嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

4 テオドール視点

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ジェナー公爵家の長男である、テオドール=ジェナーはフォーサイス学園の専門学部に通っている。父の仕事を継ぐために政治学など様々事を学ぶと共に精霊についても研究している。




私、テオドール=ジェナーには、結婚し家を出た姉と、このフォーサイス学園の中等部に通っている弟のエルド、そして6歳になる弟のルーカスがいる。


姉様とは手紙のやり取りをしているが、元気にやっているそうでなによりだ。まぁ、手紙に書いてある惚気話に少々苛立つところもあるが·····。


弟のエルドとは、この学園で会うこともあり元気にやっている姿をよくみる。剣術の成績はとてもよく、本人が目指している騎士団への入団も可能であろう。


そして、一番下の姉弟のルーカスは·····もうしばらく見てもいなければ話してもいない。セバスを経由して本を送ったりするが、反応はない。それは、仕方ないことだと思っている。

母親であるオリビアはルーカスを嫌っている。屋敷の中でルーカスが動けばオリビアの機嫌は悪くなるだろう。それを見越して、私は直接的にルーカスとは接触しないようにしている。

私も母上は苦手だ。ただ、幼いルーカスを心配し家に様子を見に帰ろうと思うが、母上に会うのが嫌で家に帰るのを引き伸ばしている。
長期休暇でも私は学園に残り精霊についての研究をずっと行っており、家に帰ることはなかった。





そんな私が、精霊の研究をしていてわかったことがある。


精霊は自然を好む。だから、森や川、海、花がある場所などそういった所に存在する。

精霊と契約することで私たち人間は魔法を使うことが出来る。精霊に好かれるほど使える属性が多くなる。

普通は1属性である。2属性の魔法を行使する人も少なくない。多くても3属性が限界だ。だが、3属性もの精霊と契約できることは極めて稀である。

そして、それ以上つまり4体以上の精霊と契約できる人はほぼいない。精霊の愛し子を除いては。

ここ、精霊に愛されし国フォーサイスでは数十年に1度精霊の愛し子が生まれる。

愛し子は身体のどこかに愛し子の印がある。それは、緑色の印である。精霊は自然を象徴する色、つまり緑を好む。その性質のせいなのか、愛し子には緑色の印が刻まれている。

だが、精霊の愛し子がどのような条件で選ばれ、どこで誕生するかは未だに解明されていない。




「愛し子か·····そう言えばここ数十年は現れていないな」
 

テオドールは、自身の研究をまとめた資料を振り返る。


「緑色の印か··········」


愛し子の印は、生まれながら持っている場合と精霊と契約した際に浮かび上がる場合がある。
今のところ愛し子が現れたという報告はない。年数をみても、いつ現れてもおかしくない状態である。

 
(生きている間に一度は見てみたいものだ·····)


テオドールは、机の上にある研究資料を整理しながら片付ける。
すると、トントンとドアを叩く音が聞こえた。


「どうぞ。」
 
「テオドール様、ジェナー公爵様からのお手紙です。」

「わざわざ、ありがとう。」


テオドールは、渡された封筒から手紙を出し読み始めた。


「·····はぁ、これは一度帰らなくては行けないか。」


届けられた手紙には、困ったことにオリビアの母親と父親が訪れるので帰ってこいという内容だった。


(お爺様とお祖母様か·····これはまた屋敷が荒れそうだ·····)


テオドールは近い未来を想像しため息をついた。そして、外泊申請をするために部屋を後にした。








数日後、学園は休みの日となり祖父母に会うためにテオドールは久しぶりに屋敷へと帰宅した。


「テオドール様、お帰りなさいませ。」

「やぁ、セバス久しぶり。」

「顔つきが大人になられましたね。」

「もう、17歳だからね。流石に子供みたいと言われるような歳ではないよ。」


ジェナー公爵家の執事であるセバスに荷物を預けテオドールは屋敷の中へと向かう。


「お父様とお母様は?」

「メルヴィル様はまだ王城でお仕事されてます。オリビア様は自室でお休みになられてます。」

「そう、わかった。では··········ルーカスは?」

「ルーカス様は··········この時間ですと馬小屋におられるかと。」

「そう··········あの子は元気にやってるかい?」

「それは·····」

「いや、わかってる。気にしないでくれ。」


テオドールは、そう言って屋敷の中ではなく馬小屋に向かうために来た道を戻った。


「ルーカスが私を覚えているかはわからないが少し見てくるよ。」

「承知しました。それでは、お荷物はテオドール様のお部屋に運びますね。」

「よろしく。」 





テオドールが、ルーカスに会った回数は数えられるくらいだ。記憶の中にあるルーカスはとても幼い。なので、ルーカスが今どのくらい成長したかすらテオドールには想像がつかないのである。


(流石に·····使用人には間違えられないはず。)


少しの不安と期待を抱きながら、テオドールは馬小屋へと向かった。




庭園を抜けて屋敷の角を曲がると、馬小屋へ行く道の途中にフラフラと歩く子供が見えた。


(··········あの子は?体調が悪そうだが·····)


あまりにも、足元がおぼつかない様子で歩いているので、大丈夫か?と大きな声で声をかけるが、どうやら子供には届いてないらしい。
すると、次の瞬間子供は地面に倒れてしまった。

テオドールは、急いで子供に近づき意識を確認する。



「おい、大丈夫か!?」


子供は声に反応しない。地面にうつ伏せになるのは苦しいだろうと思い、テオドールは倒れている子供を仰向けにする。


「っ·····!」


テオドールは子供の顔を見て息を飲んだ。仰向けにした子供の左頬は赤く腫れており、目の下には幼い見た目からは想像できないクマができている。


「呼吸が荒いな。身体も熱い·····」


この子供を一目見て、テオドールはルーカスだとわかった。この屋敷にはジェナー公爵家以外の子供はいない。エルドとは、よく会うので見間違えるはずがない。

テオドールは、ルーカスを屋敷に連れてくために抱き上げた。


(軽い·····この身体が6歳か·····)


6歳の子供にしては身体は小さくあまりにも軽い。今までどのような仕打ちを受けてきたのかすぐにわかった。

そして、母親に会うのが嫌だからという理由で屋敷に帰ってこなかった自分に対して怒りを覚えた。


「ごめん·····ごめんね、ルーカス。」


意識のないルーカスに向かってテオドールは何度も謝った。そして、小さな身体を抱き上げるその手に力が入る。


助けれてくる人もおらず、ただただ懸命に生きている姿を想像し涙が出てくる。


自分がルーカスの歳の時はどうだっただろうか?

こんなに痛い思いをしたことはあっただろうか?

ルーカスが今まで経験した事は、大人がやられても心が苦しくなることだろう。


流れる涙は、ルーカスの頬にぽたぽたと落ちる。



「ダメな兄様でごめん。これからは·····守るから。絶対に!」


テオドールは、そう決意しルーカスを抱えながら屋敷に戻った。
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