嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

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馬車がルーカス達の前に止まり、2人が降りてくる。


「お爺様、お祖母様長旅お疲れ様です。ようこそいらっしゃいました。」


テオドールはそう言うと礼をとる。すると、それに合わせてエルドやオリビアも礼をとる。

ルーカスはその様子を見て慌てて頭を下げる。


「そんなのはいい。久々に会ったのだ。堅苦しいのは無しだ!」

「そうよ。ほら、顔を見たいから顔を上げて?」


その言葉を聞き皆顔を上げる。
ルーカスは顔を上げ目の前にいる祖父母の顔を見る。祖父は目元がオリビアと似ており、祖母は顔つきや雰囲気がオリビアとよく似ていた。

特に祖母とオリビアは似ており、その外見に少し怯えてしまう。


「テオドールもエルドも大きくなったな。屋敷の外で見れば気がつかなさそうだ。」

「久々にお会いしましたから。」


テオドールと祖父であるルイスはそう言って笑う。一方でエルドはつまらなさそうに立っている。


「なんだエルド、久々に会ったのに嬉しくないのか?」

「いえ·····別に·····」

「じゃあ、なんだ?」


エルドはいつも朝のこの時間に剣の練習を行っている。剣が好きなエルドは騎士団への入団を希望しており、そのために練習を毎日欠かさずやっている。


「ただ、剣の練習が出来なくて残念だなって思っただけです。」

「そう言えば、エルドは騎士団への入団を希望してたな。どれ、一つ稽古をつけてやろうか?」

「お爺様が?」


ルイスは若い頃は、剣術でも勉学でも優秀であった。剣術は、今でもそれなりの腕前である。
そのルイスに稽古をつけて貰えると聞けばエルドはパァっと顔を輝かせた。


「あぁ。午後にでも稽古をしてやろう。」

「ぜひ!」


ルイスはよしよしとエルドの頭を撫でる。
その様子をルーカスが見つめていると、祖母であるソフィアに声をかけられた。


「あら、もしかしてルーカス?あなたも随分大きくなったわね?」

「えっ·····あっ·····」


急なことにルーカスは慌ててしまい周りをキョロキョロと見てしまう。そんな様子のルーカスを見てソフィアは、ルーカスが恥ずかしがっていると思い、目を合わせるようにしゃがんだ。

目の前にいるソフィアはオリビアと似ており、オリビアから叩かれたり暴言を投げかけられる事をどうしても思い出してしまう。
ルーカスはソフィアから距離をとるように1歩後ろに下がってしまった。


