嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

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バンッ!!!


そんな音にも似た衝撃に襲われルーカスは目を覚ました。そして自分の身体が重く動かしにくい事に気づいた。


(なに·····?)


ルーカスが目を開けると、人の腕がルーカスの上にあった。恐る恐るその腕を辿ってみるとその正体はルイスだった。

その瞬間、テオドールとエルドが寝る前に言っていた言葉の意味を理解することが出来た。
 

(·····2人の言うこと聞いとけば良かったかな?)


そんなことを考えながら、ルーカスは自分の上にある腕というより自分に半身寄りかかって寝ているルイスを起こさないようにどかそうとした。


「··········重い」


ルーカスは身をよじったりしてなんとかベッドから抜け出す。



「なんとか抜け出せたや·····」


自分がいた場所をみてルーカスはため息をつく。確かにテオドールやエルドの聞いとけば良かったと思ったが、嫌な気持ちにはならなかった。


(··········また、色々と話を聞かせてくれたらいいな)


ルーカスはルイスから聞いた話を思い出す。様々な言語が存在し、この国にはない食べ物や植物・景色がこの世界には沢山あること。

そして、自分達とは違った考えに触れることで得れるものもあるということ。

その話を聞いてルーカスは、より外に出て旅をしたいという気持ちが強くなった。


(早く·····精霊と契約したいな)

 
外に出るためには精霊と契約して力をつける必要がある。だが、ルーカスはまだ6歳であり契約するにはあと1年待たなくてはいけない。

しかし、精霊と契約したからと言ってすぐに魔法が使えるわけではない。それなりの勉強が必要である。

そして、ルーカス達が住むフォーサイスでは貴族は学園に通う義務がある。つまり、ルーカスの旅に出たいという夢が叶うのはまだまだ先の話である。





ルーカスはベッドから降りて窓に近寄りカーテンを少し開けて外を見る。外はまだ薄暗いが体感だといつもと起床の時間は変わらないだろう。

いつもなら朝食をとりに行くが、今日は厨房に行くのはやめた。理由はわからないがなんとなく行かない方がいいとルーカスは感じた。


「暇だなぁ·····」


ご飯を食べに行かないとなると時間が出来てしまう。朝早いこの時間に誰を起こすわけにはいかない。どうしようかと思っているとふとフィルのことを思い出した。

しばらく会えていない友達に会いに行こうと思いルーカスは部屋を出た。

部屋を出て少し歩いたところで着替えを思い出し、ルーカスは自分の部屋へと戻って行った。

自分の部屋に着き、クローゼットを開けるとそこには昨日着ていた綺麗な服ではなくいつも着ていた慣れ親しんだ服があった。

ルーカスは着替えを終えると部屋を出て馬小屋へと向かった。



外に出ると空気は冷たく身体がブルっと震える。


「流石に·····寒いや」


ルーカスは身体を温めるためにも小走りで馬小屋へ向かう。
馬小屋の前にたどり着くとルーカスは小屋の戸を開けて中に入る。

その音に気づいたのか中の馬たちが一斉にルーカスを見る。
 
ルーカスは小屋の中に入るとすぐさまフィルの元へ向かう。


「フィル、おはよう。少しの間来れなくてごめんね?」


そう言ってフィルを撫でるとフィルは嬉しそうに嘶く。久々のフィルの感触にルーカスは肩の力が抜けた。

まわりの環境が慌ただしく動いていき、どこか取り残されていた部分がルーカスにはあった。


「ねぇ、フィル·····俺さ、しっかり家族になれるかな?」


血の繋がりのある人達に家族になろうと言われた事はすごく嬉しかった。自分にもかけがえのない存在ができるのだと思うと心が踊った。

だが、その反面本当に家族になれるのか?嫌われないだろうか?迷惑かけないだろうか?などたくさんの不安がルーカスの中に生まれた。

そんな不安をフィルは感じ取ったのか大丈夫だと言うかのように自分の顔をルーカスの顔に押し付けた。


「·····うん、ありがとうフィル。」


ルーカスもフィルに慰めてもらったのを感じお礼にフィルを撫でる。

ルーカスはこの何気ない幸せな時間が続けば良いのにと思いながら時間が過ぎるのを待った。







小屋に来てからどれくらい時間が経ったのだろう?屋敷の方がなんとなく慌ただしい事にルーカスは気づいた。

ルーカスは小屋からそっと出て周りを見る。すると、聞き馴染みにある声が聞こえた。


「ここにいましたか、ルーカス坊っちゃま!」


ルーカスは声がした方向をみるとそこにはこの屋敷の馬の世話をしているジョンがいた。


「ジョンじぃ·····」

「みんなが屋敷の方で坊っちゃま探してますよ?」

「えっ?」


今までにこんな事など起きたことが無かった。だからこそルーカスはその言葉を理解するのに時間がかかった。


「俺を探してる?·····なんで?」

「なんで·····ですか?それはもちろん大切な人がいきなりいなくなったらびっくりするではないですか?」


ルーカスはジョンのその言葉に首を傾げる。その様子を見てジョンはクスッと笑う。


「例えばルーカス坊っちゃま、フィルがいきなりいなくなったらどう思います?」

「フィル·····が?うーん·····なんでいなくなったの?って思う。」

「そうですね。寂しくなったり悲しくなったりしますよね?」


ルーカスはその言葉に頷く。どんな小さな出来事でもルーカスはフィルと共有してきた。そんな大事な友達がいなくなってしまったらとても悲しくなるであろう。

だが、ルーカスは部屋から出て馬小屋に来ただけだ。屋敷から出ていった訳じゃない。


「でも·····俺別にいなくなった訳じゃ·····」


ルーカスのその反応にジョンは少し困ったが、それをルーカスに悟られないように気をつけた。


「そうですね。でも、皆さん心配してると思うので一度戻られた方が良いと思いますよ?」

「·····わかった。でも、フィルの餌が·····」

「それは今日はこちらでやっと来ますので。」


ルーカスは少し残念に思いながらも馬小屋を後にした。






屋敷の入口の前まで戻りドアを開けようとした。だが、ドアを開けようと伸ばした手は途中で止まった。


(どうしよう·····怒られないかな?)


