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本編
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しおりを挟む俺は森の中を1人で歩いていた。
目的地はわからないが何となくどこからか呼ばれている気がした。
呼ばれている方に身体が勝手に動いていく。しばらく歩き続けると木々の向こうに開けた場所が見えてきた。
(·····花畑だ·····)
木々を抜けた向こうには花畑が広がっていた。初めて見る一面の花畑にルーカスは目を奪われる。
(すごいキレイな場所·····でも、どこかで見たことある気がする·····)
どこかで見たことあるその風景を思い出そうとするが全く思い出せない。そもそもルーカスは屋敷から出たことがない。だから、思い出そうとする以前に知らなくて当たり前なのだ。
ルーカスは花畑を進もうと足を踏み出そうとした時だった。
「やっと君に会えた」
いきなり後ろから声をかけられ、ルーカスは声がした方向を向こうとした。
だが、声の主を確かめることが出来ないままその夢は終わってしまった。
「··········朝?」
目が覚めてしまった。ルーカスは身体を起こすと外を見た。まだ、外は明るくなる前だがルーカスにとってはいつも起きる時間だ。
まだ暗い外をみながらルーカスは先程まで見ていた夢を思い出していた。
(結局·····あの声は誰のものなんだろう?)
やっと見つけた·····そう言われた。だが、家から出たことない自分を見つけたということはどういう事なのだろうか。答えの見つからない疑問にルーカスは頭を悩ませた。
それから時間が経ち、部屋をノックする音が聞こえた。
「失礼してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
そうして入ってきたのはメイドのハンナだった。
「おはようございます。本日も早起きですね。」
ハンナは挨拶をしたあと部屋のカーテンを開け始めた。ルーカスはベッドから降りるとかけていた布団を直し朝の身支度を始めた。
朝の身支度が終わり、食堂へ向かうとそこにはメルヴィルとエルドが既に着席していた。
「おはようございます。」
「ルーカス、おはよう。よく眠れたか?」
「はい。」
「·····はよ。」
ルーカスが席に着くと朝食が運ばれてくる。食事をしてる間、3人は黙々と食べる。
しかし、少食のルーカスがいつにも増して食事をとるスピードが遅いことにメルヴィルは気づいた。
「ルーカスどこか調子でも悪いのか?」
「いえ·····特には·····」
メルヴィルは席を立ち上がり、ルーカスの横に来ると手を額に当てる。
「熱は·····ないな。顔色も特に悪くない。」
「俺は大丈夫です。」
「そうか·····もし、調子が悪くなったらすぐに言ってくれ。今日は大人しくしてるといい。」
「·····わかりました。」
そうしてルーカスは出された朝食を半分も食べられず朝食を終えた。
エルドとメルヴィルがそれぞれ家を出るのを見送ったあと、ルーカスは自室にいた。
自室と言っても今まで使ってた部屋ではなく新しく準備された部屋だ。大きさも家具も今までとは違う。
最初はこの部屋を使うのも申し訳なかったが次第に慣れてきたがそれでもまだどこか緊張してしまう。
エルドに買って貰ったほんと教えて貰った文字を書いた紙を照らし合わせながらルーカスは本を読み進めていた。
読めない部分はハンナに聞きながら進めていった。
「ルーカス様そろそろ昼食のお時間ですがいかが致しましょうか?」
エルド達を見送ったあとから本を読み進めていたので気づけば3時間以上も読んでいた。
集中し頭も使ったがお腹は空いていなかった。
「あまりお腹空いてないんです。」
「ですが、朝食もあまり食べられてなかったですよね?」
「·····はい。」
「少しだけでも食べられませんか?」
「少しなら·····」
ハンナはその言葉に頷くと厨房に向かっていった。
ハンナが出ていった後、ルーカスは読んでいた本を閉じ近くに置いてあった箱を開けた。
そこには数日前ハリスから貰った石が入っていた。箱から石を取りだし光にかざす。
キラキラと輝いていた石は陽の光を浴びて更に輝きを増した。
「キレイだな·····」
その石を見ているとどこか心地よい気分になる。
それをどのくらい見ていたのだろうか。トントンとドアをノックされた音でルーカスはふと現実に戻った。
「どうぞ!」
「失礼します。」
ハンナはワゴンを押しながら部屋に戻ってきた。ワゴンをルーカスの横に停め、ハンナは昼食の準備をしだす。
テーブルを片付けようとした時だった。ハンナはルーカスが持っていた石が目に入った。
「ルーカス様、手に持ってるものはどうされたのですか?」
「この間、出かけた際に頂きました。」
「頂いた?·····この石をですか?」
ハンナの目にはどこにでも落ちていそうな石に見えた。そして、そんな石を誰がルーカスにプレゼントをしたのか疑問に思った。
(この間の外出はエルド様と一緒だった·····そんな状況下でこんな道端にありそうな石をプレゼントするなんて·····)
ハンナは疑問に思いながらも準備を進めた。
「それは、良かったですね。」
「はい。こんなにキラキラ輝いてる石なんて初めて見ました。」
「キラキラ·····輝いているのですか?」
ハンナが首を傾げるとルーカスも同様に首を傾げた。こんなにもキラキラと輝いてるのであれば誰もが目を奪われるだろう。
