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下準備
しおりを挟むこんにちはと扉を開けるが中に客は居らず、張り切った店員とショップの香りが私たちを迎える。華やかだけどとっても品のある香りだ。
「さっそくですがこの似合わないドレスをとにかく早く替えたいので何点か試着させていただきます」
「はい!? えっ、あ! かっ、畏まりました!!」
「はい奥さまー、此方ですよー」
さすが元ブティック嬢アンナ。ドレスを手際よくピックアップしていく様に当の私は棒立ちしか出来ない。
慌てて試着室へ案内する店員と背中を押すナタリー。
理由も分からぬまま脱いでは着て脱いでは着てを繰り返す。
クローゼットに掛かっていたドレスとは全然違う。キラキラでシュッとしててちょっぴりセクシー。
「奥さまのメリハリボディとドレスのスレンダーなシルエットが合わさってすごく素敵です。それにサウンズブルーの姉妹ブランドだけあって落ち着いたトーンが奥さまの赤毛をより美しく際立たせてますね。涎が出ます」
「ね! こっちのシンプルなドレープも美しい背中を拝めて眼福なんですが、このスパンコールのドレスはスリットが入ってて奥さまのスンバラシイ太ももがより魅力的に映ります」
「あなたたち語彙力すごいわね……」
「いえ誠に仰る通りで御座いますよお客様。こんなに着こなしていただけるとは! サウンズブルーをお好きなお客様はまだゴージャスには一歩踏み出せないようで……。その一歩がねぇ~、踏み出せばもっと美しくなれるのですけど……」
「本当に最近出来たばかりのブランドなのでどんなイメージの方が似合うのかなと斜向かいから見てましたが……。まさか我らが奥さまだったとは。感慨深いです……」
ウンウン、と無言の頷きを繰り返す三人。なんだか想像していた都会の貴族女性とはイメージが違うけれど。似合ってるなら、良いのかな。
コルセットしてひらひらしてレースとかリボンとか日傘とか大きな帽子とか、着るんだと思ってたのに。
(…………それってクリスティーヌ様まんまね)
「ん? 斜向かい? あら。そういえば何処かでお見掛けした方だと思いましたが以前セントアンジェラでお勤めしていらした方では御座いませんか。確か店の要をポートマン侯爵家に持ってかれたとオーナーが嘆いていらしたような……」
「はい。現在はポートマン侯爵家に仕えております」
「……そう、なんですね」
不思議そうに私をちらりと見るものだからナルホド、気付いちゃったわ。結婚相手をクリスティーヌ様だと思っていたのね。
気付きに確信を得るようにナタリーは「ポートマン侯爵家の歴とした! 奥さま、エマ様でございます」と紹介する。
貴族が行き来するこんな場所でも勘違いされているなんて私たち夫婦はかなり深刻なのかしら。
「我らが奥さまは再来週の王族主催パーティーに義理のお姉さまが参加なさるので久し振りに会いに行ってきますねと旦那様に伝えようとしましたが聞く耳持たずで更に屋敷には奥さまに似合わないドレスばかりなので今日此処へ来た次第です」
「成る程。察しました。全力でお手伝い致します。オーナー! オーナーちょっと来てくださいー!」
扉を挟んですぐ隣のサウンズブルーへ呼びに行く店員。ものの数分で「ざまぁのお手伝いで御座いますね!?」とお洒落な眼鏡を掛けた先生のような女性が現れた。
どうやら私はパーティーでざまぁをするらしい。お義姉さまに会いたいだけなんだけどな。
「それにしても……辺境の地でも都会でも女の勘ってどうしてこうも恐いものなのかしらね」
「フフフッ、そんな野暮なこと聞くだなんて奥さま。不躾ですよっ」
「あら。ごめんあそばせ」
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