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本編
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しおりを挟む「お前なんて産まなきゃ良かった」
産まれてから今日まで、この言葉を何回聞いただろうか。その言葉は僕の心に重くのしかかる。
でも、心はもう深く傷つかない。
だって、傷がつかないほど僕の心はもうボロボロだから。
太陽が昇りきる前にルーカスは目を覚ます。
「まだこんな時間·····」
身体を起こし辺りを見回すが、まだ日は昇っておらず辺りは暗く気温も低い。ルーカスは身体が凍えるような寒さに身体をブルっと震わせる。
だが、この部屋を温める道具はない。仕方なくルーカスは、布団を身体にかけてギュッと縮こまる。
「今日もあまり寝れなかった」
小さな部屋の暗闇にその声は溶けて消えていく。いや、この部屋が例え明るくて人が居たとしてもこの部屋の主の声に反応してくれる人はいない。
ルーカスは、6歳という年齢にも関わらず自身の事は自身で行わなくてはいけない。公爵家の人間·····いや、幼子としてはあるまじき事だ。
だが、この家ではこれが当たり前のことである。母親からの愛を受けることが出来ないだけでルーカスはこのような事になっている。
(今日も·····何事もなく過ごしたいな·····)
そう思いながら、ルーカスは人の気配が少ないうちに支度を終わらせようと寒さに耐えながらもそっと部屋を出る。
部屋を出て最初に向かったのは厨房である。着替えもしないで厨房にすぐに来たのは理由があった。シェフが朝食の準備をするまでにルーカスが朝食を終わらせなくてはいけないからだ。
厨房にやってきたルーカスは、厨房の片隅にあるバスケットを覗く。
「あっ、今日も置いといてある·····申し訳ないな。」
とっくに冷えてしまっている料理をルーカスは食べ始める。一日の中で唯一まともにご飯が食べらるのは朝食だけである。母親の目が自身に行き届かない時間はこのタイミングしかない。
なのでなるべく残さないようにしたいが、6歳にしては小さい身体に料理はなかなか入らず少ししか食べられない
(残して申し訳ないけど·····もう食べれないや)
作ってくれたシェフに申し訳なく思いつつもルーカスは、ご馳走様でしたと呟き片付けをして厨房を後にした。
ルーカスの家でもあるこのジェナー公爵家に務める使用人は、公爵夫人でもあるオリビアの命令は絶対である。オリビアがルーカスを無視しろと言ったらそれは絶対命令になるのだ。
しかし、使用人達も人間だ。年端のいかない子供の世話をするなと命令されても素直に頷くことは出来ない。だが、自身の職を失う訳にもいかずオリビアに隠れながらルーカスの世話をしている。
食事もオリビアに気づかれないよう、バスケットに隠すなどをしてルーカスに渡している。
だが、昼食や夕食はそうもいかない。オリビアの監視もありルーカスに与えることがなかなか出来ない。
なのでせめて、ルーカスが何か口にできる朝食は栄養のあるものをと作っている。だが、少食の彼はなかなか食べることが出来ず身体は小さいままである。
ルーカスは食事を終え、自分の部屋に戻ってくるとタオルや服を用意し朝の身支度を始めた。
顔を洗うのも髪を洗うのも身体を拭くのも冷たい水だ。石鹸やシャンプーなどは使用人がこっそり部屋に置いていってくれる。ルーカスは有難くそれを使っている。
冷たい水で洗うのも、もう慣れてしまった。むしろ冷たいと感じなくなっていた。ルーカスは暑いも感じられない。心が閉ざされているからだ。痛いも嬉しいも悲しいも怒りもルーカスには無縁である。
使用人から受ける好意も自分にはもったいないものだと感じている。だが、その好意がなければ生きることも叶わないので、有難く受け取っている。
そうしているうちに日が昇り始め、屋敷の中が慌ただしく動き始める。使用人達は主人が起きる前に自身の準備を終え、今度は主人の朝の準備を始める。
日が昇り切る前後に、この家の主達は活動し始める。
ルーカスはその生活音を聞きながら朝を過ごす。
外から馬車の音が聞こえそっと窓から覗く。するとルーカスの父でもあるメルヴィルが仕事をしに王城へ向かおうとしてた。
(···············久々にみたな)
ルーカスは父親を久々に見ても会いたいや話したいなどの感情は湧いてこなかった。
やる事もないルーカスは、久しく見る父親の観察をすることにした。
すると、その視線に気がついたのかメルヴィルが不意に振り返り目があった。
こちらを見たメルヴィルの目が僅かに見開いていた。ルーカスはその視線から逃げるよに窓から離れていった。
(不思議なものを見たような顔だったな)
そんなことを思いながらルーカスは一日どう過ごそうか考え始めた。
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