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本編
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しおりを挟む目の前にいる人全員が自分に頭を下げている光景をルーカスはただ呆然と見ていた。
(なんで·····謝るの?)
俺の左目が気持ち悪いから·····
オリビア様が俺を嫌っていたから·····
皆に無事に暮らしてもらいたかったから·····
だから、俺一人が苦しい思いをしていればよかった。だから、皆が謝る必要は無い。
幼いルーカスにいつの間にか芽生えて自己犠牲の癖。その考えがこの事態をルーカスの中で正当化させようとしていた。
でもその反面、今まで苦しい思いをしてきた過去の自分が悲鳴をあげていた。
なんで、今更謝るの?
もっと早く助けてよ!
どうせ俺の事が嫌いなんでしょ!?
だから·····今まで助けてくれなかったんだ·····
色々な思いがルーカスの中で渦を巻いている。きっと、この場でみんなを許せば一番楽に素早くこの問題を解決出来るだろう。
でも、許す·····そのたった一言で全てが解決出来るなら今までの苦しみはなんだったのか。
考えた末にルーカスが発した言葉はただ1つだった。
「俺が悪いですから·····」
その言葉を聞いた瞬間その部屋にいたルーカス以外の人間がみんな傷ついた顔をした。
ルーカスはその顔を見て不思議そうな顔をした。
結局は、この容姿を持ち母親に嫌われていた自分が悪い。
ルーカスが自分で納得して結論付ける方法はそれしか無かった。
(だから、これ以上何も言わないで。·····もうどうすればいいのか自分でもわからないよ·····)
ルーカスは皆との間にこれ以上踏み込まないで欲しいという明確な線を引いた。
幼い子供からの明らかな拒絶に大人たちは戸惑う。このような幼い子供が色々と考え抜いた上での言葉だと理解しているからだ。
(それでも·····私は·····!!)
ルーカスのその言葉を聞いてもメルヴィルはもう父親の役割を放棄したくなかった。何より今まで傷ついてきた最愛の息子をこれ以上傷つけたくなかった。
メルヴィルがルーカスに近づく。
目の前に来てルーカスと同じ高さになるようメルヴィルはしゃがむ。ルーカスは急に近づいてきたメルヴィルに驚き1歩後ろに下がる。
「ルーカス·····」
「··········なんですか?」
メルヴィルからの声掛けにルーカスは時間を置いてこたえた。
「改めて、今まで本当に申し訳なかった。」
そう言ってメルヴィルは再び頭を下げる。
その姿を見てルーカスは少し苛立ちを覚えた。
「さっき言いました。俺が悪いのです。どうしてあなたが謝るんですか?」
「お前は何も悪くない!」
「俺が·····こんな目をしてなければオリビア様だってみんなだって俺の事を避けなかった!嫌わなかった!」
「そんなこ「そんなはずない!」」
メルヴィルの言葉を遮りルーカスは叫ぶ。初めて自分の気持ちを爆発させるルーカスをその場にいる人は黙って見ていた。
「きっと、俺がどんな姿でもみんなには好かれない!だから、俺が困っていても苦しい思いしてもみんな無視する·····!」
もう、期待をしたくない。期待をして結局誰にも愛されないのは嫌だ。
だったら、誰も近寄らないで欲しい。優しくしないで欲しい。
外に吐き出せない思いは涙となって溢れてくる。涙を流すルーカスを見た瞬間、メルヴィルはいてもたってもいられずルーカスを抱きしめた。
「っ·····!離してください!」
「嫌だ·····」
「優しくしないで!近寄らないで!」
「それも嫌だ!!」
ルーカスは必死に腕の中から抜け出そうと暴れるが大人の力に勝てるわけが無い。
「申し訳ない·····本当に·····申し訳ない·····っ!」
メルヴィルの声が震えているのにルーカスは気づいた。
ルーカスの思いを叫びを受け取ったメルヴィルは心が締め付けられ涙が溢れそうになっていた。
だが、自分は泣いてもいい立場ではないと思い必死に涙が出そうなのを堪えた。
「私は·····許されないことをしてきた。今まで助けてやれなくて·····本当に申し訳ない。」
「だから、俺が悪いって「違う!」」
先程とは反対にメルヴィルがルーカスの言葉を遮る。
「違う。ルーカスは何も悪くない。悪いのは私なんだ·····。守ってやれなくて·····しっかり愛せなくて·····本当に申し訳なかった!」
自分のことを抱きしめながら思いを吐き出す父親にルーカスは戸惑った。
どう返事をするのが正解なのか·····この人は何を求めているのか·····ルーカスには何もわからなかった。
「俺は·····なんて言えばいいんですか?」
わからないからこそルーカスは正直に言った。その言葉にメルヴィルは抱きしめる力を強めた。
「ルーカスが何を思っているのか·····これからどうしたいのか·····聞かせて欲しい。」
「俺は·····今まで通りでいいです。」
「何故?」
「だって、その方が俺もみんなも傷つかないじゃないですか。」
メルヴィルはルーカスをそっと離し、顔をよく見た。いつもなら·····仕事でなら相手が何を考えているかよく分かるのに何故こういう時は役に立たないのか·····。
それでも、ルーカスのこの言葉が本心では無いことぐらいメルヴィルにもすぐにわかった。
「そうじゃない。皆は置いておいていいんだ。ルーカスがどうしたいか·····教えて欲しい。」
「俺が·····どうしたいか·····」
今まで平穏に過ごせるように人の顔色を伺って生きてきた。そこに自分の意思は存在しなかった。
自分の願いを言うことはワガママだと思っていた。だが、目の前にいる父親は自分の願いを言えという。
(·····ワガママ言って怒られないのかな?)
オリビアだったら完全に怒られている。もしかしたらこの父親もワガママを言えば起こるかもしれない。
(怒鳴られることには慣れている。だから、怒られても大丈夫。それでも、少しでも今の状態が変わるなら·····)
ルーカスは口を開きただ一言だけ発した。その願いは今までルーカスにとって手の届かなかったものだった。だからこそ、その願いが叶うのであればルーカスは他に何もいらない。そう思っている。
「俺は··········愛されたいです。」
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