嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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番外編

ルーカスとテオドールとお風呂

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10・11話の間のお話です。











ルーカスはテオドールに連れられ浴室に向かった。

連れてこられた浴室は、2人で入るにはちょうどいい大きさだった。


「じゃあ、お風呂に入ろっか?」


そう言うとテオドールはさっさとルーカスの服を脱がせてしまう。


「じっ、自分で出来ます!」

「いいから。ほら、大人しくしていて?」


そう言われてもルーカスは抵抗する。世話をされ慣れてない事もあるが、身体のあちらこちらに傷跡がある。

その傷跡を見られたくなく抵抗する。だが、子供の力が勝てる訳もなく服はあっという間に脱がされてしまった。

テオドールは、ルーカスの身体を見て思わず息を飲んだ。

ルーカスの身体はあちこちに傷や青あざがあった。


(まだ6歳の身体に·····こんなに·····)
 

あざ以外にもルーカスの細さに驚いた。熱で倒れた時、部屋に連れていくためルーカスを持ち上げた。その時、6歳とは思えないほどの軽さに驚愕した。
 


テオドールはシャワーからお湯を出し温度を確認する。


「ルーカス手を少し出して?」

「·····?」


テオドールにそう言われると、何故手を出さなくてはいけないのかわからなかったが、ルーカスは恐る恐る手を前に出す。

するとゆっくりお湯をかけられる。だが、お湯をかけられた事に驚き、ルーカスは手を引っこめる。


「ごめん!熱かった?」

「いえ·····」


今まで身体は水でタオルを濡らし拭いたりしてきただけなので、温かいお湯をかけられた事に驚いた。

だが、その反応を見てテオドールは熱いお湯をかけてしまったと勘違いしてしまった。


「あったかい·····んですね。」

「お風呂は温かいものだよ?」

「いえ·····記憶がある限り温かいお風呂は初めです。」


ルーカスのその発言を聞き、テオドールはやってしまったと反省した。


「そっか·····。じゃあ、今から温かいお風呂を一緒に楽しもうか?」


テオドールは改めて、ルーカスにお湯の温度を確認し、ルーカスの身体にお湯をかけた。

そして、シャンプーをし始める。

ルーカスはテオドールに大人しく洗われる。洗う強さは丁度よくルーカスは思わず目を細める。

その顔を見て、テオドールは思わず笑みがこぼれる。


「ふふっ、ルーカス気持ちいい??」


ルーカスは何も言わず首を縦に振った。


「じゃあ、流していくね。目に入らないようにつぶっててね?」

「·····はい。」


シャンプーを終えたテオドールはシャワーでシャンプーを流していく。
すると、薄汚れていたルーカスの髪が本来の色に戻っていく。


「ルーカスの髪色はこんなにも綺麗な色をしてたんだね。」

「··········そんな事ないです。」

「髪色だけじゃないよ。ルーカスの左目の色も·····」

「あっ!?」


前を向いて座っていたルーカスが後ろを振り向く。


「ごっ、ごめんなさい。気持ち悪いですよね。ごめんなさい·····」


いつの間にか気が抜けていた事にルーカスは気づく。そして、いつも気味が悪いと言われていた左の瞳の色をテオドールに見せてしまったことを謝った。


「最後まで聞いて?気持ち悪くなんてないよ。とても綺麗な金緑色だね。」

「でも、いつも·····」

「そんな事ない。見ていると安心すると言うか心が落ち着く·····そんな瞳だよ?」


テオドールのその言葉にルーカスは心がギュッとなるのを感じた。
不快感·····ではないが、体験したことの無い感情にルーカスは唇を噛み心を落ち着けようとする。


「ルーカス·····唇噛んだら痛いよ?」

「·····いえ、何故か心がギュッとして·····」


ルーカスのその反応にテオドールは少し笑みを見せる。


(表情に気持ちがあまり出ないからどうしようと思ったけど·····)


