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こんなことになるはずじゃ

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「えっ、と。ごめんなさい。早とちりだったみたい……」
「エミリーは素直だね。良いよ、もちろん許すさ。じゃ続きを……」
「ちょっと待った!!」

 また胸を触りだすから思い切り顔面を押し返した。勘違いしていたとしても胸を触るのはオカシイ。
 イーサンは「何をするんだいエミリー」と籠もった声で返事をしている。

「だって……! 覚悟って、そういう覚悟ってコト!? わ、わたし無理よ! そんな気なかったんだもの……!!」
「そんなッ!」
「待って待って。ちょっと一回落ち着きましょう……!?」

 ソファーから立ち上がり、急いで事を成そうとするイーサンから距離を取った。と言いつつ自分自身が落ち着きたいからだけど。
 ぐるぐる部屋の中を回りながらぐるぐる思考を巡らせる。
(ええっと、つまりは婚約者としての関係をイチからやり直したいって意味で、だから恋人に囁くような甘い言葉を吐いていたわけでそれから……。何故胸を触るの。あ、いやそれは私が覚悟してるって言ってしまったからね。いやそれにしても順序ってものが……いやそうかそれは私が早とちりしたわけで、でもでも私はそんなつもり無いし……)

「ッ、エミリー……。そんな格好で目の前を歩かれると余計に我慢出来なくなるんだけど……」
「へ!?」

 自身の格好を確認すれば、シルクローブの胸元ははだけているし太ももは曝け出しているしでもう最悪。イーサンの私を見る瞳を見てさらに最悪。

「この際だから言ってしまうけど俺たち婚約しているんだからこういうことだって覚悟していたんじゃないのか?」
「そっ、それは……」
「婚約してどれくらい経った? 俺も男だ。見てよ! 君が期待させるからこうなってるんだ!」
「ひぃっ!? る、ルイーザ様が居るじゃない……! 今までのパーティーだって女の子と散々遊んでいたんでしょう!? 私じゃなくっても良いはずよ!?」
「……そう。つまり君は婚約者であるにも関わらず自分は嫌だからと他の令嬢たちに男の生理現象を収めろって言うんだね!?」
「違ッ! そんなこと言ってない!」
「言ってるさ! 俺自身が他の令嬢を望んで声を掛けるのとは意味が違うだろ? それにルイーザは処女だよ。憧れの人に捧げるため大切に取っているんだから」
「え゙……しょ、処女……?」
「そうさ。それなのに君はルイーザに“処理”してもらえって言うんだね。自分が嫌だからって」
「そんな、ことッ……!」

(いやっ、そう、なのかしら……?? 私が間違ってる……?? そりゃあ婚約したその先は結婚だけれど。でもでもやっぱり最近のキモいイーサンに股なんか開けない……!)
 私としたことが頭まで抱えて悩んでしまった。一体この状況はどうすればいいの。男女の関係でこんなに悩んだことなんて無いのに。

「エミリー……! 俺もう限界なんだよ……! 婚約者じゃないか……っ。頼むから己で鎮めろなんて言わないで……俺にだってプライドがあるんだ。きちんと婚約者が居るっていうのに……! 君のことだよエミリー!」
「ぐッ、」
「エミリー! エミリー! ああ! お願いだ……! 挿れたくてたまらないんだよ!」
「ちょっ、え、な、なに、はぁ!??」
「お願い……! 先っぽだけ……! 先っぽだけで我慢するから……!」
「さ、先っぽだけって、大体の男性はそれだけで済むとは思えないのだけど!?」
「な、なら太ももで挟むだけ! 胸でも良いし手でも良い!! 婚約者なんだからそれぐらいは許しておくれよ……!」
「え、えぇ……えっと、その、ええっと……」
「エミリー! お願いだよエミリー……!! 元はと言えば君が勝手に勘違いしたからだろう!? 俺はエミリーとゆっくり話し合うつもりだったのに……! 同意を得ようと思っていたのに……!!」
「~~~っ、わ! 分かった! 分かったわよ!! でも挿れるのはナシっ……!」
「エミリー……!」

 同意してしまった。ついに。
 泣きたい。
 ソファーに座るイーサンは「はぁはぁ」と荒い息を立てている。
 一体どんな方法で鎮めてくれるのかと期待して聞いてくる。
 死にたい。
 今なら死んでもいいし殺されても良いかも。
 ハァ、と大きく溜息をついて、私はイーサンの目の前に座ったのだ。
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