるって·····嬉しいんだ)


3人がどれだけ心配していたのかが伝わりルーカスは少し嬉しくなった。その嬉しさに浸っていた時だった。

突然周りのものが消え暗くなった。急な事態にルーカスは驚き周りを見渡す。しかし、先程まで見ていた景色は何ひとつもなく全てが暗闇に包まれていた。


「なっ、·····なに?」


そう言うが何も反応は帰ってこない。どうすればいいか分からず途方に暮れていると誰かに肩を叩かれた。

ルーカスは後ろを振り向きそこにいた人物を見ると目を見張った。


「君は·····さっきの?」


そこに居たのは先程の少年同じく自分にそっくりな人物がそこにいた。


「さっきの?俺は俺だよ。」


そう言って目の前の少年は笑った。しかし、その笑みは少し君が悪かった。


「俺って·····どういうこと?」

「そのままだよ。俺は俺、君の一部?いや、君が一部という事も考えられるのかな?」


少年はルーカスの胸に指をさし真顔で言った。


「俺は君がここに閉じ込めた感情だよ。」

「閉じ込めた·····?」

「そう。君が見て見ぬふりをするもの」


少年はルーカスから離れ暗闇の上に座る。すると、ルーカスにも座ればと声をかけてきた。

ルーカスは恐る恐るその場に座り目の前にいる少年を見た。


「なんで君はここにいるの?」

「さぁね?ひとつ言えるのは俺を無視するのはもうやめて欲しいってこと。」

「どういうこと?」

「さっきまで見てたのは君の理想の形。みんなから心配されて人の温かさの中で生きること。」


その言葉にルーカス頷く。その理想はルーカスだけではなく人なら誰でも思うことだろう。 
 

「でもさ、君はいいの?」

「なにが?」

「あの人達·····君のこと散々苦しめたんだよ?直接的な原因じゃなくても·····なのにあんな簡単に許しちゃってさ。良い子ぶらなくてもいいんじゃない?」


少年がそう言うとルーカスは怒りを感じた。確かに少年が言うことは正しい。だが、平和に生きていたいルーカスにとって少年の考えはなくてもいいものだった。

だからこそ、ルーカスは少年に強く言い返してしまった。


「俺は俺のために考えた結果があれだったんだ!君には関係ない·····!」

「はぁ?関係大ありだから俺がここにいるんじゃん。」


まさに売り言葉に買い言葉だった。ルーカスの言葉を聞いて少年も反発してきた。


「さっきも言ったけど俺は君が押し殺してる感情!まだ、この程度でいいかもしれないけど君がこの先もこんな風に生きていくなら俺は·····」


そう言うと少年はポロポロと涙を流し始めた。ルーカスはその瞬間やってしまったと感じた。誰も傷つけず平和に生きていきたいと思った矢先に人を傷つけてしまった。


「·····ごめん。泣かせるつもりは·····」

「お願いだから俺を受け入れて。俺が涙を流すって言うことは自分を傷つけてるのと同じなんだよ!?」

「それは·····」

「自分を押し殺して·····俺が泣いてるのに君はそれを幸せというの?」


少年が涙を流しながら訴えてくるその言葉にルーカスは胸を締め付けられる。
自分が訴えてくる言葉だからこそ余計に気持ちが伝わってくるのかもしれない。


「俺なんかが·····俺が何かを言って誰かを困らせたら嫌われるかもしれない。もう、誰かに嫌われたくはないよ·····」

「なんでそう思うの?少しの間でも君はあの人達と過ごしたでしょ?あの人達は君を嫌うような人だった?」

「·····わかんない。でも、多分違う·····」

「なら大丈夫だって!」


少年は立ち上がりルーカスに手を伸ばす。


「もう、自分を押し殺さないで?自分を泣かさないで?·····俺も君も本当に幸せになろうよ?」

「なれるかな?」


自信が出ないルーカスは少年の手を取れないまま下を向く。
すると、少年は両手でルーカスの頬をはさみ無理やり上を向かせる。


「なれるじゃなくて幸せになるの!」


そう言って少年は笑った。その笑顔は先程のような気味の悪い笑顔ではなく心の底から笑ってるんだと思わせるような笑顔だった。


(俺も·····本当に笑えばこんな風に笑えるのかな?)


少年は再びルーカスに手を差し出した。ルーカスはその手を迷わず掴んだ。すると、少年は力強くルーカスを引き立たせた。


「俺は確かに君の一部だけど君が幸せになるのを願ってるから。それに、俺だけじゃないよ。君が幸せになって欲しいと願ってるのは。」


そう言って少年はある方向を指さした。


「君の家族もそうだし、あそこの精霊の王様だって君の幸せを望んでる。大丈夫。君に何かをあったらあの精霊の王様がどうにかしてくれるから。」

「その時は程々にしてもらわないとね。」


そう言ってにルーカスは笑った。


「君も少しは笑えるじゃん。じゃあ、戻ろっか?」

「·····どうやって?」


少年はルーカスに近寄ると自分のおでこをルーカスのおでこにくっつけた。


「僕が君に戻ればさっきの場所に戻れるから。」

「そうなの?」

「うん。だから、もう俺を·····見て見ぬふりしないでね?しっかり受け入れて·····」

「·····わかった。ありがとう·····!」


ルーカスがそう言うと少年は涙をひとつ流し笑った。すると次の瞬間キラキラと光の粒になり自分の中に消えていったのと同時に周りもキラキラと輝き始めた。

その眩しさに耐えきれずルーカスは目をつむったのであった。
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