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本編
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しおりを挟む叩かれたオリビアは頬を抑えながら叩いた人を見る。
「おっ··········かあ·····さま?」
オリビアの前には苦しげな顔をしたソフィアが立っていた。
「·····オリビア痛いでしょ?」
「っ···、痛いに決まってるじゃないですか!」
「ルーカスはそれ以上に痛かったはずよ?」
「なっ·····なによ·····」
母親であるソフィアの言葉を聞いてもオリビアは反省の色を見せなかった。
それどころか苛立つ心を抑えることが出来なくなっていた。
「なによ!皆してルーカスルーカスって!」
ただ、愛する人に自分だけを見ていてもらいたい。隣りにずっといてもらいたい。
子どもなんて欲しくなかった。ただ、愛する人に自分だけを見ていて欲しいから。でも、愛する人が子どもが欲しいって言うから子どもを産んだ。
案の定、子どもが出来たらメルヴィルは子ども達を構うようになった。だが、子どもができてもメルヴィルは自分には甘いままだった。それは少し嬉しかった。
でも、今まであの人の視界に自分が1番映っていたはずなのに·····。他の人を視界に入れて欲しくない。
例え、お腹を痛めて産んだ我が子が相手でもその気持ちを消すことはできなかった。
最初は我が子が可愛くない訳では無かった。テオドールやフローラを産んだ時は自分だって少なからず我が子の世話をしていた。
だが、次第に心の中に親よりも女でいたい気持ちが強くなっていった。
ルーカスが生まれた時にはもう自分の中に親というものは無くなっていた。
子どもは嫌いでもメルヴィルが喜んでくれるなら·····それで、私を見てくれるなら·····その思いでルーカスを産んだ。
でも、生まれてきたルーカスはジェナー家の人間とはあまり似ていなかった。髪色は明るいし、左目だって金緑石という人とは考えられない色をしていた。
気味が悪い·····そう感じた。なのに、メルヴィルは自分とは反対にルーカスを可愛いと言った。
ただでさえ、親としての気持ちがない。そんな中でルーカスを可愛いと言った。
その瞬間、ルーカスにメルヴィルがとられると感じた。
だから、我が子の中で1番可愛がる気持ちがわかなかった。愛せなかった。
それなのに、今は皆口を開いてルーカスと言う。
「なんで·····なんでよ!どうして誰も私の気持ちをわかってくれないの!?」
「·····オリビア·····」
「お母様!お母様ならわかってくれるわよね!?」
涙を流しながらオリビアは目の前にいる母親の手を握りながら訴える。
「私は、親じゃなくて女でいたかった!ねぇ、お母様ならわかるでしょ!?」
涙流しながら訴える実の娘にソフィアは戸惑ってしまう。オリビアが言いたい気持ちはわからなくもない。だからと言って、今までオリビアがしてきた事が許される訳でもない。
「オリビア、あなたのその気持ちは悪いことではないと思うの。」
「じっ·····じゃあ!」
「それでもね、あなたはテオドールやフローラ、エルドそしてルーカスの母親なのよ?あなたの気持ち一つで親は辞められないの。」
「··········」
実の母親ならわかってくれると思っていた。なのに、その期待が見事に裏切られた。
オリビアはその場にペタリとへたり込んだ。この場に私の味方なんていない。誰も自分の気持ちを理解してくれない。
オリビアはどうすればいいか分からず泣くことしか出来なかった。
そんな、オリビアの姿を見ていたメルヴィルがオリビアに近寄り傍らに片膝をつけて座った。そして、オリビアの肩に自分の手をのせる。
「オリビア·····」
「メルヴィル·····?」
「ごめんね。君の気持ち·····全然知らなくて。」
メルヴィルのその言葉を聞いた瞬間、やはり自分の味方でいてくれるのはこの人だけなのかもしれないとオリビアは感じた。
すると、心の中のわだかまりがスっと溶けていくのを感じた。
だが、次の瞬間オリビアの耳を疑う言葉が聞こえた。
「オリビア·····一度距離を置こう。」
「えっ·····?」
「この状況を作ってしまった責任は私にもある。だからお互いに一度離れてやり直そう?きっと、私達はお互いに近くにいたらやり直すことも罪を清算することも出来ないと思うんだ。」
その言葉をオリビアが理解をするのには時間がかかった。
(離れる?私とメルヴィルが??)
