異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

172.気付いた時にはもう遅く 一心視点

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騒がしい廊下にノックの音が響き渡る。続く凛とした声に少し背筋が伸びた気がした。

「副騎士団長、一心殿が参られました。」


「通してくれ。」

扉を開けてもらい、中へ招かれる。

書類をさばく手を止め、私のそばに来て男性は跪いた。

「お初にお目にかかります。一心様。青の騎士団にて副騎士団長を担っております…」
そう挨拶を続けようとした副騎士団長を手で制す。

「それ以上の挨拶は結構です。私もあなたも、跪く相手は一人でしょう?」

「…ですが………。」

「自らの唯一を守る者同士、そこに上下などありません。公式な場以外での礼儀など、最小限で構いません。」

「……かしこまりました。では、そのように。」

互いに癖になっているのだろう。敬語はそのままだが、少しはガードが緩んだ気がする。

しかしこちらに時間はない。簡易的に用意された椅子に座り、本題を切り出す。

「今日は突然来てしまい申し訳ありません。我が主の愛娘、ニアの部品の回収に参りました。」

「存じております。精霊妃様とて、愛娘の一部が他者の手にあるのは不安でしょう。一刻も早いニア嬢の回復を願っております。」

そう言われ差し出されたのは、何かで膨らむ上質な袋。

念のために中を確認すれば、予想通りにニアの部品が入っていた。

(……大丈夫ですね。)
こちらの部品も細かい傷はあるが、表面を削ればどうにでもなる範囲だ。

「確かに。先ほど回収した物と合わせて、これで全てです。」

「先ほど回収したもの……。」

その言葉を正しく判断したのだろう。一言謝罪をして、

「かしこまりました。直ちに状況を把握し、適切な処罰を下します。」
と呟いた。

「ええ、お願いいたします。主犯はクィラッツ伯爵家の次男です。本人がそう名乗っていただけなので、本当かどうかは分かりません。加えて、副犯が一人。こちらは青ざめた様子でしたから、自分のしでかしたことを理解しているのでしょう。自白は早いかと。」

(まぁ主犯は本人でしたが。)

「了解しました。できる限り重い罰を下します。」

「お願いいたします。きっと、精霊妃様もそれを望んでいるでしょう。」

「これ以外でもご協力できることがありましたら、何も遠慮はいりません。お申し出ください。必ずやこの大陸に住まう貴族として、いいえ、人間としての義務を果たしてみせましょう。」

眩暈がするほど真っすぐで、それでいてすみ切ってはいない瞳

(本来であれば、これが通常の対応なのですけれど……はぁ。)

馬鹿どもが多すぎた中でのこの対応は少し安心するような、かえって狂信されているような気さえしてくる。

(まぁいいでしょう。害にならないタイプの盲信のようですし。)

「ここからは他言無用でお願いしたいのですが……一つ、お聞きしたいことが。」

「何でしょうか。」

「警護のために王城の部屋にて検査を行ったのですが、メイドと執事長の部屋に毒が盛られておりました。」

「……まさか、そのようなことが。」

「何かご存じありませんか。」

「……お二方とも、以前から真面目に働いている者達です。ならず者の対応をしているため、恨まれていてもおかしくはありませんが……。」

(そんな輩は、毒を塗るために王城には入れないだろう。)

ふいに窓のカーテンを閉めて、防音魔法を重ねがけし始めた。

「……これはあくまでも独り言ですが……。」

そう言って副騎士団長は話し始めた。

普段から赤の副騎士団長と情報共有を重ねる会合を何度も行っていること。

そのうちに、騎士団長達に精霊に関する教育を含め、ほとんどの教育が行われていないこと。

それどころか、基本的に学ぶ教養すら怪しい事に気づいたこと。そして、そんな二人が教育をしているらしい殿下の状況は、いったいどうなっているのか心配になったこと。


「そんな、混乱していたから時だからでしょうか、思ったことを口に出してしまいました。」


陛下は知っておられるのだろうか。


(ふむ……)


「……二人で顔を青ざめました。」


(思った以上に、使えるかもしれませんね。)
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