イケメンが好きですか? いいえ、いけわんが好きなのです。

ぱっつんぱつお

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いぬぐるい編

お預けとデジャブ

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 ──ホテルに着いた。

 同じく建国記念パーティーに参加していた他の貴族も何組か泊まっているようだ。
 アオイと怜の二人は容姿も存在も目立つだけあって、他の貴族のみならず、ホテルの使用人や商人、一般人の視線をも奪っていく。そして流石センスが良いのねと囁かれるのだ。

 ここは歴史のあるホテルで有名だが、怜にとってこのホテルは祖父の知り合いが経営していたホテルだ。
 戦争が盛んに行われていた時代に仲良くなったらしく、終戦後も狼森家おいのもりけを優遇してくれた。100年経ってしまった今現在は経営者とこれといった関係はなく、ただ少しだけ特別な客なだけ。

 建築の国だけあって当時の面影が残っおり、幼少の頃の記憶を思い出させてくれる。
 呪いにかけられる前はここによく女性と泊まったものだっけか、なんて少し目を細める怜。しかし今は他に変えられない特別な女性が隣に居る。

 エレベーターの中、こくりこくりと今にも眠りに落ちそうなアオイをなんとか支え、部屋に辿り着いた。もちろんアオイが泊まっている部屋だ。
 自分の部屋に連れ込むだなんてアオイに対してそんなことは出来ない。もちろんやりたいけどやらない。

 メイド達には先に休んで良いと伝えているが、コニーの事だから待っているしホテルに戻った事にも気付いているだろう。
 呼ぶまでは来ないが母より厳しい女性だ。下手なことをすると怒られてしまう。

 アオイをベッドに座らせ、自分もひとまずソファーに腰を下ろし「ふぅ」と一息。

「そのまま寝るなよ」
「んーー……わかってるよーー……えへへ」

 頑張って眠気に耐えながらアクセサリーを外すアオイを見て、自身もジャケットを脱ぎ蝶ネクタイとボタンをふたつ外した。
 堅苦しさから解放され、色んなことがあって疲れたなと目を瞑り考えながら肩甲骨辺りをほぐしていると、突然ソファーが沈んだ。驚いて目を開けると、目の前にアオイが居た。

 またがるように片膝をついて、自慢の金髪を撫でるように首に手を回される。
 そして、ふたりの唇の先が触れた。
 すこしだけ、本当にすこしだけ、触れた。
 キスとは言い難いが、唇が触れたのだ。

 怜は驚いた。
 だって男女のまぐわいを何も知らないような、こんな純粋なアオイが、自らキスをしてきたのだ。
 当然の如く自分がリードするものだと思っていたから、一瞬思考が止まった。

 酒のせいなのかは分からないが、頬を染め恥ずかしそうに目を逸らすアオイ。
 そんなアオイに煽られて、反射的に彼女の腰を引き寄せ「もっと」と、もういちど唇を重ね合わせた。今度はふたりの味が感じられるぐらいに、深く、深く重ねた。
 アオイの下唇を吸うと、先程屋台で勧められた柚子とミントの香りが自身の口内にも広がる。
 唇を離すとぷるんと震え、「んっ……はぁ……」と甘い吐息も共に溢れる。
 思わずゾクゾクと、背筋を震わせた。

 アオイがまとっているドレスの、背中の編上げに指を滑らせ紐に手を掛ける。
 結び目をほどきながらアオイを抱えベッドに移動した。

「やっ……」

 アオイは恥ずかしいのかうつ伏せになる。
 怜にとってその状態は好都合だと言わんばかりに、するりするりと慣れた手つきで紐をほどいていくが、おかしな事にアオイの反応が無い。

 まさかと思いうつ伏せで隠された顔を覗くも、表情は伺えない。
 すーすーと寝息が聞こえるから、「おい、アオイ」と声を掛けるもやはり返事はない。本当に眠ってしまったのだろうか。
(ここまで来てまたお預けか。全く。まぁ今にも眠りそうだったから仕方無いか)

 背中の筋が綺麗だから、中指と薬指で下半身から上半身に向けて指を滑らせていると、反射的になのか背筋を少し仰け反らせた。ほんの僅かだが、「んんっ……」と声を漏らして。

 寝ていなかったのかと期待を込めてまた顔を覗くも、やはりすーすーと寝息を立てていて表情は伺えない。
 しかしこれが頭隠してか。隠しきれていない耳の端が真っ赤に染まっているではないか。

 あぁそういう事かと、いつもの悪戯な表情かおをして、アオイに覆いかぶさるように自身の唇を彼女の右耳に近付けてこう言った。

「寝たフリだなんて可愛い事をするもんだ。でも次やったらそのまま続けるから覚悟するんだな」

 そしてカプリと耳の端を甘噛した。
 まるで狩猟本能が備わっている犬の様に。










「コニー、悪いな。アオイを頼む」
「はいはい。人使いの荒い坊っちゃんだこと。こちとらいくつだと思ってるんですか」
「悪かったからその呼び方は止めろって……!」
「…………あら? アオイ様の背中の編み上げ……、なんだか少しいびつですねぇ……」
「そ、うか……? ダンスもしたし移動もしたから崩れたんだろう……?」
「……旦那様。唇にべにが付いておりますが」
「えっ、そんな筈は、」
「やっぱり……!! もちろん嘘ですよ! おかしな事にアオイ様のメイクもヘアセットも全て崩れておりますからね!! で!? 貴方って人は寝込みのアオイ様をまた襲ったのですか……!? もしかして王宮でも襲ったんじゃ!?」
「いやっ、違っ、これはアオイから……!」
「んなワケ無いでしょーーーが! このドエロ辺境坊っちゃんがァ!! アオイ様はそんな事出来るような人じゃありません!!」
「いやっ、でも」
「言い訳はケッコーです!! 後でお説教ですからね!!」
「いやいやいや! 誤解だって……! 私は嘘など、」
「信じられますかこのど畜生の犬めがァ!!」
「それはコニーだって……!」
「はい?? 何処のどいつのせいでのお話ですかぁ??」
「そ、れは、その……しかし嘘はついてないぞ……!?」
「と・に・か・く! 今夜は休むのが先です! 後でじーーーっくりとお聞きしますので悪しからず。では」
「おいっ! ~~~ったく……またか。いや、自業自得なのだが……。しかしこちとらお前の主人だぞ……」
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