異世界情報収集生活

ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

160．届かぬ執事の思い 一心視点

時間は少し前。

(「ごめんちょっと出るから、お城関連よろしく。」)

「はぁ？マスター、どうい」

ブチッ

「………はぁ。帰ってきたら説教と行きましょう。」

マスターが突然どこかへ行ってしまわれた後、私はマスターがこの後行うはずだった全部屋の検査をすることにした。

(まったくどこへ行かれてしまったのか。大方、こちらに連絡を入れたとたんに精霊たちに何か報告を受けたのでしょうが……まったく。状況説明ぐらいしていただきたいものですね。)

マスターが突然いなくなってしまったのは仕方がない、帰ってこられるのは最低でも一時間後だろう。

そう見切りをつけて動けばなんてことはない。

そもそもこの時間は貴重なものだ。
マスターを小娘として見下している貴族がいないこの状況は、今後訪れないだろう。
マスターの執事として自由に動けるこの時間を、一分たりとも無駄にはできない。

すぐさま素早く、しかし優雅に動いて重要な部屋から調べていく。
最初に入ったのは国王の執務室。放置された大量の書類を横目に、足元に微弱な振動を流して床下を調べていく。

(この部屋は多少調べたものの、まだまだ一部しか調べられていない。マスターや既に毒に侵されている可能性の高い国王が使う部屋ならば、完璧に整えなければ。)

ひとまず床下に盗聴器の類はないらしい。

空気を採取し毒を検査していく。その間に隠し部屋が存在するか調べていく。

(……空気、よし。ならば毒が塗布されている可能性は極めて低い。)

空気の検査も終われば、もうこの部屋に用はない。

(あとは、端から書類を複製しなければなりませんね。)

マスターが確認するためには、この場にしか書類がない事は不都合極まりない。

マスターがいつでも確認できるようにデータとして保存し、自宅とニアに共用しておきましょう。

あとは王城に勤める者達に割り振られている私室と、マスターに割り振られる予定の部屋を厳重に調べた方がいいでしょう。

(マスターはおそらく部屋を調べ終わっていた。ならば私は王城の地図を作り、薬品の一覧や悪事の証拠でも探っておきましょう。)

王城ならば、王族が逃げるための抜け道があるでしょう。それを調べ、地図に記載しなければ。


(……ああ本当に、)


時間がない。


(マスターは事を急ぎすぎる。ここは異世界だというのに。)

マスターの感覚は、まだ地球にいたときと同じなのだろう。

今回は相手がバカばかりでよかったが、今回は情報も人脈も権力も足りない。

一番足りないのは圧倒的に時間だ。

少しでも時間を短縮しなければ。

人目がない事を確認しつつ、私は城を駆け巡る。