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一方の別れ

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「お義姉さまったら何処行ってやがったんですかもう!!」
「ごめんなさいね。でもどーーしても気になっちゃったのよ」
「何が」
「クリスティーヌって女が」
「は?」

 フフン、と何故か自慢げに赤毛とドレスのリボンを靡かせるお義姉さま。異国のリボンは舞えばきっとひらひらと美しいだろう。

「気になるも何も。まさに都会の淑女って感じで私とは比べ物にならないぐらいフっツーに可愛らしい女の子ですよ」
「んなあにがフツーよぉ! ありゃ相当な女狐だわ」
「はあ??」
「追い掛けちゃったのよね~、アタシ」
「追い掛けた?? 誰をですか? まさか旦那様を??」
「そう♪」

 旦那様がクリスティーヌ様と再会したときお義姉さまは居なかったはず。
 クリスティーヌ様はそれからすぐに体調が優れないからと二人して庭園へ行ったのよね。それを見掛けてついて行ったのかしら。

「なんて悪趣味……。お義姉さまもホント好きですね」
「当たり前じゃない! 真実の愛以外認めないわ! 情熱的で真っ直ぐ! それが太陽のアデレードよ!! ねっ、ノーマン♡」
「は、恥ずかしいよ……アデレード……」

 太陽のアデレードが乙女の顔をして腕に抱きつく男性。有名な弁護士、夫のノーマンだ。如何せん義姉の存在感が大き過ぎて見落しがち。

「え! やだぁ! ノーマンさん居たんですか!? 一体いつからぁ!?」
「最初から……」
「んもーー、挨拶ぐらいしてくださいよ~! 久し振りですね、相変わらず影薄いから全然気付かなかったですよ!」
「挨拶……したんだけどなぁ……」
「あらそう?」

 瓶底眼鏡で七三分けでこーんなにも地味なのに羨ましいぐらいお義姉さまはべったり。弁護士で不誠実は許さない彼だからお義姉さまの元カレよりよっぽど安心。
(うちの旦那様も、まぁほんのちょっとは見習ってほしいかな)

「ところでアタシの可愛い義妹いもうとよ! よくお聞きなさい!」
「はい?」
「よくやったわ!」
「……は? 何がですか?」
「それは今夜帰れば分かる!!」
「はい??」
「勝利の祝に共に踊ろうじゃないの!」
「は??」

 全く理解が追いついてないのにお義姉さまったら私の手を取りホールの中心まで引っ張って行く。
 太陽のアデレードが得意なのは異国の踊り。靴は脱ぎ揃え、互いに一礼。男女も年齢も身分も関係無い、皆が楽しめる賑やかなダンスだ。
 お義姉さまが合図すると楽団員も楽しそうに異国のリズムを奏でる。
 色々気になることはあるけれど、本人も随分と楽しそうだし。
(ま、いっか!)





 ──って思ってたけど全然良くなかった。
 何故ならパーティーが終わって屋敷に帰ると旦那様が居るから!!

「たっだいまーー! いやぁ~~、みんな聞いてよー。なんだかお友達がいっぱい出来ちゃってさ~~、って、なんか居る!!」
「エマ……何故そんな反応なんだ……。ここは私の屋敷だから居てもおかしくはないだろう……?」
「しかも暗い!! キノコが生えてんじゃねぇかってぐれぇジメジメしてやがる!!」
「エマは元気だな……」

 本当にキノコが生えそうだから、コソリと『あのヒト何なの?』とメイドに聞けば「クリスティーヌ様とお別れしたそうですよ」と大声で言う。
 そりゃあもうおったまげた。すったまげるぐらいオッタマゲた。

「わ、わ、別れたんですか……!? だって、ついさっきまでベタベタしていたじゃないですか……!」
「ッ…………悪いか」
「いや、そりゃあ……悪かぁねぇけどよォ……」

 反射的に出た言葉で笑われる新妻。
 というか笑っていい状況なのかしら。旦那様は明らか傷心に見えるのだけど。
 シルバーとマリーゴールドなんて呆れちゃってるし。

「え……? ていうか別れたからってこの屋敷へ来なくとも……。フツーに別邸に帰れば良いのでは」
「ッ、それは……」
「こんなときぐらいさ。一人でさ。勝手に嘆き悲しんどいてほしいっつーか」

 別れるのは勝手だけど不倫してた分際でジメジメに巻き込まないでほしい。
 こっちまで気分が落ちるし天日干ししたくなる。

「ぶふっ……! やだもー! 奥さまったら辛辣ー! 向うに帰れるわけないじゃないですかー!!」
「え? どうして?」
「だってあの別邸は旦那様がクリスティーヌ様へ贈ったプレゼントですもの! 名義はクリスティーヌ様ですし!」
「ナニソレ。旦那様ってなんか……ホントどうしようもないですね」
「ぐ……ッ」

 言い返せない旦那様。
 ガクンと肩を落として余計にジメジメしだすから、これ以上口を滑らせて巻き込まれる前に離れよう。
 ジュエリーを外し結った髪を解いて湯に浸かってサッパリして、ちょっとだけお酒飲んで、それで寝る頃にはちょっとはマシになってるはずよ。ね?
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