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本編
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しおりを挟む『トゥール、私に力を』
テオドールがそう呟くと、ルーカスはやわらかな風に包まれ身体がフワッと宙に浮いた。
「えっ!?」
「あまり動くと危ないから大人しくしていてね?」
あまりにも不思議な体験にルーカスは混乱する。
今まで、魔法や精霊の存在は知っていたが、それらを生で見たことは無い。
(これは·····どうなってるんだ?)
ルーカスは、どのような原理で魔法が発動するのかを知らない。そこで、魔法を発動させたテオドールに視線を向けた。
「あっ·····」
ルーカスはテオドールの周りに不思議な光が飛んでいるのが見えた。
(あれは·····もしかして精霊?)
その光を詳しく見ようとルーカスは左目を隠している前髪をあげようとした瞬間、身体が急に動かされた。
「うわっ!」
「ベッドに運ぶね?」
テオドールがそう言うと、ルーカスの身体はベッドの上に優しく降ろされた。
「気持ち悪いとかない?」
優しく投げかけられた言葉にルーカスはただ頷いた。
「それは良かった。魔法に触れたことがない子供が急に魔法に触れると魔力酔いとか起きることがあるんだ。」
「へぇ·····」
魔力酔いは子供だけではなく大人にも起こるものだ。ただ、魔法を行使したことがない子供や魔法をかけられたことがない子供に起きやすいものである。
ルーカスは今まで、魔法や精霊、それ以外の事を勉強したことがなかったため新しい知識を得れたことに心が少し弾んだ。
(もっと·····知りたい!)
魔法や精霊についてもっと知りたいと思った。
だが、ルーカスはある事に気づいた。
勉強をする手段がないのである。勉強を教えてくれる人がいないのである。それに、屋敷内にある本は、勝手に読めば怒られる。
(俺なんかが·····頼んでも聞いてくれる人はいないんだった。)
今まで出来なかったことが急に出来るようになるわけが無い。
さっきまで弾んでいた気持ちは、打って変わって最悪なものになった。
ルーカスは、うつむき唇を噛み締める。
「そんなにくちびるかんだらいたいよ?」
急に幼い女の子のような声が聞こえた。
この部屋にいるのはテオドールとルーカスだけである。ましてや、2人とも男なのである。
ルーカスは顔を上げると声の正体を見つけた。
「き·····みは?」
ルーカスの目の前には、ライトグリーンの瞳と髪色を持ち背中から羽が生えている女の子の容姿をした小さな精霊がいた。
「ルーカス?·····もしかして、トゥールが見えているのかい?」
「トゥール?」
「そう!わたしはトゥール。テオとけいやくしたせいれいなの!」
目の前にいるトゥールは、嬉しそうにルーカスの周りを飛び出した。
「本当に見えているのかい?」
ルーカスはテオドールの質問の意図はわからないが見えていることに変わりはないので素直に頷いた。
「普通はね、自分が契約した精霊しかみえないんだ。だからね、他者と契約している精霊を認識出来るはずがないんだ。」
「えっ·····」
他者と契約している精霊が見えるはずがない。だが、ルーカスはトゥールの姿が見えている。
「テオ、ルーがトゥールをみえているのはおかしいことじゃないよ?」
「それはどういうことだい?」
「だって、ルーはせいれいのいとしご!みどりのにおいがする!」
そう言ってトゥールは、ルーカスの左目にチュッとキスをする。
「トゥールねルーのにおいすきだよ!」
ルーカスから離れたトゥールはテオドールの元に戻ると肩の上に座った。
「精霊の愛し子·····?ルーカスが??」
「テオ、ルーのめをみてみたら?いとしごのしるしあるはずだよ!」
「本当かい?」
トゥールの発言をテオドールは上手く飲み込めない。けれども、それは仕方ない事である。愛し子は、ここ数十年存在しなかった。存在していたらとっくに報告が上がり、国中に知れ渡っていただろう。
「ルーカス·····左目、見せてもらえるかな?」
テオドールのその発言にルーカスはビクッと身体を跳ねさせた。ルーカスは自分の左目を嫌っている。自分が今の生活に陥った原因はこの左目のせいである。
実の母親からも気味悪がられている左目を、誰かに見せるのには抵抗がある。
(気持ち悪い·····絶対にそう言われる)
ルーカスは、嫌だと首を横に振る。今は優しく接してくれているテオドールだが、きっと左目を見れば態度を変えるはず。
そうなるくらいなら見せたくない。
ベッドの上にあった枕を手に取り、ルーカスは顔を枕に押し付ける。
テオドールはルーカスのその様子を見て悟った。
左目を見た自分が態度を変え、暴言を吐くとルーカスが考えいることに。
(そんな事·····絶対にしないのに)
今のテオドールとルーカスの間には信頼関係は存在しない。
今まで話したことも会ったこともあまりない。ルーカスから見たらテオドールは知らない存在であり、信頼関係なんてものはない。
そんな、人間に自分の嫌いな部分を見せたくはないだろう。
だが、テオドールはそんな事で諦めようなんて思わなかった。今からでもルーカスを守りたい。守って幸せにしてあげたい。
お互いを知らないのであればこれから知っていけばいい。信頼し信頼されたい。
その決意を込めて、もう一度ルーカスに声かける。
「大丈夫。ルーカスが心配してることは起きないよ。絶対に。お願い信じて。」
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