嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

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「·····落ち着いた?」

「はい·····。」


しばらく泣いていたルーカスはようやく落ち着いた。涙を拭くために目元を擦るとテオドールに止められた。


「目元は擦っちゃだめだよ?」 


テオドールは、近くに置いてあったベルを鳴らす。すると、ドアが開きハンナが入ってきた。


「お呼びでしょうか?」

「ルーカスの目元を冷やしたいんだけど·····」

「承知しました。」


ハンナは、準備がいいのかハンカチをスっと出した。


「ハンナ·····私何も言ってなかったよね?」

「メイドたるもの仕える主の様子はしっかり見ておりますから。」
 

そう言ってハンナはハンカチを両手に乗せる。


「アイル、お願いします。」

「まかされました。」


すると、その声にこたえるようにハンナが持っていたハンカチがいつの間にか水分を含んで濡れていた。

ハンナはそのハンカチをテオドールに差し出し、それを受け取ったテオドールはハンカチをルーカスの目の上に置いた。


「あまり赤くならないといいんだけど·····」

「迷惑かけて·····ごめんなさい。」


ルーカスがそう謝るとテオドールはポンポンとルーカスの頭を撫でる。


「迷惑じゃないよ?兄なんだから。もっと頼っていいんだよ?」

「··········はい。」


微妙な返事をするルーカスにテオドールは困った顔をするが、目を冷やしているルーカスにはその表情は見えなかった。

ルーカスが目を冷やしている時だった。いきなり目の前で声がした。


「あなたがいとしごさまですね?」

「えっ?」


いきなりの事に驚き、ルーカスは目元のタオルを外す。すると目の前に、アクアブルーの瞳と髪色を持ち、短髪で背中から羽を生やした小さな男の子の見た目をした精霊がいた。


「はじめまして。わたくしはアイルともうします。ハンナとけいやくしているみずのせいれいです。」
 
「は·····初めまして。ルーカスです。」


その光景を見ていたハンナは驚いた。
そして、ハンナはルーカスに聞こえないよう小声でテオドールに問いかける。


「テオドール様、ルーカス様はアイルが見えているのでしょうか?」

「·····ルーカスは精霊の愛し子らしい。」

「らしい?·····ですか?」


テオドールはハンナにトゥールから聞いた話をそのまま伝えた。


「前髪で隠されていてわからないだろうが、左目は綺麗な金緑色なんだ。トゥールはそれが愛し子の証拠でもあると言っていた。」


テオドールはアイルと話しているルーカスを見つめる。その視線を追ってハンナもルーカスを見る。


「今更ですが、私が聞いても良い話だったでしょうか?」

「もちろん。ハンナだからこそ聞いて貰ったんだよ。」


ハンナは、テオドールがこの屋敷で信頼をおける使用人の1人である。そして、テオドールはルーカスの専属メイドをハンナにしようと考えている。


「ハンナにはルーカスの専属メイドになってもらうからね。·····弟を守って欲しい。」

「承知しました。この身に変えましてもルーカス様はお守り致します。」


ハンナはテオドールに一礼する。  

ハンナがルーカスの専属メイドになることはまだ本人には話す予定は無い。

今話してもルーカスの負担になるだけである。もう少しルーカスがテオドールやハンナに慣れるまでは話さない。


「うん。··········よろしくね。」


本当は自分自身で守ってあげたい。だが、むやみやたらに動くと色々と母親に勘づかれてしまう。ルーカスを守る体制が整うまではどうにか気づかれないようにしたい。

テオドールが頭の中で色々とプランを考えているとトントンとドアがノックする音が聞こえた。


「はい。」

「テオドール、ワシだ。」


テオドールはハンナにドアを開けるよう頼む。すぐにハンナがドアを開けるとルイスが入ってきた。


「おっ、ルーカスは起きてたか。」

「っ!?」


いきなり声をかけられたルーカスは驚き、身体がビクッとはねた。そして、声をかけられたその瞬間アイルは一瞬で姿を消した。

ルーカスは声がした方向を見るとそこにはルイスがいた。


「なんだ、目が赤いじゃないか!?テオドールにいじめられたか??」

「お爺様·····そんなことするわけないじゃないですか?」


静かだったこの部屋に嵐が舞い込んできた予感がし、テオドールはため息をついた。


「あの·····ルイスお爺様·····」


珍しくルーカスが自分から他人に話しかけにいく。


「おぉ、なんだルーカスよ?」

「く·····」 

「く?」

「くるし····い······です。」


ルイスはルーカスの目元が赤くなっているのを確認するや否や、ルーカスを強く抱きしめていた。


「これは、すまん!」

「いっ、いえ。大丈夫です。」


ルイスはそっとルーカスから手を離すと、ルーカスの頭をよしよしと撫でた。


「ルーカス、ルイスお爺様ではなく、じぃじと呼んでくれ!」

「「「えっ?」」」


唐突なお願いにその部屋にいたルーカス・テオドール・ハンナは同じ反応をした。


「3人揃ってなんだ?」

「いや、お爺様こそどうされたんですか?」

「テオドール、それじゃよ!」

「??」


どうやら、ルイスは孫からお爺様と呼ばれるのが嫌だったらしい。  


「前から思っていたのだ。お前とエルドは昔からお爺様と言う。ワシは孫からじぃじと呼ばれるのが夢だったんだ!」


テオドールは何回目かのため息をつく。
そして、あまりの展開に頭が痛くなる。


「だからって、ルーカスに無理強いしなくてもよくないですか?」

「無理強いはしてないだろ!?お願いだ、お願い!!」


ルイスはそう言うとルーカスに満面の笑みを向ける。
 

「ほら、ルーカス!じぃじだ!じぃじ。」

「えっ·····あっ·····?」


唐突なお願い·····と言うよりルーカスはルイスのテンポについていけない。
だが、こんなにも満面の笑みをうかべている人のお願いを無下にできない。

ルーカスは勇気をだして口を開いた。


「じっ·····じぃじ?」

「~~~っ!!」


ルイスは嬉しそうに再びルーカスを抱きしめた。
あまりの力強さにルーカスが苦しそうにするのを見て、テオドールが止めに入る。

「お爺様!ルーカスが折れてしまいますから!」

「おぉ、これはすまない。」


そう謝るルイスだが、顔は満面の笑みで反省しているようには見えない。

テオドールは、1日に何度ため息をつけばいいんだと思いながら再びため息をつく。


「お爺様、ここにはなんの用でいらっしゃったんですか?」

「そうだった。テオドール、メルヴィルがもう家に着くそうだ。少し3人で話がしたいんだが?」

「··········わかりました。」


ルーカスもその場にいるからか、顔と声色は至って普通だが、一瞬ルイスから怒気を感じた。


「というわけでルーカス、すまんが兄を借りていくぞ?」

「·····わかりました。」

「ルーカスごめんね?ここにいて本棚の本とか見ていてもいいよ?」


そう言って2人は部屋から出ていった。
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