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本編
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しおりを挟む「俺は·····愛されたい」
年端もいかぬ子供が願うことだろうか。俯きがちにそう願うルーカスを見て、メルヴィルは心が締め付けられた。
そして、再びルーカスを抱きしめる。
「でも·····俺は愛される事がどういう事かわかりません。」
「あぁ·····」
愛されることはどういうことかをルーカスは知らない。だから、愛されていることを行動や言葉で示されても理解に苦しむ。
それでも、ルーカスにとってその願いは捨てられるものじゃなかった。
ルーカスのその言葉を聞いたメルヴィルはどういう風に愛を示せばいいか悩んだ。それでも、行動や言葉で示さなくては何も伝わらない。
だからこそメルヴィルは一つ一つ教えていこうと決意した。
「ルーカス·····私がこう言っても信じられないと思う。それでも·····私は、ずっとルーカスのことを愛してたよ。」
この言葉を信じてもらえるとは思っていない。今までの行動を見れば信じられるはずがない。都合がいいと言われるかもしれない。
それでも、信じてもらいたかった。自分がルーカスを大切に思っていたことを。
「今はまだ信じられないし·····理解できないと思う。それでも、私がルーカスを愛している事だけは頭の片隅に置いておいて欲しい。」
ルーカスはメルヴィルの言葉を素直に受け止められなかった。でも、メルヴィルはその言葉をまだ信じられなくても理解できないできなくてもいいと言った。
ルーカスはそれを信じて首を縦に振った。
2人の様子を見ていたテオドールやエルドもルーカスに近寄った。
「ルーカス、私もお父様と同じ気持ちだよ·····そして、これからは何があっても絶対にルーカスを守るし大切にしていく。」
テオドールがそう言うとルーカスは先程と同様に頷いた。それを見ていたエルドも続けて喋ろとした。
「おっ·····俺も·····。」
でも、言葉が上手く出てこなかった。何故なら、今までの自分の行動を振り返り、今からルーカスに伝える言葉を言う権利が自分にはないと感じたからだ。
上手く喋れず下を向くと、誰かが後ろから肩をポンと叩いた。エルドはそれに反応し後ろを振り向く。するとそこにはルイスが立っていた。
「エルド、俺もお前の父親も兄も同じ状況だ。それでも気持ちは伝えなきゃ伝わらないんだ。」
「·····はい。」
「言えばよかったなんて後悔は嫌だろ?」
ルイスのその言葉を聞いてエルドは決心し、ルーカスを見た。
エルドの真剣な眼差しにルーカスは目をそらす事が出来なかった
「ルーカス·····俺は今まで酷いことをしてきた。許してくれ·····と言える立場でもない。」
「··········はい。」
「だから、許して欲しいとは言わない。だが、謝らせてくれ。本当に申し訳なかった。」
「··········」
「これからは·····何があってもお前を守る。今までみたいに見て見ぬふりはしない。」
この人は不器用だ·····とルーカスは思った。声は震えていて自信なさげである。それでも·····その眼差しだけは真剣で凛としていた。
目の前にいる人たちの言葉はまだ信じられない。それでも心のどこかで信じてみたいと思った。
「俺は·····まだ皆さんの言葉を信じれません。」
ルーカスのその言葉に3人は頷く。
「·····それでも·····少しは信じてみたいって·····思いもあります。」
ルーカスがそう言うとメルヴィルやテオドールそしてエルドの表情が少しやわらいだ。
「今はそれでいい。これからは私達がルーカスに信じて貰えるようち努力する。」
メルヴィルがそう言うと隣にいたテオドールとエルドが賛同するように頷く。
3人の話がまとまった所でルイスとソフィアがルーカスに近づいた。
「ルーカス·····ワシらからも謝らせてくれ。お前の母親が·····ワシらの娘が本当に酷いことをした。あんな風に育ってしまったのはワシらのせいでもある。申し訳なかった·····。」
「娘だからって甘やかした結果がこうなるとは思ってなかったわ·····。今になればこの言葉も言い訳にしかならないわね。ルーカス、本当にごめんなさい。」
ルイスとソフィアが再び頭を下げる。目上の人間にそんな態度を取られたことがないルーカスは頭を下げる二人に困ってしまった。
「あっ·····あの、頭を下げないでください!」
ルーカスのその言葉を聞いて2人は頭を上げた。そして、目の前でおろおろするルーカスを見て少し笑みを浮かべた。
「ルーカス·····お前はいい子に育ったな。」
「えぇ、そうね。こんなにも優しい子だったのね。」
そうして2人はルーカスの頭をそっと撫でる。すると、どうしていいかわからなくなってしまったルーカスは固まってしまった。
「ルーカスよ·····お前はこのままこの屋敷で暮らしたいか?」
先程までにこやかだったルイスが改まって話し出した。
「えっ·····?」
この屋敷をでて暮らすなんて考えたこともなかった。考えていたとしてもそれはまだ先の話で精霊とも契約をしていない。
(ここを出て·····暮らす?·····どこで?)
お金もなければ才能も知識もない。人の役に立てる物を一つも持ってない。その事実がルーカスに重くのしかかる。
ルーカスの様子を見てルイスは小さく笑った。
「ルーカス、お前が気にする事は何も無い。大人が自分の子供を育てることは当たり前だ·····と言ってもこの状況だったら信じられないだろうが。」
そう言ってルイスはメルヴィルに視線を向ける。その視線を受け取ったメルヴィルが口を開く。
「ルーカス·····お前の好きにしていい。この屋敷を出たいなら出てもいい。その時に必要なものは何でも揃えるし今後の支援だって約束する。」
「そうだ。メルヴィルもこう言ってるし·····なんならルーカスワシらと来るか??」
「ちょっと、お義父様!?」
「「お爺様!?」」
ルイスの提案にメルヴィルやテオドールそしてエルドが反応した。
「なんだ、今のメルヴィルの言い方じゃなぁ?まるで出てった方が「そんな訳ないじゃないですか!」」
思ってもないことを言われたメルヴィルは慌てだす。
「そんなの、いて欲しいに決まってるじゃないですか!これからは、沢山甘やかしたいんですから!」
「メルヴィル、あまり甘やかすと失敗するわよ·····」
「お義母様!?」
見たこともない父親の慌てぶりにルーカスは呆然とする。その様子を見たルイスがルーカスの前にしゃがみ顔を合わせる。
「ルーカス、虫のいい話かもしれない。どうか·····この屋敷に残ってあいつらと暮らしてくれんか?」
「·····」
「見ての通りあいつら·····そしてワシらも反省してる。償うために·····は違うな。どうか、本物の家族になるために一緒にここであいつらと暮らしてはくれぬか?」
その言葉にルーカスは心が揺れた。
(本物の家族になるために·····)
家族への憧れはルーカスの中にあった。本や使用人そして、屋敷にいる動物たち·····どこに行ってもそこには家族というものがあった。
(ひとりぼっちじゃなくなるの?)
ルーカスはメルヴィル・テオドールそしてエルドの顔を順番に見ていく。血は繋がっていれど今までは家族だと感じだ事がなかった。
けれど、もし本当にみんなで家族になれるならどれだけ嬉しい事だろうか。
「俺··········この屋敷にいます。」
ルーカスは自分の決意を口にする。すると、目の前にいる3人は今まで見たことがないくらい嬉しそうな顔をした。
今はまだ形だけの家族かもしれない。それでも少しずつ歩み寄り、互いに手を取り合えばいつかは本物の家族になれるかもしれない。
ルーカスは小さな1歩を踏み出していった。
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