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本編

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(大丈夫?信じて?·····なにが?嘘に決まってる!)

 
初めて会ったに等しい人をどう信じろと言うのか。そもそも、人から信頼された事ないルーカスは、人を信じる方法すら知らない。


何も聞きたくない。何も見たくない。


ルーカスは枕を掴んでいる手にさらに力を込めた。


(お願い·····早くどっかに行って!)


このまま無視すればテオドールがこの場から消えてくれるかもしれない。

だが、いくら時間が経ってもテオドールがその場から去ることはなかった。









「ルーカス·····」

あれから、どれくらい経ったのだろうか。
テオドールはルーカスから返事が返ってこなくてもその場を離れずにいた。


(さて、どうしようか·····)


時間は有限であり、テオドールは予定も決まっている。このままの状態を続けるわけにはいかない。

きっとルーカスは声をかけるだけでは反応はしてくれないだろう。

テオドールは、ルーカスがいるベッドに腰をかけた。テオドールが腰をかけたことに驚いたのかルーカスがパッと顔を上げた。

その瞬間をテオドールは逃さなかった。



「大丈夫。痛いことも怖いことも私はしないよ。ルーカス·····」


そう言ってテオドールは、ルーカスを優しく抱きしめた。

抱きしめた瞬間、ルーカスの身体がビクッと跳ねた。


「っ!?は、離せ!」


ルーカスは、急に抱きしめられた事に頭が追いつかなかった。一体自分は今、何をされているのか。何故、目の前の人間は自分を抱きしめているのか。

テオドールの腕の中から抜け出そうともがくが、自分より年上で身体が大きいテオドールの力には敵わなかった。


「やっ、やだ!やめて!!」


ルーカスは必死にテオドールを離そうとする。だが、離そうとするほど力を込められ離れることは出来なかった。 

抱きしめられたのは嫌ではなかった。嫌ではないのに心がざわつく。


(·····こわい)

 
急に向けられた優しい言葉と温もり。そして、ルーカスと呼ぶその声。

今まで、誰も自分にそんなものはくれなかった。

だからこそ、ルーカスは恐怖を感じた。

次に向けられるのは冷たい視線や冷たい声、罵声かもしれない。
 

「い···っ···やだ」

「ルーカス?」


テオドールは、抱きしめていたルーカスがかすかに震えているのに気づいた。


「どうしたの?」


そう問いかけるが、ルーカスから返答はなかった。小さな声で何回も嫌だと繰り返しながら、ルーカスはただ震えていた。


「何が嫌なの?」

「·····」

「抱きしめてること?」

「·····」


何度問いかけてもルーカスからは返事は来なかった。テオドールは、無理に聞き出す事をやめてルーカスの背中をさすったり優しくポンポンと叩いたりした。

それは、まるで泣いている赤ちゃんをあやすかのように。

ひたすら優しく声をかけ、掌で背中をさすり続けた。



しばらくそれ続けたところ、強ばっていたルーカスの身体はいつの間にか力が抜けていた。
そして、スースーと寝息を立て腕と中で寝ていた。


「寝てしまった·····」


テオドールは、顔にかかっている前髪をどかしてルーカスの顔を見た。


「まだ、左頬が腫れてる。·····痛かったよね」


ごめんねと呟きそっと頬に触れる。まだ赤く腫れている頬は熱を持っていた。

このような傷をもう二度と負わせたくない。

今まで苦しんだ分、これから幸せにしてあげたい。

テオドールは新たに決意した。


「兄様がこれからはそばに居る。必ず守るから·····今は、安心しておやすみ。」


そう呟き、おでこにキスを落とす。そして、だき抱えていたルーカスをそっとベッドに横たわらせた。そしてルーカスにそっと布団をかける。

本当はルーカスの部屋で寝かせた方が本人は安心するかもしれない。だが、ルーカスの部屋は本来使用人が使う部屋と同じである。

公爵家の子供が使うような部屋ではない。それに、今のルーカスは熱を出している病人である。


(そばにいてもらった方が私も安心だ。それに、こんなに可愛い弟の看病が出来るんだ·····)


テオドールはルーカスの頭をポンポンと撫でた。もう1人の弟のエルドは、まず体調を悪くすることは無い。なので、弟の看病を出来ることはテオドールにとっては貴重な事なのである。

テオドールはチラッと外を見た。夕日が沈み始めており、晩餐の時間が近づいていた。


「さて、まずは大事な用事を済ませなくちゃね。」


テオドールは部屋の外に控えていた自分の従者にルーカス用の飲み物を部屋に準備しとくよう言いつけ、自分の部屋を後にした。
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