悪役公爵様はイケボです。

ぱっつんぱつお

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運命ですか?探してましたので運命だと思います。

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 そこは美男美女が大変多く存在する国であった。
 いや、全国民が美男美女と言ってもいい程、他の国からして見れば顔面偏差値の高い国。
 これは盛り過ぎでもなんでもない、紛れも無い事実だ。
 目鼻立ちの整った男女が互いに惹かれ合い、また整った顔立ちが生まれてくる。
 美の遺伝子は、着々と受け継がれていった。

 剣や魔法が存在する国、レムファー王国。
 この世界では大変な小国であったが、『レムファーと言えば美男美女』だと言われるほど、ハイブランドの様な国だった。


 ………そんな国で、近頃よく見かける設定の転生者が現れた。

 神々しい光の柱と共に現れた彼女、〈轟 紫音とどろきしおん〉は、二十一歳になったばかりの大学三年の夏、熱中症で倒れて前世を去った。
 未練タラタラのまま死んでいった彼女は、その姿のまま、この世界に降り立ったのだ。

 紫音は、綺麗な顔立ちであった。
 この日の為にと切り揃えたぱっつん前髪に、丁寧に手入れされながら伸ばした艷やかな黒髪と、加工されていない綺麗な二重。
 胸は元々豊満であった為、形を保つために筋トレは欠かせなかった。
 お尻の筋肉も一生懸命鍛えて、パンツスタイルも見事な着こなしだった。
 メイクも好きで、他人に施すほど上手であった為、女子からも尊敬された。
 しかしそれらは全て趣味であり生き甲斐であるコスプレの為だった。

 もうひとつ紫音には性癖があった。
 それは声だった。
 夜な夜な声優のドラマCDを聴き、悶る日々。
 隣に並べば誰もが羨むような彼女で、異性ともそれなりにお付き合いしたのだが、如何せんその趣味について行けず、1年程で別れていた。

 つまりオタクだ。
 全ては、趣味の為なのだ。
 恋人の為だなんて以ての外。


 そう──。

 和装の作り方や、生地の感触までしっかりと再現し、ゲームのキャラに忠実なちょっぴりエロい和服のコスプレで参加した夏のコ○ケ。
 くらりと視界がぼやけ、「ッあー、死んだわこれー」と思った次の瞬間──、目の前には麗しき面々ツラヅラ



 これは紫音が、『レムファーと言えば美男美女』と囁かれる国で、主要キャラであろう人物達からある程度好感度を得たところから始まる物語。




 ────「只今戻りました陛下。」


「ふん、戻ったか公爵、御苦労だったな。 お前にも、彼女を紹介せねばならんと言う事か。」


 とある午後、
 執務室にての事だった。


「陛下ぁ~、こんな穢れた男、ホントに紫音に紹介しなきゃなんないのー?」
「出来れば紫音殿には汚いものと関わらせたくないのですが。」
「もし紫音様を泣かすようなことがあったなら、この俺が容赦せん!」


 美男美女の国、金髪碧眼でトップになったばかりの若き国王も、
 この国一番優秀な、腹黒ショタ魔法使いも、
 口は悪いが根は優しい緑髪片眼鏡の宰相も、
 大国とも渡り合える短髪筋肉剣士も、
 この物語にはどうだって良い。


「ご安心下さい、私めの様な汚らわしい人間に、見向きもする筈ありませんでしょうから」


 重要なのは、今言葉を発した長身黒髪紫眼のイケメンだ。


「とか言ってー、もしかしたら好かれるかもーとかー、リアム様もどっかで期待してるんじゃないですかー??」
「黙れ小僧。 貴様より大人だ、それぐらいは弁えている。」
「わー、こわーい」


「戯けはそれぐらいにしとけ」と、金髪碧眼の国王。
 そう言って緑髪片眼鏡の宰相に、転生者である紫音を呼ばせた。


「今はティータイムの時間だ、来るまで暫く時間が掛かるだろう。 リアムはそこに座って暫し休まれよ。 おい、誰か茶を、」
「有難うございます。」


 このリアムと言う公爵。
 他国からしてみればそれこそ顔面偏差値が高すぎる人物だが、平均の美が高いこの国では少し扱いが違っていた。

 政治には汚れが伴う。
 策略を練り、人を貶め殺める。
 そんな汚れ仕事を行っているのが彼だった。
 元々の目付きの悪さや、人を寄せ付けない孤高のオーラが、彼と他人の距離をどんどん広げていった。
 誰かを助ける魔法使いや、誰かを守る剣士とは違う。
 しかし誰かはその仕事をしなければならない。
 彼自身も望んでなった訳ではないが、生まれた家系が悪かった。

 リアムは三十を目前とした年齢だったが、誰も彼と結婚などしたく無かった。
 他国へ出れば持て囃される彼だったが、自国では『穢らわしい恐ろしい』と噂をされる。
 それに慣れているとはいえ、年も重ねてくると、そろそろ寂しいと感じてくる。
 公爵の立場なら、誰かと無理に婚約する事もできるのだが、彼は強要などしたくなかった。

 今回も、国では地位の高い公爵と言う立場なのに紫音と面会するのが一ヶ月も経ってからだったのは、他国に逃げたスパイを追い詰め殺めていたからだった。



 ────コンコン、


「入れ。」

「紫音です。 こんにちは、陛下。 今日も良い天気ですね。」

「あぁ、紫音……!今日も君は美しいね。」

「ふふふっ!毎回言うんですかそれ……!」


 にこりと微笑む彼女に、この部屋に居る男達は皆浮足立っているようだった。

 聞き慣れない親しげな挨拶と会話。
 美しい顔立ちは見慣れている筈なのに、世界が違う人間だからなのか、漂う雰囲気がミステリアスで、オタク活動という情熱がぽっかり空いた彼女は、何処か儚げであった。