みんなが自分を探しているとジョンは言っていた。理由はどうであれ自分がみんなに迷惑をかけているのでは?とルーカスは思った。

ルーカスはドアを開けるのが怖くてしばらく立ち尽くしていた。


「ルーカス!?」


不意に後ろから声がした。ルーカスは恐る恐る後ろを振り向くとそこにはテオドールが立っていた。


「あっ·····あの!?」


ごめんなさい·····と言おうと思った瞬間、ルーカスはテオドールに抱きしめた。


「どこ行ってたの!?·····本当に心配したんだよ?」

「えっ·····心配?·····なんでですか?」

「なんでって、そんなの何も言わずにいなくなったら心配するのなんて当たり前でしょ!?」

「·····そうなんですか?」


ルーカスのその言葉にテオドールは一瞬固まる。


「どうして·····そう思うの?」

「えっと·····今までは自分の居場所なんて誰にも伝えたことないですし·····」


テオドールはルーカスの言った意味をすぐに理解した。今までの生活を見てみればルーカスの生活には他人から心配されることは無縁だった。

いきなり今までしてこなかったことを何も言われずにやれと言われても誰もできないであろう。

テオドールは自分が言った言葉に罪悪感を覚えた。


「ルーカスごめんね。」


テオドールが謝るとルーカスは首を傾げた。


「何故謝るのですか?」

「私がルーカスにちゃんと配慮を出来てなかったからだよ。」


テオドールは気難しそうな顔やめてルーカスに優しい笑みを向けた。


「あのね、ルーカス。大切な人がいきたりいなくなったらびっくりして悲しくなるでしょ?」


その言葉を聞いた瞬間、ルーカスはジョンの話を思い出した。


「ジョンじぃも同じことを言ってました。」

「ジョンじぃ·····?あぁ、馬小屋の使用人か。そっか、じゃあ、同じ内容だけど私からもちゃんと伝えるね?」


ルーカスはその言葉に頷く。


「ルーカスがいないっていう話を聞いて私はね びっくりしたんだよ?ルーカスに何かあったのかなって思った。ルーカスがどこか知らないとこで怪我していたら嫌だとも思った。」

「·····それが心配したということですか?」

「うん。そういう事。ルーカスの事が大切だからこそ余計に心配したよ?」


ルーカスは少し考えた後、テオドールに向かって深く頭を下げた。


「心配させて·····ごめんなさい。」


ルーカスは謝罪をしたあとも顔を上げなかった。テオドールはルーカスの謝り方を見て、使用人が謝る姿と重なった。


「っ!ルーカス頭を上げて?そんなふうに謝らないで?」


ルーカスは恐る恐る頭をあげる。自分が見てきた使用人が、こんな風に誤っている姿を何回も見た。

だからこそルーカスは、こんな風に謝るのが正しいと思い込んでしまった。なのに、実の兄に正しいと思っていた謝罪の仕方を止められた。


「ルーカスいい?ルーカスはそんなふうに謝っちゃいけないよ?」

「なんでですか?」

「んー·····今は難しいと思うから、とりあえずそんなふうに頭を簡単に下げちゃいけないことだけは覚えておいて。」


テオドールのその言葉にどこか納得できない部分はあったがルーカスは素直に頷いた。


「うん、ありがとう。それじゃあ、みんながルーカスを探しているしもう中に入ろっか?」


テオドールはルーカスに手を差し出す。ルーカスは差し出された手をどうすればいいかわからずテオドールを見つめた。


「ルーカス手をかして?繋ぎながら行こっか?」


ルーカスは差し出された手の上にそっと自分の手を乗せる。


「手が冷たくなってる!いつから外にいたの?」


テオドールは手を繋ぐことをやめて、自分が羽織っていた上着でルーカスを包み抱き上げる。


「あの、汚れちゃうので大丈夫です!」

「汚れるのはいいよ。そんなことよりこんなに冷えている方が良くないから。食堂にいってご飯食べながら温かいものでも飲もう?」


ルーカスを抱え屋敷の中に入るとテオドールはルーカスが見つかったことを伝えるように使用人に頼むとすぐに食堂に向かった。


食堂に入るとさっき伝達したばっかのはずなのに既にルイス、ソフィア、メルヴィル、エルドが揃っていた。


「ルーカス!ワシが起きた時にいなくなっていて心配したぞ!?」


ルイスがすぐにルーカスに近寄る。慌てた様子をみせるルイスにルーカスは申し訳なく思った。


「あの·····ごっ·····」


ごめんなさいと言おうと思った瞬間、ルーカスは先程のテオドールの言葉を思い出した。

そんなふうに謝らないでと言われたルーカスはこのまま謝罪をしていいのかわからなくなりテオドールを見る。

するとその視線を感じ取ったのかテオドールがルーカスをみて優しく笑う。


「さっきの話を気にしちゃったかな?こういう時はごめんなさいって言葉を伝えるだけで大丈夫だよ。」

「·····ごめんなさい。」


そう謝るとルイスはニカッと笑う。


「よく謝れたな。ルーカスは偉いのう」


そう言ってルイスはルーカスの頭を撫でる。少し荒っぽい撫で方だがルーカスはその手から伝わる温もりに少し安心した。


(心配される·····って嬉しいんだ)


今まで感じたことこない感情にルーカスは少し嬉しくなったのであった。
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