「えっ·····キラキラして·····あっ!」
ルーカスはその瞬間、ハリスに「属性を判断出来ることは口外しない方がいい」と言われたことを思い出した。
この石が精霊石では無くても、この輝きが何かに関係しているのであれば不用意に言わない方がいいのかもしれない。
「いえ!気にしないで下さい。」
「かしこまりました。」
ハンナは不要に詮索をしてこなかった。それが、ハンナのいい所でもありルーカスがハンナにすぐに慣れた理由でもある。
ハンナは人をよく観察している。しっかり自分に身分をわきまえ接している。
余計なことは聞かない。それが、ルーカスにとってはありがたかった。
だが、ハンナが担当じゃない日もある。そういう日に限ってルーカスは気疲れをする。
だが、ルーカスは誰にもその事を言わなかった。自分が世話をされているのに文句や不満を言う訳にはいかない。
普段から使用人を観察していたルーカスは、使用人がどれだけ忙しいか十分に理解している。だがらこそ、余計に迷惑をかけることなんて出来なかった。
「ルーカス様どうぞ。」
「ありがとうございます。いただきます。」
そう言ってルーカスは準備された昼食をとり始めたが、朝同様食べきることは出来なかった。
身体が不調を訴えている訳では無い。しかし、何故か食欲がわかない。
ルーカスは作ってくれた人に申し訳なく思ったが無理に食べる方が体調が悪くなりそうなため昼食を残した。
「·····作ってくれた方にごめんなさいって伝えてもらってもいいですか?」
「かしこまりました。」
ハンナはテーブルの上を片し再びワゴンを押して部屋を出ていった。
昼食を食べたあと、ルーカスは再び本を読み始めた。しかし、午前とは打って変わって中々本に集中出来なかった。
そばに置いてあった石がどうしても気になった。ルーカスは本を閉じそばに置いてあった石を手に取った。
(ハリスさんは·····石の属性を知るためには魔力を流すって言ってたよね?)
他の人とは違う見え方をするこの石は普通の石ではない。そこでルーカスはこの石に魔力を通せば何かが起きるかもしれないと考えた。
しかし、問題が生じた。魔力の流し方をルーカスは知らない。魔法をならい始めるのは精霊と契約してからだ。
まだ、契約もしていないルーカスには魔力の使い方なんて知るはずもなかった。そこでルーカスは、近くにいたハンナに聞いてみることにした。
「あの、ハンナさん?」
「なんでございましょう?」
「魔力ってどう流すんですか?」
「魔力·····ですか?」
ハンナは少し考えた後、魔力について話してくれた。
魔力は生まれつき誰もが持っており魔力を使うために必要な経路、例えると血管みたいなものは生まれたあとから構築されていき7歳頃に出来上がるらしい。だからこそ、精霊との契約も7歳に行うらしい。
「魔力を使うにはまず体内の魔力を感じなくてはいけません。」
「どのようにやるんですか?」
「魔力経路を辿るのです。そうすると魔力が反応して身体がポカポカと温まっていく感覚が生じます。」
その話を聞いてルーカスは自分の手を見つめたあと目を閉じた。
「魔力を感じることは特に身体には害もありません。7歳にならなくても魔力を感じることが出来ること子供も稀にいます。」
ルーカスは自分の中にある魔力と魔力経路を辿り始めた。すると次第に身体がポカポカと温まっていく感じがした、
ハンナはルーカスの魔力をうっすらと感じた。
「·····凄いですね。まさか、ルーカス様が感じれるとは·····。天才です!」
「これが·····魔力·····」
ルーカスは自分の手のひらを見つめた。初めて感じた魔力に興奮を抑えることが出来ない。
珍しく感情を表に出しているルーカスを見てハンナは微笑む。
「ルーカス様お疲れになってませんか?今お茶を用意してきますね。」
そう言ってハンナは部屋を出ていった。それを確認したあと、ルーカスは近くに置いていた石を手に取った。
(魔力を·····通す·····石にも魔力経路がある感じでやればいいのかな?)
そう考えたルーカスは、再び魔力を感じると共に石に魔力を流した。すると、やり方が正解していたのかルーカスが流した魔力を石が吸い始めた。
魔力を吸い始めた石はキラキラと光出した。
(これ·····やっぱり精霊石じゃないのかな?)
ルーカスは魔力を流せたことに満足し、石を離そうとした。だが、石から手を離すことが出来なかった。
次第に身体が怠くなっていき手に力が入らなくなる。
(うっ·····これ、どうしたらいいの?)
身体を支えることが出来なくなり椅子から落ちそうになった時だった。
ぱんっ!
誰かがルーカスの手から石を払った。ルーカスは石が手から離れた瞬間、魔力が身体から抜けていく感覚が無くなったのを感じた。
しかし、魔力が底をつきそうになっていた身体に魔力が急に戻ってくる訳もなく、ルーカスは椅子から落ちた。
だが、身体が床に打ちつけられることはなかった。誰かが抱きとめてくれたのだろうか、冷えていた身体に微かだが誰かの温もりを感じだ。
(·····寒い·····でも、あったかい·····)
ルーカスは受け止めくれた人を見ようと必死に目を開けようとしたが、次第に重くなってくる瞼を開けることは出来なかった。
誰かが自分の名前を叫ぶ声を遠くに聞きながらルーカスは意識を失った。
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