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本編
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しおりを挟む「さぁ、みんなで食事にしましょ!」
「そうですね。お母様」
「俺、腹減った。」
「エルド、もっと綺麗な言葉を使え!」
「はいはい。わかりましたよ父上。」
4人が楽しそうに話し、笑っているのを俺はドアの隙間から覗く。そこには、仲の良い家族の姿があった。
(みんな·····か。)
オリビアの「みんな」にルーカスが含まれていない事はすぐにわかった。今更、母親や家族に期待することはない。だが、たまに思うことがある。
「俺は·····誰なんだろう?」
ドアの隙間から覗いて見える家族の姿が次第にかすみ消えていく。
(あぁ、そうか。これは··········夢だ。)
生まれてから今まで、ルーカスは屋敷の外に出たことがない。屋敷の中の様子や家族の様子を少なからず知っている。だから、すぐに違和感に気づいた。
ジェナー公爵家は、あの夢に出てきた家族のように仲が良くない。いや、互いに干渉しないでいるの方が正しい。
そのせいでルーカスは、あまり人と関わったことが無い。
その影響か、人との交流の仕方も相手の気持ちを知る方法も好意が向けられていることも全てがわからない。そして、それらを知る必要性すら感じていない。
今まで知らなくても生きてこれたのだからこれからも知らなくても生きていけると思っている。
(早く精霊と契約して·····自由になるんだ)
誰かの声が聞こえる。
「ーーー?」
よく聞こえない。
「ーカー?お···き··の?」
なんて言ってるのかわからない。だが、聞こえてくるその声はとても心地いい。
その声の主を知りたくなったルーカスは、重い瞼を少しずつ開いた。
だが、全身がだるくうっすら開いた目をまた閉じたくなる。
それでも、絶えず聞こえてくるその声にこたえるべく閉じそうになる目を開ける。
(ここ·····は?)
目を開けてすぐに飛び込んできたのは、知らない天井だった。身体を起こして、周りを確認したいが身体は重く思うように動いてくれない。
「ルーカス?起きたの?」
すぐそばからその声は聞こえた。ルーカスは、声の聞こえた方向に視線だけを向ける。
すると、ベッドの横にある椅子に青年が腰をかけていた。
青年の顔を見ようと思うが、後ろの窓から陽が差し込み、その眩しさから目を閉じまた開ける。もう一度青年の顔を見たが逆光により顔がみえない。
「あぁ、これじゃあ眩しいよね。ごめんね?」
そう言って青年は、腰をかけていた椅子から立ち上がり反対側に移動してきた。
段々と青年が近づき、その顔がはっきり見えてくる。
「···············っ!」
ルーカスは青年の顔がはっきり見えた瞬間、ビクッと身体を跳ねさせた。
目の前にいる青年は、母親であるオリビアに似ている。オリビアではないとわかっていても、身体が無意識に反応してしてしまう。
「ルーカス?大丈夫?」
そう言って青年はベッドの横でしゃがみ手を伸ばしてきた。
パシッ
ルーカスは伸ばされた手を叩いた。そして、重い身体を持ち上げベッドから降り、青年とは逆側に逃げる。
「··········誰?」
ルーカスがそう言うと目の前にいる青年は少し悲しそうな顔をした。
「そ·····うだよね。流石にわからないよね。」
青年は、立ち上がりルーカスに近づく。
「く·····っ、来るな!」
ルーカスがそう叫ぶと青年はあと数歩前でとまる。
ルーカスは、名前も顔も知らない人間が自分に優しい声で話しかけ、名前を呼んでくるのが怖かった。
(この人·····知らない。なんで、話しかけるの?なんで名前を呼ぶの?)
青年は、警戒心を丸出しにし怯えているルーカスに、これ以上近づくのはまずいと感じその場でルーカスと同じ目線の高さになるようしゃがんだ。
「今は、これ以上近づかない。だから、このまま話してもいい?」
「··········」
ルーカスが反応しない事を青年は肯定と受け取った。
「私はね、テオドール·····って言えばわかるかな?」
そう言って、テオドールはルーカスの警戒心が少しでも解ければと思いニコッと笑う。
だが、その笑顔をみてもルーカスは表情を変えなかった。
「··········」
ルーカスは何も答えずただ頷いた。
それを見てテオドールは嬉しそうに微笑む。
(··········なんで、こんな嬉しそうに笑うんだ?)
微笑むテオドールを見て、ルーカスは怪訝そうな顔をする。
「あんまり警戒しないでくれ·····っていってもまだ難しいよね。」
そう言ってテオドールは立ち上がる。ルーカスは急に立ち上がったテオドールに驚き後ろに下がろうとした瞬間、足がもつれてそのまま倒れた。
「ルーカス!大丈夫かい!?」
テオドールは倒れたルーカスを起こそうと近寄る。だが、ルーカスは来るなと再び叫ぶ。
「っ·····」
テオドールは、ここまで拒否されるとは思っていなかった。どうしたらいいのかと迷っていると、ルーカスがカタカタと震えている事に気づく。
その姿を見て、ルーカスが今までどんな扱いを受けてきたのかが改めてわかった。
(ここまで人が怖いとは··········)
このまま、無理にでもルーカスと距離をつめてもルーカスに負担をかけるだけだとテオドールは考えた。
そして、ルーカスのいる方向にスっと手を伸ばした。
不意に伸ばされた手にルーカスはまたビクッと身体を跳ねさせた。
(·····っ、叩かれる!?)
そう思い、身体を守るように手を前に出す。
だが、いつまで経っても想像していた痛みは来なかった。
テオドールは、必死に自分を守ろうとするルーカスを見て自分の唇を噛んだ。
(こんなに幼い子が·····どうして·····)
溢れ出そうになる怒りと悲しみを必死に抑え、テオドールはルーカスに向けてまた微笑む。
「大丈夫、痛いことはしない。」
そう言って、テオドールは目を閉じ呟いた。
『トゥール、私に力を』
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