異世界情報収集生活

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

183.嘘をつかせぬその瞳 最高神視点

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「…いかがいたしますか。」

唯一僕の側近である存在は、普段の気やすい雰囲気の代わりに真面目な雰囲気を纏っている。


僕らの目線の先には地上のとある国の様子が映っている。かの国の日常であり、他国にとって地獄のような当然の日々が、流れていた。彼は静かに怒りを携えて、そこをじっと見ている。

「彼女のことだ、依頼はしっかりこなすだろう。問題は神威の使用…。」

彼女はサラリと言ってくれたが、本来面倒な手続きを踏んで、周囲の影響を考えて使っていいかを調べてから使うものだ。

思わずため息がこぼれる。

「そう簡単に使えるものでも、許可を出せるものでもないんだけれどね。」

「どうされますか。」

再度そう問われるものの、どうしたらいいかなんて分からない。


神威


文字の通り神としての威厳を纏い、人に自分が神だと本能に訴えかけるものだ。

人は都合のいいものを信じ、時に神に暴言を吐き、時に神にすがりつき無意味な懺悔を繰り返す。

そんな神を都合よく使い都合のいい時だけ信じる人に対し、自分たちの存在を認めさせるために使うのが神威。

「本来一定の力を持つ神ならば使えるものだけれど、力の弱い神に対しても悪影響が出るほど強い力。人間に対して使えばよくて自我崩壊、悪くてショック死。そんなものをおいそれと使うわけにはいかないんだけれど…。ああもう!!」

「最高神様、口調が乱れておりますよ。言いたくなる気持ちも分かりますが、自分達が実感できない力は理解しづらいのでしょう。だからこそ、千利も深く考えずに私に神威を使うよう依頼をしたのではないでしょうか。」

「そう思うけれど、そう思わない僕もいるんだ。君は彼女と目を合わせたことはあるかい?」

「…一度だけあります。」

「感想は?」

「申し訳ありません。その時は気が動転しておりまして、よく覚えておりません。」

少し目を伏せてからこちらを見た側近は、水に濡れた犬のように小さく見える。
初めてしっかり話した時のことを思い出しながら、話す。

「彼女はね、どこまでもまっすぐにこちらを見るんだよ。普段は飄々と道化を演じる癖に、真剣な時はどこまでも真っすぐにこちらを見てくるんだ。嘘も言い訳も何も許さない、真実を、本心を言えとその目が訴えかけてくるんだ。」

彼女の瞳を思い出す。

「彼女はバカじゃない。地位が高ければ高いほど、権力が大きくなればなるほど、個人の自由がなくなることを知ってる。それに慣れた存在ほど、自分の意見を隠して心の奥底にしまい込んでしまうんだ。彼女はそれを許さないんだよ。最善ではなく、最良でもなく、自分はどうしたいんだと問いかけてくる。」

そのくせ、彼女の本心は全く分からないけれどね。

今回だって彼女はなぜ、わざわざ神威の使用を求めたのだろう。

彼女の知識があれば、今回の件を自分たちだけで実行して終えることだって可能だった。

そうこぼすと側近の神は目を閉じて、少し考えて、答えた。

「彼女は一流の殺し屋でもあります。潜入やターゲットの信頼を得るために培った技術はどれも最高レベルです。そんな彼女が本気で隠そうとしているのであれば、私たちには分からないでしょう。」

どこか慰めるように側近は答える。

「まぁいいよ。バカ女神の件といい、彼女の武器の場所といい、彼女には借りがある。精霊妃への信仰や地位が揺らいでいることは知っていたが、信仰が無に近いほど減っていたことも彼女が精霊妃であったことも知らなかった。彼女へ借りを返す意味でも、今回はあの害虫どもを黙らせて来るよ。」

生きている人間の観察や人間の生前・死後しか関わらない僕達では、権力や血筋、階級に身分と複雑になっていく人間社会を読み解くのは難しい。

なら、それに慣れている彼女に、精霊妃小鳥美に任せよう。

「君は一足先に地上に戻って彼女の手伝いをしておくれ。神威は10秒もあれば十分だと思うけれど、彼女に確認を取ってほしいんだ。連絡さえしてくれれば君は戻らなくていいからね。許可は出しておくよ。」

「かしこまりました。では、こちらをお渡ししておきますね。」

側近はいつの間にか書類の束を持っていて、僕の机にドサリと置いた。

「…これは?」
「では、失礼いたします。」

こちらの問いかけにこたえることなく側近は消えてしまった。
一番上の書類に目を通せば、これから話しに行く老害虫共の悪事の証拠が分かりやすく書かれていた。

「……まさかこれ全部……?」

無言で全ての書類に軽く目を通して天を仰ぐ。

結構な分厚さの書類全てが老害虫どもの悪事の証拠と、彼らに苦汁を飲まされ神としての追放を願う者達の嘆願書。

………。

怖い。素直に側近の能力と、脳裏にちらつくあの子の姿が怖い。

だが……これで話し合いはスムーズに進むだろう。

早速会議を行うと老害どもを呼びつけ、書類の束を浮かせ歩き出す。

予想通り文句がギャアギャアと出てきたが、「どうせ暇だろう?」の一言で切り捨てる。

「まぁ、いいか。」

脅迫?
知ったことか。

彼らが言う「話し合い」に合わせてこちらも「話し合い」をしに行くだけだ。

「…僕だって、頑張らなきゃね。」

彼女は常識さえ知らなかった世界の中で、自分の知識をフル活用して、もがいている。

帰りたい、帰らせろという叫びを心の奥底に響かせながら、どうでもいいというこの世界のために動いてくれている。

「………。」

僕は最高神。
全ての神を統べる存在。

「僕だって、やるときはやるのさ。」

そう呟いて僕は扉を開き、話し合いの席に着いた。
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