36 / 64
本編
31
しおりを挟む一連の騒動があってまだ1週間も経っていない。しかし、学園に戻ってきたテオドールには家にいたのが遠い昔のように思えた
(ルーカス元気にしてるかな?というよりあの3人で屋敷にいるのって大丈夫なのか?)
考え出すと様々な不安が湧き上がってくる。次第に動かしていた手も止まりぼーっとしてしまう。
「·····オ?·····ーい、·····きこ·····る?」
どこからか自分を呼ぶ声が聞こえるがそれをかき消すように頭の中に色々と不安が浮かんでくる。
聞こえてきた声が次第に聞こえなくなってきた時だった。いきなり後ろから肩を掴まれた。
「おい、テオ!無視するとはいい度胸だな!?」
「えっ、ああ·····ハル···か」
「何が、ああ·····ハル···かだ!」
そう言ってハルと呼ばれた青年はテオドールの頭を持っていたプリントで叩く。
「ハル·····それ、大事な資料だって分かってて扱ってるよね?」
「えっ、あー·····」
テオドールがハルと呼ばれた青年を見るとハルは目を泳がせた。テオドールは溜息をつきハルが持っていた資料を受け取る。
テオドールが資料を受け取ったのを確認するとハルは近くにあった椅子に座った。
「テオさ·····俺にそんなに態度とって許されるのお前くらいだからね?」
そう言うのはハルことハロルド=フォーサイスでありこの国の皇太子だ。テオドールと同い年で幼馴染である
「そうなんですね。殿下の寛大な心に感謝致します。」
「嫌味にしか聞こえん·····」
お互いに唯一と言っていい程気さくに話せる存在だ。
「なぁテオ、さっき何を考え込んでいたんだ?」
「あぁ、家のこと。」
テオドールがそう言うとハロルドはすぐに察した。今までも何回かテオドールからそれとなく相談された事があったし色々と愚痴も聞かされてきた。しかし、結局はなんでもない気にするなと濁されてきた。
しかし、今回珍しく外泊届けを出してまで屋敷に帰ったテオドールを見てようやく一区切りつけたのかと感じた。
「んで、末の弟くんどうなったの?」
「一応は·····許されたのかな?分からないや。でも1つはっきりしたのはルーカスは優しすぎる·····」
「へぇ、弟くんルーカスって言うんだ。」
テオドールから事の顛末について話されたハロルドはふと疑問が浮かんだ。
「なぁ、本当にルーカスって許したのかな?」
「·····どういうこと?」
「いや、ギルもルーカスと同じ歳だけどもっと些細な事でもすぐに怒るし駄々をこねるぞ?」
そう言ってハロルドは末の弟のギルバードを思い出す。
この間帰った際、外交について国王でもある父と話さなくてはいけない時だった。遊べとギルバードがくっついてきたが遊べないと言うと怒りながら泣いていたのを思い出す。
「だから、弟くん聞き分け·····かな?良すぎると思うんだよね。」
「まぁ、言われてみれば·····」
今までのことがあの瞬間に帳消しに出来るほどルーカスの心や身体の傷は浅くない。
「やっぱ聞づらいか?」
「まぁね。蒸し返す·····は違うかもしれないけど少し聞きづらい部分はあるかもしれない。」
「ふーん·····」
その瞬間テオドールは嫌な予感がした。
「いや、ハルは気にしなくても大丈夫だから。」
「そんな冷たいこと言うなって!そういう系は俺に任せとけ。」
テオドールは再び溜息をつく。ハロルドは火属性と珍しい闇属性の精霊と契約している。特に闇魔法は忌み嫌われるものと思われるかもしれないが実際はそうでは無い。使い方によっては万能である。
特に精神系の作用をもつ属性は光か闇だけである。
「お願いだから·····余計なことはするなよ!?」
「まぁ落ち着けって。それに、そう言うのって早いうちにどうにかしとかないといけないと思うんだよね?」
「確かにそうだけど·····」
部屋に沈黙が流れる。テオドールがどうしようか迷っていると部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
テオドールがそう言うと中に入ってきたのは思いもよらない人物だった。ハロルドも入ってきた人物に驚いた。
「失礼·····す·····します。テオドールに用があったのですがハロルド殿下もいらっしゃったのですね。」
「あぁ、俺のことは気にしないで?」
「いえ、殿下がテオドールに御用があるのでしたら·····」
「お父様気にしないでください。それで私に用事とは?」
メルヴィルは持ってきたものをテオドールに手渡す。テオドールは受け取ったそれを見て首を傾げる。
「これは·····石ですか?」
「あぁ。それを少し調べて欲しい。」
メルヴィルは屋敷で何があったのかを説明した。そして、ルーカスが魔力切れで眠っていることも話した。その話を聞いた途端、テオドールの表情が曇った。
「ルーカスは大丈夫なんですか!?」
「一応回復薬を飲ませて寝かせている。」
珍しく動揺しているテオドールを見てハロルドはある事を思いついた。
「テオ、様子見に行けば?」
「·····そうだね。今日はもう何も無いし明日は講義は午後だけだ。お父様、1度様子を見に帰っても大丈夫でしょうか?」
「あぁ。テオドールが無理をしないなら大丈夫だが。」
「大丈夫です。ハル、ルーカスの様子を見に行くから研究の続きは「俺もいく!」·····えっ?」
ハロルドの発言にテオドールとメルヴィルは声を上げる。
「殿下のお手を煩わせるのは·····」
「大丈夫気にするな!」
「ハル·····お願いだから·····」
「さっき言っただろ?俺に任せとけって!」
ハロルドは1度やると言ったら必ずやる。テオドールとメルヴィルは諦めて3人で屋敷に向かうことにした。
72
お気に入りに追加
5,970
あなたにおすすめの小説

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。


春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる