嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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番外編

フィルとの出会い

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フィルと初めて会ったのは半年ほど前だった。

ルーカスは、動物が好きでよくジェナー公爵家の敷地内にある馬小屋などを良く訪れていた。

使用人達は、ルーカスが来ても特に反応は示さず自身の仕事を淡々とこなしていた。 
だが、その反応の方がルーカスにとってはとても都合が良かった。


ルーカスは馬小屋に近づくと入口からそっと中を覗く。


(··········あの人は·····いない?)


いつもジョンという馬の世話をする中年の男がいる。その男がいるといつも声をかけられる。

話しかけられない方が都合の良いルーカスにとっては、ジョンはすこし苦手な存在だった。

ジョンがいないことを確認したルーカスはそーっと馬小屋の中に入る。

すると、ルーカスが入ってきたことに気づいたのか馬たちは一斉にルーカスを見る。
すると、馬たちはヒンッと嘶き尻尾を振った。

ルーカスは昔から動物達に好かれる体質であった。動物達は人間をよく観察しており、自分を傷つける人間なのかそうでは無いのか区別をつけている。

だからこそ、ルーカスは自分を傷つける存在ではないと動物達は知っておりルーカスによく懐いている。

また、ルーカスも動物達は自分を傷つけないと知っているからこそ、動物達と触れ合う時間を好んでいる。


「ちょっと、テディー髪を噛むな!」


馬を撫でていたら違う馬がルーカスの髪を噛じり出した。それは、自分もかまって欲しいというテディーからの合図だった。


「わかった!わかったから!」


テディーにくわえられた髪の毛をササッと拭き、ルーカスはテディーを撫で始めた。
すると、今度はさっきまでルーカスに撫でられてた馬がルーカスの髪を噛じり始めた。


「お前はさっき撫でただろ?」


ルーカスが、馬を行ったり来たりして撫でていると後ろからハハッと笑い声がした。

その声にルーカスはビクッと反応し後ろを見る。
そこには馬の世話係のジョンがいた。


 「ルーカス坊ちゃまは相変わらずモテますね。」

「··········」


本当はジョンが帰ってくる前に馬小屋を離れるつもりだった。

だが、馬に夢中になっておりジョンに見られていることにすら気がつかなかった。


「戻る·········」


ルーカスがそう言って馬小屋から出ようとすると、ジョンの後ろに黒鹿毛の子馬がいた。


 (ちいさい·····)


今まで大きな馬しか見たことないルーカスはその小さな存在に見惚れた。

すると、またフッと笑う声がした。


「いやぁ、坊ちゃまわかりやすいですね」


ジョンの言っている意味がわからずルーカスはムッとむくれる。


「こいつ触ってみますか?」


ジョンはルーカスにそう言うが、ルーカスは首を横に振り馬小屋から出ようとしジョンと子馬の横を通り過ぎた。

だが、子馬の横を通り過ぎようとした瞬間、子馬がルーカスの服をグイッと引っ張りルーカスは尻もちをついた。


「こら!何やってるんだ!?坊ちゃま大丈夫ですか?」


ジョンは慌ててルーカスを起き上がらせようとしたが、ルーカスは大丈夫といって立ち上がり服についた土を払った。

そしてルーカスは、目の前にいる子馬を見つめる。そして、何故このような場所に子馬だけいるのだろう?と疑問に思った。


「この子の·····親は?」

「公爵家の乗馬用の馬としてこいつだけ買ってこられたんです。」


その話を聞き、ルーカスは親近感がわいた。


「そうか·····お前も·····1人なのか。」

 
そう言ってルーカスが子馬を撫でると、子馬は嬉しそうに嘶き尻尾を振った。


「やっぱり、どんな動物でもルーカス坊ちゃまなら簡単に懐きますね。」


そう言って、ジョンはまた笑う。懐いてくれているかはわからないが、ルーカスにとって心を許せるのは動物だけである。 

だから、ルーカスは動物を傷つけないように接しているだけなのだ。

子馬が嬉しそうにしているのを見たルーカスは、母親に離されて悲しんでいる様子があまり無いと感じ取り安心した。


(また·····この子を見に来たいな·····)