「お母様、ドレスが汚れてしまうからお立ちになって?」

「いえ、大丈夫よ。ルーカスほらおいで?」


そう言ってソフィアは腕を広げるが、ルーカスの足はどうしても動かない。


「ルーカスは人見知りがすごいの。だから、慣れるまで待ってあげて?」

「あら、そうなの?それは仕方ないわね。」

「ルーカス、お母様は怖くないわよ?」


そう言ってオリビアはルーカスに笑いかけるが、ルーカスを見る目からは感情を感じとる事が出来ない。

どうしていいか分からないこの状況にルーカスは立ち尽くし黙って見ているしかなかった。


「おぉ、ルーカスか。6歳と聞いたが随分小さいな?」


その状況を打ち破るように、ルイスがルーカスに声をかける。
そして、ルーカスの脇の下に手を入れそのまま抱き上げた。


「うわっ!?」

「これは軽すぎないか?ご飯は食べてるのか?」

「はっ·····い。」


ルーカスはルイスの行動についていけなく、ただ落とされないようルイスのことを掴んだ。


「こら、あなた。ルーカスは人見知りなのよ?そんな事したら怖がらせてしまうでしょ?」

「そうなのか?それじゃあ、しばらくこうしてわしに慣れるといい。」


そう言ってルイスはルーカスにニコッと笑う。
その様子を見ていたテオドールが口を開く。


「·····そろそろ移動しましょうか?」

「そうだな。セバス、人数分のお茶を用意してくれ。」

「ルイス様、お休みにならなくてもよろしいのでしょうか?」

「あぁ、大丈夫だ。」


相変わらず変わらないルイスに対し、セバスは小さく笑う。


「貴方様はよろしくてもソフィア様はお疲れになっておられるはずです。」

「セバス、私も大丈夫よ。」


その言葉を聞いたセバスは、ソフィアも相変わらず変わりがないことを感じ再び笑みを浮かべる。


「承知しました。では、どちらへお持ちしましょうか?」

「それじゃあ、温室までお願いしてもいいかしら?」


ソフィアがそう言うとセバスは一礼し、控えていたメイドに指示を出す。
指示を受けたメイドは足早に去っていった。








「ルーカス、私の横においで?」


温室に着き、ルイスの腕からルーカスが降ろされた瞬間テオドールは手招きした。
どこに座ればいいかわからなかったルーカスは呼ばれるがままにテオドールの元へ向かった。


「あら、ルーカスはお兄ちゃん子なのかしら?」


2人の様子を見ていたソフィアが微笑む。


「確かに、テオドールに1番懐いてますわ。」

「オリビア、仲のいい兄弟で良かったじゃないの。」

「そうですね。お母様」


そう言って微笑むオリビアは、まさに子供を思う優しい母親だった。


ルーカスはテオドールとソフィアに挟まれる形でテーブルについた。


「さぁ、みんなでお茶にしましょう?」


オリビアのその声で、小さなお茶会はスタートした。


ルーカスは、準備されたケーキやクッキーたちを見て困惑した。


(俺が、こんなに高そうなお菓子を食べていいの?)


前に置かれたイチゴのタルトをルーカスはじっと見つめる。するとその様子を見ていたテオドールがルーカスに身体をよせ声をかける。


「ルーカスはイチゴが嫌い?」

「いや····」


ルーカスの返答を聞いて、テオドールは自身のフォークでタルトを1口切り取りルーカスの口元へ運ぶ。


「ほら、口開けて?」

「っ!?」


テオドールのその行動にルーカスは驚き、タルトとテオドールを何度も見る。
その様子を見てテオドールはクスッと笑う。


「ほら、食べていいんだよ?」


ルーカスは恐る恐るタルトを頬張る。

すると口中にイチゴの甘酸っぱさとカスタードの程よい甘さが広がる。その美味しさにルーカスの目がパッと輝く。


(なにこれ·····ケーキってこんなに美味しいの?)


今までの生活では、甘味類などはあまり食べたことがない。ほぼ初めてと言ってもいいケーキはルーカスに大きな衝撃を与えた。


「ルーカス·····どうしたの?」

「えっ?」


テオドールが小さく呟いた言葉にルーカスは首をかしげる。すると、テオドールはルーカスの目元をすっと指で拭う。

ルーカスの目からいつの間にか涙が溢れ出していた。

ルーカス自身は涙を流した理由には気づいてない。

だが、涙の理由は美味しいものを食べたこともあるが、誰かと何かを食べ美味しさを共有出来ることだろう。


「あらあら、ルーカスどうしたの?」


ソフィアが慌ててルーカスの涙をハンカチで拭く。


「あっ、えーと、欠伸したら涙が·····」

「もしかして、今日は早起きしたのかしら?」 

「そうよ、お母様。ルーカスったら昨日から2人が来るのが楽しみだってソワソワしてたんだから」

「本当なのオリビア?」

「えぇ。」


オリビアの言葉を聞いてルーカスは必死に涙を抑え込む。


(そんな事言っていない·····でも、頷かなきゃ·····)

ルーカスもオリビアの言葉を肯定するかのように頷いた。

その様子を見ていたルイスが口を開く。


「テオドール、ルーカスをベッドルームに連れていったらどうだ?」

「お爺様·····わかりました。お言葉に甘えてそうさせて貰いますね。」

「それじゃあ、わしはエルドに剣の稽古をつけるか。」

「お願いします!お爺様。」

「ソフィアはオリビアと茶でもしておったらどうだ?」

「そうね。久々に母娘でお茶をしましょう?」

「それではお母様、ぜひ旅先のお話などを聞かせてください。」


こうして各々で行動することになった。



テオドールは椅子に座り下を向いているルーカスを抱き上げる。
いきなりのことにルーカスは驚いて体制を崩したがテオドールの服をつかみ何とか耐えた。


「ルーカス、行こっか。それでは、失礼します。」

「しっ·····失礼します。」


こうして2人は温室を後にした。 

温室が遠ざかって行くごとにルーカスの目から涙が溢れてくる。


「ルーカス·····怖かった?」


その言葉にルーカスは首を横に振る。


「それじゃあ、ケーキが美味しくなかった?」


再びルーカスは首を横に振る。

 
「どうして泣いてるか自分でもわからない?」


「っ·····!」


この言葉にルーカスは首を縦に振った。

確かに少し怖さはあった。だがいつもの事を考えれば気にするほどのことでもなかった。それにケーキは不味くなく、むしろとても美味しかった。

だからこそ余計に自分が何故泣いているのかわからなかった。

ただただ、胸の中がごちゃごちゃになり気づいたら涙が出ていた。

抑えようとするほど更に溢れてくる。

すると、テオドールの抱き上げる腕の力が少し強くなり、抱いていない方の手で背中を撫でてくれた。

その手のあたたかさに更に涙が溢れる。

テオドールの部屋へ到着するまでの間や到着した後もルーカスの涙がおさまるまでテオドールはルーカスを抱きしめ背中を撫でていた。
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