異世界情報収集生活

ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

164．たまには雑に 一心視点

あれからどれくらいの時間がたったのだろうか。

目の前の執務はようやく最後の一枚となり、腕を出したかいはあったと再度自分に理解させる。

しかし、この部屋以外の執務と精密検査していない部屋の数々を思い出すとげんなりしてしまう。

(……まぁ、いいでしょう。ひとまずこの部屋は終わりましたから。)

この部屋にもう用はない。

出していた腕をさっさとしまい、洋服を整えて書類をまとめて置く。
私とマスターならばすぐに分かる仕分け方。これでバカがいじったらすぐに分かるだろう。

置き土産として椅子のクッション内に盗聴器を仕掛けてから整え、堂々と部屋を出ていく。

(さてでは……公爵や伯爵の部屋を調べるとしましょう。ああ、騎士団まで足を延ばしてもいいですね。あの馬鹿二人が仕事をまともに行っていなかったということは、副団長はまともなのでしょうか。)

先ほどデータにした貴族一覧のフォルダを探り、副騎士団長の項目を確認する。

(おや、思った以上にまともですね。団長であるあの二人よりも有能で使えそうです。)

よくも悪くもこの世界の貴族らしく、父親からの教育を受けているようだ。

また、副騎士団長の地位にいるというだけあって、剣術にも優れているらしい。

(それが今や事務員の代わりですか。お可哀そうに。)

しかし第一は伯爵家の使用する部屋の調査だ。使用された毒がわずかでも残っていれば、解毒薬作りがはかどる。

(では、お邪魔いたしますよ。ミーロト伯爵。)

心の中で呟いてから、扉に手をかける。

が、ガチャリという音が響くだけで扉は開かない。

「………。」

鍵穴は見当たらない。この世界なら魔法的な要素で鍵がかかっててもおかしくはないが、それならば音はしないだろう。

考えられるのは当然、物理的かつ原始的な手口。

(………面倒ですね。)

あたりに他の人間がいないことを確認して、手袋を外し扉の隙間に手を当てる。

扉の隙間をなでて幅を計測、そして予想通り邪魔をする木を確認して……

両断。

………

(予備とはいえ無音で切り落とせましたね。)

期待はしていなかったが、気付かれずに切り落とせたのはいいことだ。

(では改めて、お邪魔いたしましょう。)

誰もいない部屋を開け、毒の検査に取り掛かった。