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本編
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しおりを挟む(結局·····俺は愛されないんだ)
オリビアが振りかざした手を見ながらルーカスはそう思った。
(痛いのは嫌だな·····)
そう思い避けれない手を受けるためにルーカスは目を瞑った。
バシッ·····!!
頬を叩かれる音が談話室に鳴り響く。
ルーカスは叩かれた音がしたのに一向に痛みがやって来ないのを不思議に感じ、恐る恐る目を開いた。
そして、目の前の光景に目を大きく見開く。
「っ~~!」
エルドが左頬を押さえながらルーカスを背にかばい立っていた。
「エルド·····!?大丈夫か!?」
テオドールがエルドの傍に行き、怪我の確認をする。頬は赤くなっているだけで、特に出血などはしていなかった。
「こんなの、稽古の時の怪我に比べたらなんでもない。」
「·····そうか、良くやったなエルド。」
テオドールは優しくエルドの頭を撫でる。すると、エルドは顔を赤くしそっぽを向いてしまった。
「べっ·····別に、俺は何もしてない!」
そう言った後、エルドはチラリと視線をルーカスに向けた。
ルーカスは顔を真っ青にしてカタカタと震えながらエルドを見ていた。エルドはため息を一つつき、ルーカスと視線が合うようにしゃがむ。
「おい·····」
エルドがルーカスに向かってそう呼びかけると、ルーカスの肩が一瞬ビクッと跳ねた。
「ごっ·····ごめ·····さ·····い。」
「あっ?」
「俺のせいで·····ごめんなさい·····」
エルドは怯えている子どもとの接し方を知らない。どうしたものかと思い視線をテオドールに向ける。だが、テオドールはニコッと微笑むだけだった。
(こういう時こそ兄をして欲しい·····)
エルドは少し考え、先程のテオドールと同じ事をした。ぎこちなく少々荒い手つきでルーカスの頭を撫でる。
すると、ルーカスの震えがとまりびっくりした表情でエルドを見た。
(こいつ·····小さいな)
ルイスとの剣術の稽古の時に言われたことをエルドはずっと考えていた。
確かに、ルイスが言ってることは正しい。だが、すぐには考えは変えられなかった。その時ふと自分がルーカスの歳の時を少し思い出した。
無条件でただ当たり前のように兄や姉は自分に優しくしてくれていた。
その優しさは大きくなるにつれて次第に忘れていった。だが、思い出した今なら少しわかる。
(優しさって当たり前に出てくるものじゃない·····)
この家は異常だ。俺もそのうちの1人。他者に無関心もしくは嫌悪の心を持っているからお互いに優しくしようとしないし干渉しない。特にルーカスに向かってはみんなそうだ。
「·····今までごめんな。」
「えっ?」
「今こんなに状況だからゆっくりは話せない。だから今度·····またちゃんと謝らせてくれ。」
ルーカスはエルドを見つめる。正直、エルドが話していることが素直に飲み込めない。でも、エルドの目は真剣だった。だからこそルーカスは小さく頷いた。
「うん·····ありがとな。」
エルドはルーカスの頭から手を離し立ち上がる。
そして、視線をルーカスからオリビアに向ける。
「なぁ、兄さん·····あれどうするの?」
「·····あぁ、あれはあちらに任せよう。」
テオドールも視線をオリビア達の方に向ける。
「なんで、あんなやつを庇うのよ!?」
「·····オリビア!!」
メルヴィルは暴れるオリビアをおさえ込む。
「離してよ!ねぇってば!」
「オリビア、落ち着け!」
「メルヴィル!離しなさい!」
声かけるだけではオリビアは落ち着かなかった。メルヴィルは仕方ないと決心し片手でオリビアをおさえ、もう片方の手でオリビアの目を覆う。
「ごめん·····オリビア。バロン·····お願いだ」
メルヴィルがそう呟いた瞬間、キラキラとした光がオリビアにふりかかり、その後オリビアは気を失った。
気を失ったオリビアをメルヴィルは一度ソファーに横たわらせる。
「お父様·····今のは?」
「あぁ、·····これは」
テオドールはメルヴィルの今の魔法に驚き説明を求めた。
メルヴィルが行使した魔法属性は光だ。そして、光属性特有の魔法「審判」によって魔力を制限されたオリビアは一時的に魔力不足になり気を失ってしまった。
この属性の精霊と契約できる人はとても少ない。だからこそ、光魔法が使える人はこの国では重宝されている。
「オリビアはしばらくは起きないだろう。お義父様お義母様、テオドール、エルド·····そしてルーカス本当に申し訳ない。」
そう言ってメルヴィルは頭を下げる。それに続きテオドールやエルド、そしてルイス、ソフィアもルーカスに向かって謝罪をし頭を下げた。
その状況をルーカスはただただ呆然と見ていた。
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