上 下
13 / 13

会えない時を育んで

しおりを挟む
 
 初めて自分の顔を見た──。
 なんと言ったら良いのか分からないが、これがワタシと、その言葉しか出てこない自分を、自分と認識するので精一杯。

 これを君にと差し出されたのは、見たこと無いほど美しい箱だった。それを恐る恐る開けると、月光に反射し、目が眩むほど輝いていた。
 手に持つと、ひんやり冷たく、重さを感じた。私には高価で勿体無い、彼から頂く、それだけで重い。震える手で美しい鏡を支える。

「ほんとうに……これを、わたしに……?」
「ああ勿論。エラに似合うように作ってもらった。……気に入ったかな?」

 こんな素敵な品が気に入らないわけがない。エリック様のような御方に贈られ、気に入らないないなんて事、あり得ない。
 嗚呼、これは私の宝。
 誰にも盗られたくない、私の大事な宝物。

 まるで身体の一部にでもしようかというほどに、その鏡を抱き締めた。
 それから毎日、毎日、その鏡を見つめた。そこに彼が映っているかのように。会えない日は毎日。


 ──10回目の満月は曇りだった。
 その次と、その次の満月が終われば、私は成人する。
 16歳、つまり身売り出来るようになるのだ。
 そうすれば、此処とは違う町へ行き、そこで暮らすこととなる。この泉とも、さよなら。

 父が死んでからもう2年……。エリック様と出逢ってから1年が経とうとしている。
 振り返れば色々なことがあった。

 想像以上に泉の効果は身体の成長を促した。
 骨と皮だけで出来ているのではないかというほど痩せていたが、肉は付き、年齢相応の身長にも伸びた。
 胸も膨らみ、毎日お役所まで歩いていたお陰か、程よい筋肉もついている。
 ただ髪を切れるハサミが何ヵ月前かに壊れたので伸びきったままだ。しかしそんな髪も泉に浸かれば、瞬く間に輝きに満ち、泉の近くに咲いている花の絞り汁で香りや艶も良くなる。

 どうか、成人年齢になる、その前の満月だけは、晴れて欲しい。だって身売りするのだから綺麗な身体で行った方がきっとより多くお金が貰えるだろう。
 エリック様と会えなくなるのは悲しいが、これから自分で生きていく方が重要だ。

 あと2回の満月。どうか、どちらも晴れますように。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中

白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。 思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。 愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ 向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。 アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。 そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___ 異世界恋愛 《完結しました》

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...