ルーカスは怒っていても悲しくてもあまり表情が変わらない。それは、感情を出さない事が上手くこの屋敷で過ごせる為の手段であったからだ。

こんな風に過ごしていたら、普通は心がすり減り無くなっていくものだ。だが、まだ何かに心が揺さぶられるという事はルーカスの心が生きている証拠である。


「なんで心がギュッてなるか·····その気持ちをどうすればいいのか·····これからきちんと学んでいこう?」

「えっ·····」

「色んなものを見て色んなものを感じて過ごそう?」


そうテオドールは言うが、ルーカスはこの屋敷に居場所がないと感じている。
居場所がないのに誰がそんなことを教えてくれるのか·····。


「そんなに俯かないで?大丈夫だから。」

「·····」


他人から言われる大丈夫も自分が思う大丈夫も信じれたことは無かった。


(·····でもなんだろう。この人の大丈夫は·····)
 

ルーカスが口を開いた瞬間、言葉ではなくクシュンと可愛いくしゃみが出た。


「ふふっ、身体も洗い終わったしお風呂につかろうか?」

「·····はい。」


恥ずかしい·····。ルーカスはいまいちこの兄の前では自分をコントロール出来ない気がしていた。

テオドールはルーカスを浴槽に入れ自身もルーカスと向き合うようにお湯につかった。


「湯加減は熱くない?どう?」

「·····大丈夫です。」


あまりお湯につかったことがないルーカスは感動する。


(あったかいや·····いつもと全然違う。)


それから2人はというより、テオドールがルーカスに精霊のことや魔法など色々な話を聞かせた。


「トゥールとはね·····っと、もう上がろっか?」 

「·····」


もう少しお風呂につかっていたかったが何だか頭が少しふわふわしている。


「ルーカス、顔が真っ赤だね·····長湯しすぎたかな?·····大丈夫かな?」

「·····」


テオドールはブツブツ呟きながらルーカスを浴槽から出す。
お風呂から出るとクラっとめまいがする。テオドールはそんなルーカスに気づきサッと支える。


「もう少し気をつければ良かったね。ごめん。」

「だい、じょうぶ·····です。」


テオドールはバスタオルでルーカスを包み抱き上げる。そして、浴室から出て小さなソファーにルーカスを横にする。

そして、素早くタオルで自分を拭き服を着る。
自分の用意が終わると、ルーカスの事も素早く拭く。 


「あの、大丈夫です。自分でやれますから!」

「のぼせてたでしょ?私に任せて?」

「あの、じゃあ、服は自分で着ます!」


テオドールはそれも自分がやると言ったがそこは譲らなかった。
テオドールは用意されていた服を着る。だが、サイズが大きくダボッとしていた。


「·····ハンナに服を探してもらおうか。」

「··········」


少々悔しさを感じるがルーカスは素直に頷いた。
テオドールがハンナにルーカスの服を頼む。


「さて、ハンナが服を探しに行ってくれたけど·····ルーカス、まだクラクラする?」

「そこまでは·····」
  
「まだ、少し顔赤いけど·····」


テオドールは部屋にある水差しからコップに水を注ぎルーカスに差し出す。

  
「ほら、これ飲んで?」

「ありがとうございます。」


ルーカスは水を受け取りそれを飲む。火照ったからだに水が染み渡る。


「あっ、そうだ。トゥールお願い。」

「はーい!まかされた!」


テオドールがトゥールを呼ぶとパッとルーカスの目の前にトゥールが現れる 。いきなり現れたトゥールに驚き思わずじっと見てしまった。

ルーカスがトゥールを見つめていると、トゥールから緑色の光が溢れだす。するとルーカスに向かってふわっと風が吹き出す。


「涼しい?」

「はい·····ありがとうございます。」

「ううん。私がもう少ししっかりしてれば良かった話だからね。」


テオドールがそう言うとトゥールがルーカスの周りを飛びながら、テオはだめだめだね~と言う。


「トゥール·····」


トゥールはどうも陽気な精霊らしい。楽しいことがあるとこうやってくるくると回りながら飛んでいる。


そんなトゥールを眺めているとコンコンと部屋をノックする音がした。テオドールが入室を許可するとハンナが何着か服を抱えてやってきた。


「よく見つけてきたね。サイズが合うのがあればいいんだけどね·····」

「テオドール様、一言余計かと·····あと、テオドール様も準備を始めた方が良いかと。」

「そうだね。じゃあ、ハンナあとはよろしくね?」


テオドールはルーカスの頭をポンポンと撫で、後で迎えに来るねといい部屋を出ていった。

 


(色々とあったけど·····また一緒に入れたら··········なんて、無理かな?)


部屋を出ていくテオドールを見ながらルーカスはいつかまた一緒にお風呂に入れることを願った。









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