とてもじゃないがそんなことは受け入れられない。
「メッ·····メルヴィル?お願いよ。そんなこと言わないで??ねぇ!?」
オリビアはメルヴィル縋る。だが、メルヴィルは顔色ひとつ変えることはなくたんたんと喋る。
「ダメだよ。オリビア、私達はきちんと自分たちの犯した過ちを·····罪を償わなくちゃいけないんだから。」
「過ち?何言ってるの??·····やっ、やだ!あなたと離れたくないの!!」
オリビアはメルヴィルの袖を強く掴みながら訴える。
だが、自分の言葉がメルヴィルに届かない。その状況にオリビアは更に涙を流す。
「ごっ、ごめんなさい!メルヴィル。嫌よ、はっ·····離れたくない!」
オリビアはメルヴィルに反省の意を見せるために謝罪の言葉を口にする。だが、それでもメルヴィルは首を縦に振らなかった。
「なんで?謝ったじゃない!メルヴィル??どうして·····許してくれないの?」
「オリビア·····謝る相手は私ではない。」
その言葉にオリビアは首を傾げる。その様子を見てメルヴィルはため息をつく。
「君が·····いや、私達が謝らなくてはいけないのはルーカスや子供達だろ?」
「··········」
その言葉を聞きオリビアはテオドール、エルド、ルーカスを見た。
(この子達に·····謝る?)
メルヴィルの言ってることはあまり理解できなかった。ただ、この子達に謝罪をしなくてはメルヴィルと離れることになることだけは何となく想像できた。
そしてオリビアはある考えが浮かんだ。
「ルっ·····ルーカス?·····ごめんなさい。お母様が悪かったわ。」
突然の謝罪にルーカスは驚く。だが、その謝罪が本心ではないことをルーカスは見抜いていた。
(オリビア様の色··········ダメだ。)
ルーカスは左目で人の色を見ることで、その人がどんな人かを判断出来る。
今のオリビアは全く持って反省している人間の色ではなかった。
「··········」
「ルーカス?ねぇ、許してくれる?」
ここで、許すといえばこの人は喜びまた自分を蔑むだろう。そんなのは絶対に嫌だ。
それに、ここで許せるほど自分が負った傷は浅くない。苦しんでもがきながら今まで生きてきた。
(そんな·····ごめんなさいで許せるわけが無い)
ルーカスはキッとオリビアを睨む。オリビアはそんな態度のルーカスにイラつきを覚える。
だが、ここでいつものように怒鳴れば本当にメルヴィルと離れ離れになってしまう。
そうならないために、オリビアは必死に心を落ち着かせようとした。
だが、そんな努力は一瞬で砕け散った。
「オリビア様·····無理です。·····許すなんて·····」
「なっ!?」
ルーカスのその言葉を聞いた瞬間、オリビアは我慢が出来なくなり声を荒らげた。
「私が·····っ、下に出てやったのになによその態度·····!!」
オリビアが立ち上がりヒールをコツコツと鳴らせながらルーカスに近づいていく。
ルーカスは、急なオリビアの行動に避けなくてはいけないと感じた。だが、恐怖に心が支配され動くことが出来なかった。
オリビアは近づきながら手をあげる。
叩かれるとすぐにルーカスは気づいた。だが逃げることが出来なかった。
ルーカスは来るであろう衝撃に備え目をギュッと閉じた。
そして、次の瞬間だった。
バシッ·····!!
叩かれる音が部屋中に響いた。
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