ルーカスは、またジョンがいない時にでもここに来ようと思った。
そして、あまり長居しても良くないと思い馬小屋から出ようとした時だった。


「ルーカス坊ちゃま!」


ジョンに呼び止められ、ルーカスは後ろを振り返る。


「こいつまだ名前がないんです。」

「·····?」


それがどうしたんだと思いルーカスは首を傾げる。


「だから、名前をこいつに付けてやってください。」


その言葉にドキッと胸がなった。


「な·····まえ?」

「そうです。かっこいい名前でお願いしますね?」

「それは·····俺がつけていいの?」

「そうですよ。むしろ、坊ちゃまにお願いしたいんです。」


ルーカスは少し名前を考えてみるがいまいち思いつかない。


「すぐじゃなくていいですよ。でも、なるべく早く決めてやらないとこいつの呼ぶ名前がなくて困っちゃいますからね?」

「·····わかった」


ルーカスはそう言って頷くと馬小屋から出ていった。







その日の夜、ルーカスは部屋にある自分の数少ない本を読んでいた。


「名前·····か·····」


なかなかいいものが思いつかず、本の中にヒントがあるのでは?と思い本を読んでいた。
 
パラパラとページをめくりながら、子馬がどのように育って欲しいかを考えた。


(俺みたいにならないで欲しい·····光が差すところで、沢山駆け回って、ご飯を食べて、仲間がいて·····幸せに暮らして欲しい)

そう考えているとふと1つ名前の案が浮かんだ。


「うん。·····あの子にはきっとこれがいい」


ルーカスは、パタンと本を閉じ机に戻しベッドに潜った。


(明日、伝えに行こう)


子馬に名前を教えたらどんな反応をするかを想像しながらルーカスは夢路をたどった。

すると、その日は珍しくぐっすり眠れた。









陽が登り、ルーカスはまた馬小屋を訪れていた。

外からそっと中を覗く、中に入はジョンがおらず馬しかいなかった。
中をキョロキョロと覗くと、昨日の子馬を見つけルーカスは子馬の元に行く。


「おはよう。今日はねお前にプレゼントを持ってきたんだよ?」


そう子馬に話しかけると、子馬は昨日と同じく嬉しそに嘶き尻尾を振った。


「お前の名前は·····フィル。フィルだよ?」
  

そう言うと、フィルはわかったとでもいうかのようにヒヒーンと嘶いた。
その姿をみて、ルーカスは嬉しくなった。


「フィルですか·····いい名前ですね。」


不意に後ろから声が聞こえ、ルーカスは後ろを振り向いた。
すると、そこにはジョンがいつの間にか立ってた。


「この子はフィル。·····でいい?」

「なんで、そんなに自信なさそうにするんですか?」 

「いや·····」  

「こいつ·····いや、フィルはすごく喜んでますよ。」
 

そう言って、ジョンはフィルを撫でる。


「いい名前を貰えてよかったな?フィル!」


ジョンの声に返事をするようにフィルが嘶く。その光景を見て、ルーカスは自分の胸の中にポカポカとしたものが広がっていくのが感じた。


「名前は付けた·····帰る」


ルーカスは、ジョンの横を通り馬小屋から出ようとすると、ジョンがルーカスを止めた。


「フィルに餌やりませんか?」

「えっ?」
 
「坊ちゃまは名付け親ですよ?子供の世話をして当然でしょ?」

「はぁ?·····いや」


それは、馬の世話係であるジョンの仕事だと言おうと思ったがいつの間にかジョンは、フィル用の餌が入ったバケヅルーカスに渡した。

それを受け取ったルーカスは、はぁーとため息をついた。


(受け取ったものはしょうがない。·····あげてみるか)


そう思い、フィルの前にバケツをそっと置くとフィルはもぐもぐと餌を食べ始めた。


「·····美味しいか?」


そう問いかけるとブルルルっと返事が返ってきた。
その声を聞きルーカスはフッと微笑んだ。そして、立ち上がり馬小屋から出ようとする。

だが、いきなり立ち止まった。


「坊ちゃま?」

「明日·····」

「明日?」

「明日からフィルの餌やりは俺がやる!」


そういうなり、ルーカスは走って馬小屋を立ち去ってしまった。

ルーカスの姿が見えなくなると、馬小屋にジョンの笑い声が響き渡った。


「はははっ、わかりました。準備して待ってますね。」


こうして、フィルの餌やりをするためにルーカスが馬小屋を毎日訪れるようになった。







 



ルーカスがフィルと名付けた理由は

光が差すところで、幸せに満ち溢れるように生きて欲しいという思いからフィルになりました。
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