嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

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お風呂に入れられた後、1度テオドールと別れルーカスはハンナと服をみていた。


「ルーカス様、こちらはどうでしょうか?」


そう言ってハンナは持っている服をルーカスに合わせる。だが、合わせた服はどれもルーカスには少し大きかった。

何故このような事態になっているかというと、ルーカスがテオドールと風呂に入っている間にハンナはルーカスの部屋に行き、今日着れる服を探していた。

だが、服はあれどそれは貴族である人の前に着ていけるような綺麗な服ではなかった。

ハンナはルーカスの持っている服から選ぶのを諦め、テオドールやエルドの昔着ていた服を探し集めた。

そして、現在ルーカスに合うサイズの服を探している。


「どれも、少し大きいようですね·····。」

「·····」


ハンナは表情を変えずだが、楽しそうに選んでいる。何故顔に出てないのにわかるかって言うと、ハンナの周りを1人の妖精が楽しそうに飛び回っ待ていた。


(精霊って契約者の気持ちがわかるのかな?)


ルーカスは、精霊とハンナの様子を観察していた。人と話すのが苦手なルーカスは、時折ハンナに話しかけられるが、うんと頷くだけで特に喋ることは無かった。


「ルーカス様、1番好きなものはどれでしょうか?」

「えっ·····?」


唐突に振られた話題ルーカスは戸惑う。今まで、服装は気にしたことは無い。それに、好きな物と言われても自分が好きな物がなにかわからない。
 

「ごめんなさい·····わかんないです。」

「謝らないでください。それでは、私が決めてもよろしいでしょうか?」


ハンナの言葉にルーカスはまた頷く。
ルーカスが頷いたのを見てハンナは一着の服をルーカスに差し出す。


「こちらがよろしいかと。お召かえのお手伝いも致しましょうか?」

「っ!大丈夫です。自分でできます。」


ルーカスは首をブンブンと横に振りハンナの手伝いを拒む。


「わかりました。それではなにかお困りになりましたらベルを1度、着替えが終わりましたらベルを2度鳴らしてください。私は外で控えておりますので。」


ハンナは一礼をして部屋から出ていった。

ハンナが部屋から出ていったのを確認してルーカスは着替え始める。
着ていたシャツを脱ぎ自分の身体を見る。


(傷跡·····ハンナさんに見られなくてよかった。)


鏡に映る自分の身体にはあちこちに傷跡があった。ハンナには申し訳ないがこの傷跡は見せたくない。見せたらきっと気分が悪くなるだろう。

着替え終わったルーカスは鏡を見る。
服装は至ってシンプルだ。少し大きいが白のシャツにサスペンダー付きの黒色のハープパンツ、黒のハイソックスそして黒色の靴。

ジャケットなどもあったが、サイズが大きく不格好になってしまうためハンナは、サイズが少し大きくても着れる服を選んだ。

鏡の中の自分を覗くと、いつもより輝いて見えた。前髪は長く左目を隠したままだが、いつもくすんでいたプラチナブロンドの髪は手入れをされたことにより美しく輝き、入浴したことで肌も綺麗になっていた。


「··········自分じゃないみたい。」


本当の自分はこんなに輝いていない。鏡に映っているのは仮初の姿であり、これも明日になればいつもの自分になるとルーカスは思った。


準備が終わり、ベルをチリンチリンと鳴らすとハンナが部屋に入ってきた。


「ルーカス様、とてもお似合いです。」

「·····ありがとうございます。」

「ルーカス様、私は使用人です。敬語は使わないでください。」

「えっ、でも·····」


ハンナは歳上であり自分なんかと違う人間である。そんな、ハンナに敬語はを外すことは出来ないと思い返事に困っていると、トントンとドアを叩く音がした後、テオドールが部屋に入ってきた。


「テオドール様、返事もなしに入るのはどうかと·····」

「まぁまぁ。気にしないで?」


ハンナがじとっとテオドールを睨む。そして、はぁーとため息をつき1歩後ろに下がる。


「ルーカス様のご支度は終わりました。」

「ありがとう。うん。思ってた通りルーカスはかわいいね?」


テオドールがルーカスの頭をポンポンと撫でようとしたが、やはりルーカスは少し身構えて仕舞う。テオドールはその様子を見て優しく撫でる。


「お爺様とお祖母様がもう来るから行こうか?」

「どこへ·····ですか?」

「屋敷の入口のところだよ。」

「2人だけですか?」


ルーカスのその言葉にテオドールは一瞬固まる。出迎えには、オリビアやエルドも来る。
案の定、オリビアはルーカスを呼んでこいと朝から言っており、テオドールがルーカスの準備を進めていた。


「ごめんね。お母様とエルドもいるよ。」


その言葉を聞きルーカスは下を向く。エルドは自分に無関心だからいいが、母親はそうじゃない。こんなに優しくしてくれる兄の前で罵られるのはさすがにこたえる。

その様子を見ていたテオドールは、ルーカスの視線に合うようにしゃがむ。


「怖いよね。行きたくない?」

「··········」


行きたくないと言ったところでそれが通るわけが無い。むしろ行かなかった方が後々酷い目に合うのはわかりきっている。


「大丈夫です。行きます。」


そう言い顔を上げたルーカスの瞳は、蜂蜜色の明るい色をしているはずなのにどこかで憂いを帯びていた。








準備が終わり、部屋を出てテオドールの後をついて歩いていく。

2人が玄関に着くとそばにいた使用人が玄関のドアを開ける。
外からさす光の眩しさに、ルーカスは目を細める。


「ふーん、上手く着飾ったものね。」


眩しさに目を細めてる中、不意にそう声をかけられる。目を開けなくてもルーカスにはその声の正体がわかった。

目を開け、声のした方向を見るとオリビアとエルドがいた。


「あまり余計なことはしないでね?」


オリビアがそう言い扇で自分の口元を隠しクスッと笑う。ルーカスはコクっと1度頷くとそのまま下を見つめた。


(··········余計なことなんてするわけが無い)


顔を上げられないままでいると、視界に誰かの足元が入ってきた。
ふと顔を上げると、テオドールがオリビアとルーカスの間に割って入ってきた。


「もうそろそろお爺様とお祖母様が到着しますよ。」

「そうね·····。」


オリビアはテオドールをじっと見つめ見つめるのかは何となく予想がついた。


(私とルーカスの観察·····か。)


テオドールは見つめてくるオリビアに1つ笑みを送ると、パンっと手を鳴らした。


「セバス、準備を。」


その声にこたえるようにセバスが一礼すると、玄関にいた使用人達は道を作るように両脇に一列に並び姿勢を正す。


「お爺様とお祖母様のお出ましだよ?」


テオドールがルーカスに向ってそう言うと、門の方から馬車がやってきた。


(一体どんな人なんだろう·····)


ルーカスは近づいてくる馬車を恐怖と少しの期待が混ざった目で見続けた。
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