嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫

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本編

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「お前なんか可愛くない」


「お前の目は気持ち悪い」


「お前がいるせいであの人はこっちを見てくれない」


「お前なんて··········産まなきゃ良かった!!」






夜になりベッドの上でルーカスは目を閉じるが、今までオリビアから言われた事が頭の中で何度も何度もこだまする。

眠れる気配がなく、ルーカスは寝ることを諦めて身体を起こした。


「今日は·····寝れないか。」


仕方なくルーカスは、机の上にあるランプに明かりをつけ、置いてあった本を読み始める。
それは、兄のテオドールが父の執事であるセバスを経由しオリビアにバレないように送ってくれたものだ。


物語の内容は、ある子供と妖精の話である。子供は、父親と森に遊びに来るが途中ではぐれてしまう。どうしようか途方に暮れていると、目の前を小さな光が横切った。子供はその小さな光が気になり追いかけてしまう。追いかけ続けていたら、次第に森が開け、花が咲き誇る場所に出た。その場所の中央には小さな湖があった。

子供はその湖に近寄り水面を覗き込むと、水面が眩い光を放った。あまりの眩しさに子供は目を閉じた。すると「お前は誰だ?」という声が聞こえ、目を開ける。

そこには、先程までいなかった青年が立っており、子供は自分の名を名乗った。子供が青年に名を聞くと、「名前はない」と青年は答えた。

子供は名前が無いのは可哀想と思い、青年に名前を与えた。すると、青年は名前を与えてくれた代わりに願いを叶えてやるという。子供は、はぐれた親の元に帰りたいと願う。

青年は、その願いを叶えてやると言った次の瞬間、また眩い光が子供を襲い、再び目を開けるとはぐれた親の元に戻っていた。


この物語は、子供向けの精霊に関する勉強の本である。精霊に名を与え契約することで力を貰える。その仕組みを理解させるべく作られた本だ。


「俺も·····契約出来たら自由になれるかな?」


今は小さく自分でお金を稼ぐ手段もない。だからこそルーカスは人一倍、精霊との契約に憧れ自由を求めた。
それは、自分を貶す人がいない世界に行くために。

その後、ルーカスは日が昇る前にようやく眠りについたが使用人が起きる時間に重なりほとんど寝ることが出来なかった。







「朝食·····食べ損ねた·····」

あれから、朝食をとりに行くタイミングを失い仕方なく朝の身支度を終え始めた。


(クマができてる·····)


ルーカスは鏡を覗き込みため息をついた。ただでさえ寝る時間が短いのに今日はさらに寝れなかった。

何故か、今日は使用人達がいつもより早い時間からバタバタと慌ただしく動いていた。
どうしたのかと思い様子を伺っていると、近くを通り過ぎたメイド達が「テオドール様が帰ってくる」と話していたのを聞いた。


(どれくらいぶりだろ····テオドール兄様が帰ってくるのは·····)


記憶がある中で、ルーカスはテオドールとほとんど話したこともなければ会ったことも無い。
なぜなら、テオドールはオリビアが苦手であまり学園から帰ってこないからである。

それが何故か、学園の休みの日にテオドールがわざわざ家に帰ってくるのである。


(何の用だろう·····と言っても、俺には関係ないし)


そうして、ルーカスは身支度を終えフィルの餌やりに向かった。









 
「ルーカスお坊ちゃま·····その頬は·····」


ジョンは、赤く腫れているルーカスの頬見て青ざめ、あたふたとしている。


「何でもない·····」

「でも·····いえ、もしも痛むようであれば言ってください。」


頬の怪我の理由についてジョンは想像がついた。下手にルーカスから理由を聞き出しても嫌な思いをさせるだけだと思い、それ以上は聞かなかった。


(奥様は、実の息子にもう少し優しくなれないのかの?·····)


ジェナー公爵家の使用人でもあるジョンは、ルーカスがどのような扱いを受けているか知っている。こればかりは、一介の使用人が口を出せることではない。

なので、せめて動物と触れ合う時くらいはルーカスに安らいで欲しいと願っている。




フィルの餌やりを終えたルーカスは、自分の部屋に戻ろうと馬小屋を出た。


(こんなに日が出てるのに·····今日は寒い気がする·····)


いつもの通る道が今日はやけに長く感じる。寒気がするはずなのに汗が止まらない。
視界もやけにぐらついている。


「はっ·····っ·····」


ただ歩いているだけなのに息が切れる。


(部屋に帰って·····休もう)


そう思うが足取りは重い。次第に視界がかすみ音が遠くなる。
やばいと思った時には地面に倒れていた。


「おー·······だ·····ぶか?」

遠くから声が聞こえるが、その声がなんと言っているかもわからなかった。視界はもう暗い。きっと目を閉じてしまっているのだろう。

誰かがそばにいる気配がするが、目を開けることも出来なければ、手を動かすことも出来ない。


いつの間にかルーカスは意識を手放した。




    
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