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星を映す鏡【王子視点】
しおりを挟む「今夜は晴れらしいぞ」
「本当に楽しそうですね。以前の貴方とは大違い、人が変わったとはこういうことを言うのですか」
「いちいち嫌味ったらしい。ああ……しかし……、これを渡すのが本当に楽しみだ」
そう言いながら高そうな箱に入れた、それはそれは綺麗な、まるで星を散りばめたかのようなダイヤの装飾が美しい手鏡を、箱から出しては仕舞い、出してはまた仕舞いと、繰り返し眺めていた。
美しく磨きあげられた銀。そこにダイヤと、一粒だけ青い宝石が埋められている。この青い宝石は、通常のサファイアとは違い王家しか許されない特別な宝石だ。
聖なる泉の直ぐそばで希に見付かる宝石は、日光が当たると淡い紫色に輝くのが特徴だ。
「しかも、良いんですか? 紫光石なんて使って……。王家しか許されないものでしょう。それを贈るなんて、そういう意味ですよ」
「んー、貴族らに知られたら相当怒り狂うだろうな。……でも、贈りたいと、思ったんだ」
「そうですか。まぁ、お好きになさったら良いですけど。ただひとつ文句を言うなら、私でさえ貰ってないのに! ですね」
「…………気持ちの悪いことを言うな。それにウィルは別にこんなもの興味ないだろう」
「おや、バレましたか? もしも下さったなら遊び相手がもっと増えてくれそうなんですけどね」
「そんな奴にはやらん! というかお前は王家になるつもりか」
「そうですねぇ。乗っ取るのも悪くない」
「ウィルならやりかねないから怖いな……」
紫光石を持つものは王家であるという証。不思議なことに瞳の色にも現れるのだ。どれだけ血が混ざろうが、王家の瞳は必ず碧眼。
だがもっと不思議な事に、王家に生まれ、碧眼であろうと、その宝石のように淡く紫に輝かなければ王にはなれない。
かつて妖精が視える者達が国に居た頃。そして視える者が王家に助言をしていた頃──。
碧い瞳が光に当たっても紫に輝かなかった第一王子が、「あいつらが王家を、この国を操っている!」と、その者達を迫害し、無理矢理に王の座へ就いた。
視える者を迫害した第十五代目アダムス王は、天災やその後に来る不作、疫病への対応、そして国民の不満が最大限になった時、隣国に攻め込まれ、命を落とした。
その後は、元々瞳に片鱗を見せていた王家の長女が女王に。この国一番と謳われるほど美しい妹は隣国に嫁いで、事なきを得た。
国の歴史書でも有名な話だ。
己の瞳も、日光に当たると淡く紫に輝くので、王になることは間違いないだろう。
しかし、エリックはただ漠然と、人生の義務のように、この国の王になるんだと、そう思っていた。
エラをこんなに想っていても、その先のことは実を言うと考えていない。周囲では婚約者争い、つまり未来の王妃になる為、作法に知識に、勉強に励んでいる、もしくはそれを強要されている令嬢ばかり。
それを考えると、エラは……良くて愛人か。
愛人として迎え入れる事を自身は、いや、エラは望んでいるのだろうか。
“甘い”とか、“浅はか”だなんて、そんな事を言われるのは分かっている。解っていても、このエラに対する想いは、どうやったって止められそうにない。
──そしてその晩、満月の下。
「これが、わたし……」
「ああ。儚く美しい人だ」
鏡の中の自分を、それこそ穴が開くほど眺めている。
初めて自分の顔を見た瞬間、あの瞳の輝きは、どんな宝石や星よりも美しかった。
「本当にこれを、わたしに……?」
「ああもちろん。エラに似合うように作ってもらった。……気に入った、かな」
我ながら自信も無く聞いてみる。
相手の事を考え、これを贈りたいと思った。しかし実際渡してみると不安になる。
こんな想いを隠し、私達は好きでもない相手と結婚するのか?
一体何の為に?
「っ、気に入っただなんて、言葉じゃ、言い表せないくらい!こんな、素敵なもの……!」
ぎゅっと、やわらかな胸に、贈った鏡を抱き締める。
本当に私なんかが貰ってもいいのですかと、念を押して聞いてくるから、先程と同じように「ああもちろん」と微笑んだ。
「ありがとうございます。まるで夢のよう……。私の、これは私の一生の宝です……!」
噛み締めてエラは言う。嘘偽りのない言葉。
これくらいで大袈裟だよなんて笑ってみせるが、そうなれば良いと、私は強く思っていた。
エラの、一生の宝が、私が贈った物であることを。
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