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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
162.甘美な毒 一心視点
しおりを挟む改めて執務室を見渡し物の場所を把握していく。
部屋の中央奥には国王のための椅子があり、それを埋めるように大量の書類が積み立てられている。
そんな椅子にためらいなく座り書類を浮かせ、背中からも手の代わりになる義手を翼のように広げる。
目の前にある書類を全て片付けても終わらない量の書類を裁くためには、こうするのが最適だ。
理解はしている。
(あまり綺麗な姿でもありませんし、人間らしさはないですからあまり好き好んで使いませんが……………。まぁいいでしょう。どうせ誰も見れませんから。)
ガシャガシャと音を鳴らしながら書類は片付けられていく。
(この部屋が終われば次は公爵の部屋を確認して、いや、伯爵の部屋に行くほうが先ですね。)
公爵は国に忠誠を持っていた場合、執務はしっかり行っていると考えられる。
しかし、伯爵は国であれガストロ=ライミリであれ忠誠を持って行動しているわけではないだろう。
(私欲のために書類が改ざんされていることは明白。ならば改めて、何がどう改ざんされているのかを調べまとめ上げてくとしましょう。)
執務を行いながらそれを行う時間があるかどうかはさておき、必要になってくる書類を集めておくに越したことはない。
(まぁ、この山が終わった後の想定ですが。)
マスターが返ってくる前に終わるといえ、この書類の山を終わらせた後に必要な時間は取れるのだろうか。
(………それはそうと)
ガシャガシャと動く目障りな義手を睨みつける。皮膚カバーさえないただの鉄の腕は、目障りなことこの上ない。
………マスターもあまり好んでいないこの腕。もともと使っていたものと同じ見た目とはいえ、カバーの疑似皮膚が
ないだけでこんなにも嫌悪感が湧き上がるとは。
本来このボディはニアが緊急時に使う予定だった物。ということは、今ニアが使っているボディにもこの腕はついているのだろう。
(「大変便利ですね。作業効率が格段に上昇します。」)
そうニアは言っていたが、どうにもこの格好は好きになれない。
そう思ってからふと、可笑しくなって吹き出してしまった。
(人工知能が好き嫌いと語るとは!)
作られた当初の私ならば、そんなことは思わなかっただろう。
ただ効率とマスターの希望にそった答えを導き出して、淡々と仕分けをしていただろう。
それが今はどうだ。
あれほど使っていた確率の数字や秒単位の移動時間を言わなくなった。
その上、マスターの食事に毒を盛り、毒に苦しむマスターを監禁し、それをよしとしている。
こんなにも変わってしまった。こんなにも変えられてしまった。
私はどうやらマスターに毒されているらしい。
(ああ、ですが。)
悪くない。
そう思う私はもう、手遅れなのだろう。
(ニアはもっと早いでしょうね。)
彼女は私を元に作られた。一から感情を理解した私よりも格段に速く、人間らしさや人格がすぐに開花するだろう。
(ああ、楽しみですね。)
きっと数年後には何の疑問を持つこともなく、マスターを間に挟んでニアと喧嘩をするのだろう。
そしてきっと、そんな私たちを見て苦笑いをしたマスターは、どこか優しい笑顔を浮かべているに違いないだろう。
(いつの日か、きっと)
平和で騒がしい未来が来ることを願って、私は執務を続けた。
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