嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

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テオドールが食堂の前に着くと、控えていたメイドがドアを開けた。

食堂に足を踏み入れると、オリビアとエルドが席に着いているのが見えた。

テオドールは、いつも座っていた席に座る。


「あら、テオドール帰ってきてたのね。」

「はい。本日、戻ってきました。」

「挨拶に来てくれても良かったんじゃない?」

「少々、用事がありまして。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。」


自分の心の中がバレないように笑顔を見せながらテオドールは返事をする。
その様子を見ていたエルドが口を開く。


「兄さん、俺にだって声かけなかったよね?」

「お前とは学園であってるだろ?改まってしなくても·····」

「まぁ、いいや。」


そんな話をしているうちにメルヴィルも食堂にやって来て食事が始まった。

特に何事もなく食事は進み食後のお茶を飲んでいる時メルヴィルが口を開いた。

 
「オリビア、エルド、明日の出迎えはテオドールに任せているから」

「あら?あなた明日も仕事?」

「午前だけだ。」

「そうなのね。じゃあ、明日の午後お父様とお母様を交えてみんなでお茶をしましょう!」

「えぇ、俺はやだよ。」


エルドはめんどくさいと言いお茶を飲んだ。
その様子をみてメルヴィルはため息をついた。


「エルド·····お前はもう社交デビューしてるんだ。もう少し、色々と茶積極的になれ。」

「えー、別に積極的にならなくても·····」

「エルド」


メルヴィルが低い声で名前を呼ぶと、エルドは怒らせてはまずいと思ったのか、わかりましたとだけ言い残し食堂から出ていった。


「もう少しテオドールを見習って欲しいものだ·····」

「自由にさせてあげればいいのではなくて?」

「オリビア·····」

「いつかは自分に返ってくる。それだけよ?」

「はぁー·····」


メルヴィルの何度目かのため息を聞き、オリビアは疲れているのだろうと感じ取った。


「あなた、もう休んだら?」

「·····あぁ。」

「私ももう部屋に戻るわ。」


オリビアが食堂を出ていき、テオドールとメルヴィルだけが残った。


「お母様は相変わらずですね。」

「そうだな·····」


テオドールは、母親の関心の無さに呆れ返っていた。


(いつかは自分に返ってくる·····ねぇ。)


その言葉をそっくりそのまま返したいとテオドールは思った。


「お父様、執務室でしていた話の続きですが·····」

「あぁ。ここではなく執務室に戻ろう。」


2人は食堂を後にし執務室へ向かった。








 執務室へ戻ってきた2人は先程と同じ位置に座った。しかし、2人は座っても直ぐに話し始めなかった。
どこか気まずい空気が流れるが、お互いに口を開かないままで時間だけが経っていく。


その沈黙を先に破ったのはテオドールだった。


「お父様は·····ルーカスが嫌いですか?」

「そんなわけないだろう!?」

「·····そうですね。」


また沈黙が流れた。これから話すことは小さな子供の将来の事だ。今までお互いに見て見ぬふりをしてきた分お互いに言い出しづらいのである。


「私は、長い間あの子に手を伸ばさなかった。今更手を伸ばしても遅い。」

「それは·····私も同じですよ。」


母親に会いたくないという理由だけでこの家に寄り付かず幼い弟を見捨てた。
ルーカスから見れば、テオドールはオリビアから嫌われてないだろう。叩かれることも無く罵られることも無い。


(本当に今更すぎる·····)


久しく会った弟は、人に触られるのも近づかれるのも怖がっていた。身体も6歳にしてはとても小さく、抱きしめた時には少し力を入れれば折れてしまうとも感じた。


「今更でも、この状況は変えなくてはいけません。」

「あぁ·····」


メルヴィルは息子のテオドールからここまで言われても心のどこかに迷いがあった。

ルーカスを助けたいのであればオリビアに罰を与えなくてはいけない。だが、この状況を作り出してしまった要因には自分にもあり、オリビアだけが罰を受けるのは違うと思っていた。

どちらも捨てたくないがためにどちらにも目を向けずに生きてきた。それが例え愛する人と自分の子供でも·····。

しかし、メルヴィルは2人のためと言うが、それは自分が現実から逃げるための言い訳だった。

そう自分に言い聞かせ正当化してきた。


(誰か、私も一緒に罰してくれる人がいれば·····)


他力本願かもしれない。だが、身内に非常になりきれないメルヴィルは、そう願うしか無かった。


「お父様は何故、仕事が出来るくせにそれ以外は何故ダメなんでしょうね。」

「はぁ·····それが父親への態度か?·····と言いたいが本当にそうだな。」


二人は顔を合わせてフッと笑う。


「お父様、私はこれからルーカスを守るためなら何でもします。」

「何でも?」

「はい。何でもです。」

「実の息子にここまで言わせるなんてな·····私は本当にダメな父親だ。」


メルヴィルは、いつの間にか置かれていたティーカップに手を伸ばし紅茶を飲む。


「ルーカスが幸せになれるよう私も出来ることをしよう。」

「決断が遅いですよ。お父様。」
 
「だが、あの子が幸せになれる道が整ったら私は自分の罪を償いたい。」

「罪はお父様だけが背負わないでください。私も·····一緒に。」


罪への償いを誰が決めるか·····それはまだわからないが、ルーカスが幸せになれるよう2人は決意を改めた。

そして、夜遅くまで2人はこれからの事を話した。
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