嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

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一連の騒動があってまだ1週間も経っていない。しかし、学園に戻ってきたテオドールには家にいたのが遠い昔のように思えた


(ルーカス元気にしてるかな?というよりあの3人で屋敷にいるのって大丈夫なのか?)


考え出すと様々な不安が湧き上がってくる。次第に動かしていた手も止まりぼーっとしてしまう。



「·····オ?·····ーい、·····きこ·····る?」


どこからか自分を呼ぶ声が聞こえるがそれをかき消すように頭の中に色々と不安が浮かんでくる。

聞こえてきた声が次第に聞こえなくなってきた時だった。いきなり後ろから肩を掴まれた。


「おい、テオ!無視するとはいい度胸だな!?」

「えっ、ああ·····ハル···か」

「何が、ああ·····ハル···かだ!」


そう言ってハルと呼ばれた青年はテオドールの頭を持っていたプリントで叩く。


「ハル·····それ、大事な資料だって分かってて扱ってるよね?」

「えっ、あー·····」


テオドールがハルと呼ばれた青年を見るとハルは目を泳がせた。テオドールは溜息をつきハルが持っていた資料を受け取る。

テオドールが資料を受け取ったのを確認するとハルは近くにあった椅子に座った。


「テオさ·····俺にそんなに態度とって許されるのお前くらいだからね?」


そう言うのはハルことハロルド=フォーサイスでありこの国の皇太子だ。テオドールと同い年で幼馴染である


「そうなんですね。殿下の寛大な心に感謝致します。」

「嫌味にしか聞こえん·····」 


お互いに唯一と言っていい程気さくに話せる存在だ。


「なぁテオ、さっき何を考え込んでいたんだ?」

「あぁ、家のこと。」


テオドールがそう言うとハロルドはすぐに察した。今までも何回かテオドールからそれとなく相談された事があったし色々と愚痴も聞かされてきた。しかし、結局はなんでもない気にするなと濁されてきた。

しかし、今回珍しく外泊届けを出してまで屋敷に帰ったテオドールを見てようやく一区切りつけたのかと感じた。


「んで、末の弟くんどうなったの?」

「一応は·····許されたのかな?分からないや。でも1つはっきりしたのはルーカスは優しすぎる·····」

「へぇ、弟くんルーカスって言うんだ。」


テオドールから事の顛末について話されたハロルドはふと疑問が浮かんだ。


「なぁ、本当にルーカスって許したのかな?」  

「·····どういうこと?」

「いや、ギルもルーカスと同じ歳だけどもっと些細な事でもすぐに怒るし駄々をこねるぞ?」


そう言ってハロルドは末の弟のギルバードを思い出す。

この間帰った際、外交について国王でもある父と話さなくてはいけない時だった。遊べとギルバードがくっついてきたが遊べないと言うと怒りながら泣いていたのを思い出す。


「だから、弟くん聞き分け·····かな?良すぎると思うんだよね。」

「まぁ、言われてみれば·····」


今までのことがあの瞬間に帳消しに出来るほどルーカスの心や身体の傷は浅くない。


「やっぱ聞づらいか?」

「まぁね。蒸し返す·····は違うかもしれないけど少し聞きづらい部分はあるかもしれない。」

「ふーん·····」


その瞬間テオドールは嫌な予感がした。


「いや、ハルは気にしなくても大丈夫だから。」

「そんな冷たいこと言うなって!そういう系は俺に任せとけ。」


テオドールは再び溜息をつく。ハロルドは火属性と珍しい闇属性の精霊と契約している。特に闇魔法は忌み嫌われるものと思われるかもしれないが実際はそうでは無い。使い方によっては万能である。

特に精神系の作用をもつ属性は光か闇だけである。


「お願いだから·····余計なことはするなよ!?」

「まぁ落ち着けって。それに、そう言うのって早いうちにどうにかしとかないといけないと思うんだよね?」

「確かにそうだけど·····」


部屋に沈黙が流れる。テオドールがどうしようか迷っていると部屋をノックする音が聞こえた。


「どうぞ。」


テオドールがそう言うと中に入ってきたのは思いもよらない人物だった。ハロルドも入ってきた人物に驚いた。


「失礼·····す·····します。テオドールに用があったのですがハロルド殿下もいらっしゃったのですね。」

「あぁ、俺のことは気にしないで?」

「いえ、殿下がテオドールに御用があるのでしたら·····」

「お父様気にしないでください。それで私に用事とは?」


メルヴィルは持ってきたものをテオドールに手渡す。テオドールは受け取ったそれを見て首を傾げる。


「これは·····石ですか?」

「あぁ。それを少し調べて欲しい。」


メルヴィルは屋敷で何があったのかを説明した。そして、ルーカスが魔力切れで眠っていることも話した。その話を聞いた途端、テオドールの表情が曇った。


「ルーカスは大丈夫なんですか!?」

「一応回復薬を飲ませて寝かせている。」


珍しく動揺しているテオドールを見てハロルドはある事を思いついた。


「テオ、様子見に行けば?」

「·····そうだね。今日はもう何も無いし明日は講義は午後だけだ。お父様、1度様子を見に帰っても大丈夫でしょうか?」

「あぁ。テオドールが無理をしないなら大丈夫だが。」

「大丈夫です。ハル、ルーカスの様子を見に行くから研究の続きは「俺もいく!」·····えっ?」


ハロルドの発言にテオドールとメルヴィルは声を上げる。


「殿下のお手を煩わせるのは·····」

「大丈夫気にするな!」

「ハル·····お願いだから·····」

「さっき言っただろ?俺に任せとけって!」


ハロルドは1度やると言ったら必ずやる。テオドールとメルヴィルは諦めて3人で屋敷に向かうことにした。
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