 リアム公爵は飲んでいたティーカップを置き、立ち上がった。

 すると彼女は驚いた様子で、「あ、ごめんなさい、他の人が居るって知らなくて……」と申し訳無さそうに頭を下げた。


「紫音、君が頭を下げる必要はないんだよ。 私達が呼んだのだから。」


 陛下の甘ったるい声に、リアムは寒気を覚えた。
 何せ今まで聞いたことないような優しく甘い声なのだから。
 そんな声を出すから、陛下の婚約者も怒っているのかと納得した。


「紫音、君にはあまり紹介したくはないんだけどね、此方はリアム・クルーガ公爵、我々同様国では重要な人物だ。けど汚い仕事だから、紫音はあまり関わらないほうがいいよ。」
「轟 紫音です。 宜しくお願いします。」


 また頭を下げる彼女。
 陛下の紹介を預かり、リアム公爵もまた、頭を下げだ。


「他の方が話している噂を聞いただけなんですが、実際はどんな仕事なんですか?」


「君は知らなくて良いんだよ」と、また甘ったるい声の陛下。
 しかし目を見て質問している彼女に、リアムは仕方無く口を開いた。


「陛下の仰る通り、貴女様は知らなくて良いことです。」

「──ふぁっ……!!?」


 素っ頓狂な声を上げて、彼女は驚く。
(ただ、質問に答えただけだったのだが……)

 紫音のその様子に、声を掛けたリアムも、
 ベルベットの椅子に座る陛下も、
 しゃがんで上目遣いで彼女を見つめていた魔法使いも、
 ツンデレキャラとして確固たる地位を築いている宰相も、
 更には幾重もの戦場で勝利を上げてきた剣士も、誰もが驚いた。

「どうしたんだい?……紫音?」と問い掛ける陛下の声は、彼女には届かない。


「へぁ……!? え、え……!? あ、あななななななた、え、え……!?」


 『とんでもないものを目にしてしまった』と言う様に、両手を震わせリアム公爵を見つめる紫音。

 リアム自身、そんな目にも慣れていた。
 『あぁ、またか』と、『結局は誰も』と、現実を突き付けられる。


「ふん、リアム、残念だったな。 もしかして本当に期待していたか?」
「ぶはっ……! おっかしーー……!!さっすが紫音……! 穢らわしいものってやっぱ分かるんだーー!」
「ふふ、どの世界でも同じようですね、紫音殿はやはり素晴らしい瞳をお持ちだ。」
「てんめぇー、紫音様を今度恐がらせてみろ……! この俺が只じゃ──!」


 と、剣士が鞘に手を掛けたところで、物語は加速する。


「な、ななに、そ、その声……!」
「え、声……、ですか……?」
「ぐはっ……! や、やばい……!すわべさん……!?すわべさんなの!??」
「リアムですが……」
「いやあぁ!! ほんとやばい……!!その声はまじでっ……!!」

「紫音?」
「え? 紫音ったらどうしちゃったの……!?」
「紫音殿?」
「紫音様! こやつが何かしましたか……!」


 其々が彼女の名前を呼ぶが、誰の声も届いてはいない。
 床にへたり込み、息が荒くなる。

 さすがのリアムも自分のせいだと確信して、立ち上がるのを助ける為、手を貸そうとしたが、短髪剣士の剣で「近づくな」と、制された。
 紳士としては当然の行いをしようとしたリアムだが、己が汚い事ぐらい分かっている。
 だから、足を止めた。


わたくしの声がお気に召さないようなら、これ以上……」
「いやッ……! むしろ逆だからッ……!」


 『近づかぬように致します』と、そう言おうとしたのだが……、


「え?」


 むしろ逆だと言う。

 むしろ逆とは、どういうことだろうか。


「あ、あ、ああの……!! 名前っ……!名前を呼んで下さいっ……!!」
「え、………紫音様……?」
「ひやぁああっ……! あぁっ、だめっ、声だけでイッちゃう……!!」
「………は?」
「んんんーーー……!その表情っ……!」

「し、紫音……? こ、声だけで、なんだって……?」
「紫音??」
「紫音殿……?」
「紫音様……!?」


 陛下から順に彼女の名前を呼んでいくので、つられてリアムも「紫音様?」と、また名を呼んだ。


「あぁっ……!! いやっ、もっ、だめっ……!! んん、ほんとやばいっ! 濡れちゃうっ……!」


「はぁ、はぁ……」と荒い息に、恍惚な表情。
 へたり込んで両手は自身の股を押さえている。

 誰がどう見たって、発情したメスだ。

 部屋に居たオス共は、紫音のその姿に、
 思わずゴクリ─と、生唾を飲んだ。


「あ、あのっ……! 初対面でっ、その、不躾かとは思いますがっ……!」


 肩で息をしながら、今にも絶頂に達しそうな彼女。
 彼女はただ、リアム公爵だけを見つめていた。


「そのっ……! わ、わわわたしと……! 結婚して下さいッ───!!!」





 ・・・・・・・・・・・暫しの間。




「「「「はぁああ……!!?!?」」」」

「………は?」



 ひと目もはばからず溺愛してくる紫音のお陰で、馬鹿にしていた周りの男達には羨まれ、蔑み軽蔑していた周りの御令嬢が徐々にリアムの魅力に気付いていくのは、
 また、別のお話。
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