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本編
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しおりを挟む「テオドール様よろしいでしょうか?」
ルーカスを寝かせ部屋を出たあと、テオドールはセバスに声をかけられた。
「あぁ、セバスか。何か用?」
「メルヴィル様がお帰りになられました。執務室に来るように仰せつかりました。」
「わかった。今から向かう」
テオドールは、行き先をメルヴィルの執務室に変え歩き出した。
トントンとドアをノックする。
「お父様、テオドールです。」
「入れ」
テオドールはドアを開け執務室に入る。そして、ソファーに座れと言われたのでメルヴィルの正面に腰を掛けた。
「久しいな。」
「そうですね。数ヶ月ぶりでしょうか?」
「はぁ·····、もう少し家に帰って来る気はないのか?」
「色々と忙しいもので。」
相変わらず変わらないなとメルヴィルはため息をつきながら、メイドに出されたお茶を飲む。
「それで、お父様の用事とはなんでしょうか?」
「あぁ。明日、オリビアの両親が来るのは知っているだろ?私は午前中どうしても王城に行かなくては行けなくなった。」
「お父様の代わりに出迎えをしろ·····と?」
「そうだ。」
テオドールは、心の中で舌打ちをした。メルヴィルが居たとしてもテオドールは出迎えをしなくてはいけない。
何が嫌かと言うと、メルヴィルがいないとテオドールが筆頭に祖父母の話し相手にならなくてはいけない。
(お爺様とお祖母様か·····)
オリビアの両親だからオリビアみたいに冷たい態度をとる··········と思うかもしれないだろう。
逆なのである。真逆なのだ。
孫·····いや、子供が好きなのだ。そしてうざいほど絡んでくる。
本当にオリビアの両親なのか?と思うくらいだ。
だが、ここ何年かはフォーサイスを離れ色々な所を旅しているらしい。
なので、ルーカスはあまり会ったことはない。会った事があるのは片手で数えれるくらいだろう。それに最後に会ったのは何年も前なのでルーカスは覚えていない。
両親が来る時だけはオリビアは猫をかぶる。普段の態度とは逆に良い母親であろうとする。
そのせいで、オリビアの両親はオリビアはルーカスを大切にしていると思っている。
「·····分かりました。」
「すまない。助かる」
テオドールは、ふとルーカスの扱いについて疑問に思った。
きっとオリビアはまた良い母親を演じるだろう。そうであるなら、明日の出迎えにルーカスを呼びつけるはずである。
だが、ルーカスの頬には痣がある。きっと久々に会う祖父母はその痣に疑問を持ち、もし怪我を負わされたと知れば怒り狂うだろう。
ルーカスには可哀想だが、それを利用すればルーカスを助ける事が出来るかもしれない。
「お父様、質問してもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「ルーカスはどうしますか?」
テオドールのその一言にメルヴィルは固まった。きっと、テオドールからルーカスについての話は来るだろうと予想はしていた。
だが、いざその話になると何時になく緊張をする。
「そ·····う、だな。」
「その前に、お父様はルーカスと話してますか?会っていますか?」
「っ·····!」
テオドールが言おうとしていることはわかっている。メルヴィル自身だって、いつかは解決しなくてはいけない問題だと気づいている。
だが、ルーカスを救おうとすればオリビアを傷つける事になる。しかし、この状態を続けてもルーカスが傷ついていくばかりである。
「お父様が2人とも傷つけたくないのは知っています。ですが、今の状態をずっと見続けて何も思わないのですか!?」
「それは·····わかっている。このままではいけない事ぐらい。」
「だったら·····「ねぇ?」·····っ!」
急に話を遮られた。2人は声が聞こえた方に顔を向けると、そこにはエルドがいた。
「ノック、さっきから何回もしてるんだけど?」
不機嫌そうにエルドはそう言う。
「すまない。テオドールと話をしていて気がつかなかった。」
「ごめんね、エルド。」
「まぁ、いいや。飯、母さん呼んでるから。」
それだけ言ってエルドはさっさと執務室を出ていった。
「この話の続きは食事後にいいでしょうか?」
「··········わかった。また後で来い。」
「わかりました。」
テオドールは、ソファーから立ち上がりさっさと部屋を出ていく。
残されたメルヴィルは、ソファーにもたれかかった。そして、天井を見上げる。
「そろそろ腹を括らなくては·····か。」
ふと、呟いた声は誰にも届かず消えていった。
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