12 / 64
本編
7
しおりを挟む(大丈夫?信じて?·····なにが?嘘に決まってる!)
初めて会ったに等しい人をどう信じろと言うのか。そもそも、人から信頼された事ないルーカスは、人を信じる方法すら知らない。
何も聞きたくない。何も見たくない。
ルーカスは枕を掴んでいる手にさらに力を込めた。
(お願い·····早くどっかに行って!)
このまま無視すればテオドールがこの場から消えてくれるかもしれない。
だが、いくら時間が経ってもテオドールがその場から去ることはなかった。
「ルーカス·····」
あれから、どれくらい経ったのだろうか。
テオドールはルーカスから返事が返ってこなくてもその場を離れずにいた。
(さて、どうしようか·····)
時間は有限であり、テオドールは予定も決まっている。このままの状態を続けるわけにはいかない。
きっとルーカスは声をかけるだけでは反応はしてくれないだろう。
テオドールは、ルーカスがいるベッドに腰をかけた。テオドールが腰をかけたことに驚いたのかルーカスがパッと顔を上げた。
その瞬間をテオドールは逃さなかった。
「大丈夫。痛いことも怖いことも私はしないよ。ルーカス·····」
そう言ってテオドールは、ルーカスを優しく抱きしめた。
抱きしめた瞬間、ルーカスの身体がビクッと跳ねた。
「っ!?は、離せ!」
ルーカスは、急に抱きしめられた事に頭が追いつかなかった。一体自分は今、何をされているのか。何故、目の前の人間は自分を抱きしめているのか。
テオドールの腕の中から抜け出そうともがくが、自分より年上で身体が大きいテオドールの力には敵わなかった。
「やっ、やだ!やめて!!」
ルーカスは必死にテオドールを離そうとする。だが、離そうとするほど力を込められ離れることは出来なかった。
抱きしめられたのは嫌ではなかった。嫌ではないのに心がざわつく。
(·····こわい)
急に向けられた優しい言葉と温もり。そして、ルーカスと呼ぶその声。
今まで、誰も自分にそんなものはくれなかった。
だからこそ、ルーカスは恐怖を感じた。
次に向けられるのは冷たい視線や冷たい声、罵声かもしれない。
「い···っ···やだ」
「ルーカス?」
テオドールは、抱きしめていたルーカスがかすかに震えているのに気づいた。
「どうしたの?」
そう問いかけるが、ルーカスから返答はなかった。小さな声で何回も嫌だと繰り返しながら、ルーカスはただ震えていた。
「何が嫌なの?」
「·····」
「抱きしめてること?」
「·····」
何度問いかけてもルーカスからは返事は来なかった。テオドールは、無理に聞き出す事をやめてルーカスの背中をさすったり優しくポンポンと叩いたりした。
それは、まるで泣いている赤ちゃんをあやすかのように。
ひたすら優しく声をかけ、掌で背中をさすり続けた。
しばらくそれ続けたところ、強ばっていたルーカスの身体はいつの間にか力が抜けていた。
そして、スースーと寝息を立て腕と中で寝ていた。
「寝てしまった·····」
テオドールは、顔にかかっている前髪をどかしてルーカスの顔を見た。
「まだ、左頬が腫れてる。·····痛かったよね」
ごめんねと呟きそっと頬に触れる。まだ赤く腫れている頬は熱を持っていた。
このような傷をもう二度と負わせたくない。
今まで苦しんだ分、これから幸せにしてあげたい。
テオドールは新たに決意した。
「兄様がこれからはそばに居る。必ず守るから·····今は、安心しておやすみ。」
そう呟き、おでこにキスを落とす。そして、だき抱えていたルーカスをそっとベッドに横たわらせた。そしてルーカスにそっと布団をかける。
本当はルーカスの部屋で寝かせた方が本人は安心するかもしれない。だが、ルーカスの部屋は本来使用人が使う部屋と同じである。
公爵家の子供が使うような部屋ではない。それに、今のルーカスは熱を出している病人である。
(そばにいてもらった方が私も安心だ。それに、こんなに可愛い弟の看病が出来るんだ·····)
テオドールはルーカスの頭をポンポンと撫でた。もう1人の弟のエルドは、まず体調を悪くすることは無い。なので、弟の看病を出来ることはテオドールにとっては貴重な事なのである。
テオドールはチラッと外を見た。夕日が沈み始めており、晩餐の時間が近づいていた。
「さて、まずは大事な用事を済ませなくちゃね。」
テオドールは部屋の外に控えていた自分の従者にルーカス用の飲み物を部屋に準備しとくよう言いつけ、自分の部屋を後にした。
160
お気に入りに追加
5,963
あなたにおすすめの小説
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
兄弟がイケメンな件について。
どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。
「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。
イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる