上 下
13 / 64
本編

8

しおりを挟む


「テオドール様よろしいでしょうか?」


ルーカスを寝かせ部屋を出たあと、テオドールはセバスに声をかけられた。


「あぁ、セバスか。何か用?」

「メルヴィル様がお帰りになられました。執務室に来るように仰せつかりました。」

「わかった。今から向かう」


テオドールは、行き先をメルヴィルの執務室に変え歩き出した。





トントンとドアをノックする。


「お父様、テオドールです。」

「入れ」


テオドールはドアを開け執務室に入る。そして、ソファーに座れと言われたのでメルヴィルの正面に腰を掛けた。


「久しいな。」

「そうですね。数ヶ月ぶりでしょうか?」

「はぁ·····、もう少し家に帰って来る気はないのか?」

「色々と忙しいもので。」


相変わらず変わらないなとメルヴィルはため息をつきながら、メイドに出されたお茶を飲む。


「それで、お父様の用事とはなんでしょうか?」 

「あぁ。明日、オリビアの両親が来るのは知っているだろ?私は午前中どうしても王城に行かなくては行けなくなった。」

「お父様の代わりに出迎えをしろ·····と?」

「そうだ。」


テオドールは、心の中で舌打ちをした。メルヴィルが居たとしてもテオドールは出迎えをしなくてはいけない。

何が嫌かと言うと、メルヴィルがいないとテオドールが筆頭に祖父母の話し相手にならなくてはいけない。


(お爺様とお祖母様か·····)


オリビアの両親だからオリビアみたいに冷たい態度をとる··········と思うかもしれないだろう。
 




逆なのである。真逆なのだ。

孫·····いや、子供が好きなのだ。そしてうざいほど絡んでくる。
本当にオリビアの両親なのか?と思うくらいだ。

だが、ここ何年かはフォーサイスを離れ色々な所を旅しているらしい。

なので、ルーカスはあまり会ったことはない。会った事があるのは片手で数えれるくらいだろう。それに最後に会ったのは何年も前なのでルーカスは覚えていない。

両親が来る時だけはオリビアは猫をかぶる。普段の態度とは逆に良い母親であろうとする。
そのせいで、オリビアの両親はオリビアはルーカスを大切にしていると思っている。



「·····分かりました。」

「すまない。助かる」


テオドールは、ふとルーカスの扱いについて疑問に思った。

きっとオリビアはまた良い母親を演じるだろう。そうであるなら、明日の出迎えにルーカスを呼びつけるはずである。

だが、ルーカスの頬には痣がある。きっと久々に会う祖父母はその痣に疑問を持ち、もし怪我を負わされたと知れば怒り狂うだろう。

ルーカスには可哀想だが、それを利用すればルーカスを助ける事が出来るかもしれない。


「お父様、質問してもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「ルーカスはどうしますか?」


テオドールのその一言にメルヴィルは固まった。きっと、テオドールからルーカスについての話は来るだろうと予想はしていた。

だが、いざその話になると何時になく緊張をする。


「そ·····う、だな。」

「その前に、お父様はルーカスと話してますか?会っていますか?」

「っ·····!」


テオドールが言おうとしていることはわかっている。メルヴィル自身だって、いつかは解決しなくてはいけない問題だと気づいている。

だが、ルーカスを救おうとすればオリビアを傷つける事になる。しかし、この状態を続けてもルーカスが傷ついていくばかりである。


「お父様が2人とも傷つけたくないのは知っています。ですが、今の状態をずっと見続けて何も思わないのですか!?」

「それは·····わかっている。このままではいけない事ぐらい。」

「だったら·····「ねぇ?」·····っ!」


急に話を遮られた。2人は声が聞こえた方に顔を向けると、そこにはエルドがいた。


「ノック、さっきから何回もしてるんだけど?」


不機嫌そうにエルドはそう言う。


「すまない。テオドールと話をしていて気がつかなかった。」

「ごめんね、エルド。」

「まぁ、いいや。飯、母さん呼んでるから。」


それだけ言ってエルドはさっさと執務室を出ていった。


「この話の続きは食事後にいいでしょうか?」

「··········わかった。また後で来い。」

「わかりました。」


テオドールは、ソファーから立ち上がりさっさと部屋を出ていく。

残されたメルヴィルは、ソファーにもたれかかった。そして、天井を見上げる。


「そろそろ腹を括らなくては·····か。」


ふと、呟いた声は誰にも届かず消えていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

兄弟がイケメンな件について。

どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。 「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。 イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

処理中です...